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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
三章

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チーズケーキとシドの秘密5

「初めまして、シド君の上司でヤノン=トラッサムだ。よろしく。君がシド君の妹さんか。……髪が短いってほんとなんだね。」


席につくとシドの隣にはお父さんくらいのおじさんが座っていた。魔法省に来て偏屈な人しか見ていないので比較的優しそうな人だった。いや、「女の子なのにその髪型って終わってる。」と言わないだけでも十分優しい。テーブルにはシドとヤノンとトマコの三人が座った。テーブルの中央には何冊かの古い本が大事そうに置いてあった。


「は、初めまして。よろしくお願いします。お、お兄ちゃんとは血がつながっていないので似てません……。」


この会話はトマコは何百回と繰り返してきた。もう、好きにしてくれよ、と言いたい。でも、先に言っておかないとややこしいのでいつも初めて会う相手には最初に言うことにしている。


「シド君と同じ戦災孤児なんだってね。しかし、あの、アーキンスの息子の婚約者なんだからすごいね。」


ほんと、なんでなんですかね。とトマコは何千回目かのため息をついた。


「トマコ、これ、読んでください。」


ヤノンの興味本位の質問を遮るようにシドは文献をトマコに寄越した。ヤノンは世間話と噂話が大好きなので付き合うと長いことをシドは知っている。


「おいおい、お嬢ちゃんには難しいだろ。」


ヤノンの声を聴いてトマコはシドの顔を見る。「果たして本気で訳していいのか。」と。ヤノンとしてみれば辞書を引いてやっとしかわからないものをトマコが分かるわけがないと踏んでいた。


「何となく……わかるでしょう?」


シドからの答えは「ぼんやりと訳せ」ということだった。


「ええと……。」


訳し始めたトマコにヤノンは口をつぐんだ。その能力は認めざる得ない状態だった。例え子供だとしてもだ。ヤノンはトマコの能力に舌を巻きながらこれで当分はネタに困らないだろうと思ったに違いない。髪を短くしたアーキンスの息子の婚約者は語学の達人なのだ……トマコは迷惑でしかないが。


「これって他人の記憶をいじる方法の魔法ってことですよね……。」


一方、ひと通り訳したトマコだがその内容には引っかかるものがあった。


「そうだな。ララジュールの文献だからな。方法が分かったところで使える奴はいないさ。」


「ララジュール?」


「幻の部族だよ。先の戦争の原因とも言われてるよな。まあ、本当にいたのかは眉唾ものさ。」


「まぼろしの……。」


「ヤノン様!」


「なんだよ、シド、伝説みたいなものなんだから。いいじゃないか、女の子はこんな物語が好きなもんさ。ララジュールってのは、この国と隣の国の境の不思議な森で暮らしている一族でな。魔法をまるで普通に使う一族なんだ。この国の最高の魔法使いのコットラン様だって足元に及ばないらしい!女の子には稀に先見の能力だって現れるってな。でも誰も見たことは無いんだ。」


「へえ……。」


「ヤノン様。トマコに戦争を思い出す話は……。」


「あ!……そうか、スマン、スマン。」


トマコが訳した内容は他人の記憶を置き換える方法が記されていた。ヤノンはただ、トマコの言ったものを固い文章に直してくれたがシドの真剣な目にトマコはタジタジだった。


トマコの心に引っ掛かる「ララジュール族」


幻の部族……


どこかで聞いたことがあるトマコ。でも、それでは……



シドは?




********


夜、寮に帰ってトマコは色々と考えていた。孤児院で聞いた話と合わせて考えるとシドは「ララジュール族」ってことになる。シドがそんな大事な話をトマコにバラしたいと思うだろうか。シスターは自分が「妹」であって、特別なんだとこの話をしてくれた。もしかしてトマコはとんでもないことを知ってしまったのだろうか。


シドに聞いていいのか?あの、血の契約を平然とするシドに?……それに、記憶の魔法だってシドが「ララジュール」なら、解き明かされた文献によって使えることになる。なんだか。身の危険をヒシヒシと感じる。


「……確かめなきゃ。」


ニールズホンネットに行って、オーレンお母さんに聞いてみよう。もしかしたらトマコの考えすぎかも知れないし。今週末に行こう。今週末はまだウルフも忙しい。そうしようとトマコは決めて布団をかぶったが、気持ちが昂ってトマコの特技はすぐ寝ることなのにその夜は眠れそうもなかった。



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