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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
三章

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チーズケーキとシドの秘密3

「それで、話ってなんですか?」


「あ、あの、こないだの誕生日プレゼント、ありがとう!」


トマコがそう言い切るとシドは手を出してきた。どうやら描いたものを見せろというらしい。トマコは慌ててペンダントロケットを開けて小さな紙をシドに見せた。


「他の人に見せてはいけまんよ。見せたら燃やしてしまいますからね。」


「う、うん。ネズミから聞いた。どうやって描いたとかも言ったりしない。」


「いい心がけです。」


「これが、おじいちゃんで、これがおばあちゃん。隣の家に住んでるの。これがお母さんで、これがお父さん。久兄はお母さんに似で私はお父さんに似てるって。お母さんの方が美人の部類だから残念だってよく言われてたんだ!失礼しちゃうよね!でも、久兄は性格が最悪で……」


「……。」


「他の人には話ちゃいけないけど、シドお兄ちゃんにはいいんだよね?」


ぽかんとするシドにトマコは自分の家族の話を続けた。トマコにしてみれば、ネズミとシドしか話す相手がいないのだから黙って聞けよ、って感じだった。とくに異世界だっていうことはシドにしか理解されていない。やがて一通り話すとトマコはシドにチーズケーキを差し出した。


「……。」


「あ、お茶入れるよ!チーズケーキって言ってね!あのね、ロマ先輩って……お菓子作りが好きな人が私の世界のお菓子を再現してくれるんだ!」


トマコの勢いにシドはちょっと押され気味だった。セリベートに入学して、シドは目標に向かってもう一度心を誓っていた。すなわち一族の復讐。一方トマコに対しての態度も改めていた。……悪者は自分であってトマコは犠牲者に過ぎないのだ。利用して、捨てる。そういう存在。決して心を開いてはいけない。


「お茶はいりません。ケーキもいらない。」


「シドおにいちゃん……。」


「呼ぶな!」


イライラとしたシドの声がトマコの声を遮った。「呼ぶな」といっても呼べと言ったのはシドなのに。


「……。すいません……用が済んだなら出ていってください。」


「あ、うん……。」


「これ、持って行ってください。」


「……。」


見せてもらっていた家族の絵を丁寧に畳み直してシドはトマコに渡した。その仕草がチグハグでトマコは少し切なくなった。ペンダントロケットにしまい直すとトマコはシドに向き直った。


「ほんとに……うれしかったんだ。誰かに家族のこと、話したくなっちゃって。ここに来てからなんか、流されっぱなしで……。」


「……。」


「あ、ありがとう……って言いたかっただけ……。」


最後はなんだか感極まってちょっと涙が出てしまったトマコ。シドは胸が大いにモヤモヤして拳を握りしめた。


「ここのところ、記憶の魔法についての文献の解読を任されていたんです。その、研究のついで、です。」


「うん。」


「……やっぱり、半分貰います。」


「うん。」


トマコの泣き顔を見てシドは折れることにした。馬鹿みたいにトマコは半円のケーキをシドに付き出したままで突っ立っているんだから。


「おやすみなさい。」


「……すみ。」


小さくトマコのあいさつに答えたシドはケーキを半分受け取ってトマコをドアの外へ出した。自室に戻ったトマコは自分用にお茶を入れてケーキを口にした。


「……そっか。」


ちょっとした自分の世界との繋がりと思えた家族の絵に興奮して思わずシドに家族の話をしたトマコだったが、配慮が足りなかったことに思い当たった。


「……悪かったな。」


シドの家族は亡くなっている。それもシドの目の前で。


「……シドお兄ちゃんって呼んだりして。」


シドも思い出したに違いない。自分の家族のこと。そう思ったらシドがトマコに冷たい態度をとったとしても怒鳴るくらいで済んだのだからシドは大人なんだと思う。


「復讐するっていうくらいだから……。」


シドは家族が大好きだったに違いない。そう思うとトマコはどうしようもなく胸が苦しくなった。自分が同じ立場だったら、きっと王様を恨んでいたに違いない。どうしてもシドを悪人には思えない。勝手にこちらの世界に連れてきたのは王女様なんだし。ほんと、この国の王様たちは禄でもない。考えながらチーズケーキを頬張るトマコはケーキの味なんかほとんどわからなかった。




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