チーズケーキとシドの秘密4
その日の授業の終わりに古典文学の教授にトマコは声をかけられた。
「新しい文献が見つかってね。是非これから一緒に魔法省に行ってもらいたいんだ。」
トマコがこの世界に来て、何らかの力が与えられたとしたら、それは様々な言葉が通じ、読めるということだ。「レント」と呼ばれる召喚式で呼ばれたものは大陸を瞬時に横断する時に体の負荷がかかる代償ななのか、意志疎通の魔法が使えるようになるという。ただ、トマコが「レント」ということはやっぱり秘密だった。王女様が気まぐれで禁止された召喚式を使ったとなると大問題だ。しかも、召喚されて生きていたものは今のところいないし、異世界からというのも例がない。それだけ体に負担がかかるもので過去のおとぎ話のように「レント」は語り継がれている。そう、人間の間では。普段のトマコはシドに授業以外の言葉を使うのは制限されている。
「魔法省ですか?」
「聞いていないかな?君のお兄さんが今解読を行っているんだがね。古代語が得意な君に手伝ってほしいんだ。」
もちろん、トマコが古代語を読めるのも「レント」のおかげでしかない。
「あ……そういえば。」
シドは確か、記憶の魔法って言っていたような。とトマコは先日の会話を思い浮かべた。
「君もお兄さんの役に立てたらうれしいだろう?」
当然のようにトマコに教授は言った。シドが喜ぶことをしたいとはトマコは思わない。こうまで勝手に振り回されてそう思うのは余程だとトマコは思う。でも、だからと言って無関心ではいられない。胸の中の小さな引っ掛かりにトマコはモヤモヤする。
「西門に馬車を用意するので荷物の用意ができたら来なさい。」
教授はトマコの方をポンと叩いてトマコの先を行ってしまった。残されたトマコはその後姿を何となく眺めていた。
「行ってもいいのかな……。」
拒否権が無いのは自分でもわかるが、シドに確かめたわけでもない。嫌な顔されたら嫌だなあ、と思いながらトマコは魔法省に行く準備をした。
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「トマコ=カドーレ様。お待ちしていましたよ。教授の推薦がまさか学生でこんな小さい子どもだとは……情けない。」
声をかけてきたコットランとは前回の差し入れ事件の時以来だった。あの時はシドがいじめられていたのが露見してバタバタしていていたので顔を見たくらいだった。コットランは80近いおじいちゃんだ。白鬚でいかにも偏屈そうな魔法使いって感じ。出来ればローブを着て杖を持ってもらいたいくらいだがそこは普通のスーツを着ている。次席の魔法使いはどんぐりの背比べで魔力も今一つの者ばかりでそれがコットランが引退できない理由でもあった。
「こんにちは。」
一応来ることは知らされていたらしいのでトマコは返事をした。魔法省はトマコが思うに居心地のいいところではない。ここまで来るまでにも好奇な目に晒されたがねちっこく嫌な視線だった。これなら興味本位でもセリベートの人間の方がマシだ。コットランにしてもトマコを手放しで歓迎している態度ではないのがありありとわかる。
「コットラン殿、語彙の問題はあるがカドーレ嬢の古代語の解読力は大したものだよ。」
「……まあ、私は力のあるものは嫌いではない。役に立ってくれるならそれでいい。さあ、こちらに。シド、奥の部屋に案内しなさい。私は教授と少し話がある。」
「トマコ、こっちです。」
後ろからシドが出てきてトマコを奥の部屋に案内する。トマコはシドが怒っているのか顔を覗き見たが、そこにはいつもの冷たい顔が有って表情からは何も読み取れなかった。
「シ……。」
先日。呼ぶなといわれてしまったのでどうしていいかわからないトマコは口をつぐんだ。
「……ったです。」
「は!?」
「この間のケーキはおいしかったと言ったんです。それと、いつものように呼んでいいです。」
言いたいことを言ったシドは気まずそうにトマコを見た。ポケッとしたトマコはシドが怒っていないことに安堵して言われるがまま席についた。




