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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
三章

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トマコの誕生日8

「じゃ、帰りますんで。…………お祝いしていただいてありがとうございます。」


今日も嫌になるほどの甘いもの責めだったウルフの私室からそろそろ帰る頃だとトマコが言う。マッサージもしたし、お菓子も食べつくしたし、もうここには用はない。


「ちょっと、まて。」


いつもならチョコッと手を上げてさよならするウルフが珍しくトマコを呼び止めた。意味もなく固まるトマコは帰りたくって仕方ないのだが無視するわけにもいかない。


「モリスンが念押ししてたからな。ペンダントを出せ。」


ウルフが手を広げるのでなんだかわからないトマコは返品可能なのだろうかと思いながらペンダントを箱から出してウルフの手に落とした。


「後ろ向け」


向いたら撃たれる!な気分だが、ギコギコとトマコはウルフに背中を向けた。しばらくして首にチリリと冷たい感触とコトンと重みが感じられた。トマコのうなじで留金をつけながらウルフは思わずその細い首を指でなぞった。


「んぎゃ!」


当然ながら驚いたトマコからは変な声がでる。その声で我に返ったウルフは軽くトマコの肩を押した。


「もういいぞ。」


「あの……。これ、いいんですか?」


トマコは振り向いてペンダントを掴みながらウルフを仰ぎ見た。トマコが正確にウルフに言いたかったのは「あの、ウルフ様の絵姿に畏れ多くも愛しいトマコまで書いてるペンダントなんて私がつけていいんですか?」だったが、まあ意味は伝わっている。


「モリスンが用意したんだが……思っていたより骨を折ったようだ。ここに来るときは目に留まるようにつけてやれ。……外ではいいから。」


「……わかりました。……なんだかありがとうございます。」


意外に部下想いらしいウルフの言葉だった。ウルフは一時期やつれたモリスンを思い浮かべていた。開けなきゃ可愛いし、いいか。と諦めて頷くトマコ。なんだかんだトマコだってモリスンにはお世話になっている。


ポス!


音がしてトマコはその先を見た。ウルフが何でもない様にペンダントが入っていた箱をゴミ箱に捨てていた。可愛い包み紙と共に……くしゃっとするとか信じられないトマコ。


「う、ウルフ様!」


「?なんだ?」


文句は言えないので名前を呼ぶだけに留めたトマコはちょっと大人の階段を上ったのかもしれない。……黙ってゴミ箱に拾いに行くことにした。


「……箱もかわいかったので……。」


「ああ。」


「あれ?」


リボンのついた箱と包装紙を回収したトマコはゴミ箱に刺さっていた模造剣を見つけた。


「これって……!い、いらないんですか?……いらないんですよね?」


なによりトマコの身長に合っていて短いし、軽いし、何よりも実用的なサイズだ。今の練習用なんか携帯して戦いに出たって剣の重さでばててしまうに違いない。


「……。」


「あの、授業の練習用にしたいのでもらってもいいですか?」


なんとかして、これが欲しいトマコ。だって、自分いぴったり。まあ、トマコ用にそろえたんだから当たり前なのだけど。


「持っていけ。」


「ありがとうございます!やった~~!!!」


大事そうに胸に模造剣を抱いて喜ぶトマコを見て、ウルフはちゃんと用意してやったら良かったと後悔した。




*******



「はふぅ~。」


学園の寮部屋に戻ったトマコは大事そうに模造剣をテーブルに置いてからパンパンに膨らんだ胃を押さえてベットに仰向けになった。食べてすぐ寝ると牛になると母は言ったが、今は無理!と開き直るトマコ。


「おっ!いいもん首からぶら下げてんじゃないか!なんだ?ウルフに貰ったのか?」


目ざとく光物に寄ってきたネズミが言った。ホント、根がヤンキーよね、とトマコ。


「ふふ~ん。この鳥はポポロじゃないか!うっはぁ、一生つがいになった相手に尽くす鳥だぜ!愛されてんなあ!トマコ!ぶっはあああああ!」


「……。」


お腹を抱えて笑うネズミを見ながらいらっとするものの、トマコは指一本動かしたくはない。重い、この心重い感じがモリスンクオリティ……。ねずみよ、せめて中身の追求だけはしてやらないでくれ。


「トマコ、誕生日おめでとう。」


「え!?」


ひとしきり笑ったネズミは小さな淡いピンクの石をトマコの手のひらに乗せた。


「……な、なんか、ありがとう。」


途端、トマコは自分の誕生日だと自覚する。思わず体を起こしてネズミに向かって正座した。ネズミは照れたようで後ろを向いて尻尾をゆらゆらと動かした。


「綺麗だね。」


「中に妖精が入ってんだ。上手く成長したら可愛い声で歌うんだぜ。」


「なんか、すごいね。ありがとう。」


「まあな。あ、それと、これ……。」


「なに?」


ネズミは棚の隙間から茶色の紙袋を取り出した。トマコが中から開けると一本のペンと5センチくらいの紙が出てきた。


「これは?」


「シドから……。自分が思い描くものを念じると書いてくれるペンだ。このくらいの大きさまで何でも描いてくれる。お前が欲しがってた家族の絵も描いてくれる。……でもな、どうやって描いたとかを誰かにしゃべるのも、描いたものを人に見せるのもだめだ。俺にはいいけどな。」


「……。」


「俺、ちょっと今夜は出かけて帰って来ないから。ゆっくりしな。」


「うん……。」


そういってネズミはトマコ元を離れた。部屋を出るときに一度振り返るとトマコはペンと紙を持ったままの姿勢だった。


ーーみんなどうしてるかな……帰りたいよう。



何度トマコは布団の中で泣いていただろう。少なくとも数度泣いていたのをネズミは見ている。

シドにも思うところがあったのだろう、1日2日では出来ないあんな繊細な魔法の構築に大変な時間をかけて。そんな魔法が存在するのがバレては困る危険を冒してまで。


数日後、ネズミはトマコにこっそりトマコの家族絵を見せてもらった。小さな紙の中にぎゅうぎゅうと目いっぱいに5人の家族が笑っている絵だった。皆がみんな幸せそうに笑っていた。


笑っているところがトマコらしいとネズミは思う。


「絶対秘密だからね!」


そう言ったトマコはウルフの姿絵の上に小さくたたんだ家族写真を押し込んでロケットの中にしまい込んだ。そんなトマコをネズミはまた、カワイイな……とか思ってしまうのだった。



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