トマコの誕生日5
さて、ホトホト困り果てたモリスンをよそにトマコはちょっと得意げだった。
何の努力もしていないのに任務遂行とはなかなかやりおる、私。ってなもので。その日のウルフ私室行脚は足取りが心なしか軽い。そして、この部屋の主、ウルフも数日でトマコの誕生日という名目のおやつ三昧を思えばすこぶる機嫌が良かった。
「こんばんは~。」
「おう。来たな。」
先にウルフが部屋にいるのも珍しいのに「おう」って、友達かよ。と突っ込みたいが、特にそれに対してトマコの思うところはない。……興味もないのだろう。
「実は、わ…ボク、マルタイと接触成功いたしました!」
ちょっとテンション高めのトマコはちょっと専門用語を使ってみた。捻って出たのが「マルタイ」って火曜サスペンスの賜物でしかない。
「?そんなやついたか?」
「ロマ=チュランプさんですよ!」
「ああ、接触ったって……今頃?お前、同じクラスだったろう?」
「……。まあ、それは、置いといて。」
「……。」
いきなりのウルフの切り返しにトマコは黙ってしまった。お手柄がお手柄じゃなかったなんて!……イヤイヤ、同じクラスだって教えなかったウルフも言葉が足りないけど、トマコがぼーっとしてただけだから……。褒めてもらおうなんてまで思ってもみなかったトマコだが切り返されるとは思っていなかったので「墓穴ほった!」感が半端なかった。冷汗が出てきて押し黙ったトマコに声をかけてきたのはウルフだが……。
「……じゅ……授業にはついていけてんのか?」
取りあえずウルフにしては気を使って会話してみたものの、思いつく会話がこれしかなかった。残念!
「ええ?あ、あの、その……う、……。」
トマコも頭真っ白で、しかも毎日の体力作りでヒーヒーいってるもんだから、ついていけてるかって聞かれたら胸を張ってついていけてないとしか言えない。しかし、言えるか?ウルフに?トマコが?……無理だろう。と、いうことでトマコはちょっと言い訳めいたことを言ってみることにした。
「いや、あの、その、ほら、みんな年上だし、男の子だから体もおっきくて!ボクには模造剣とかってのもおっきくて持ち上げるのもやっとでして……。」
「……そうか。」
はは、はははと乾いたトマコの笑いが室内の空気をいただけない感じにしてしまった。うん、トマコ、ドンマイ。
「その、今日行ったロマ=チュランプさんのお店のお菓子たちです!」
ケーキの入った箱をウルフの前に差し出し、ウルフもそれを受け取った。パッと見わからないが少し口の端が上がるのを見てウルフが喜んだのがわかるとトマコはほっと胸をなでおろした。
「ロマ=チュランプは研究熱心らしいからな。お前の居た地方の菓子の話を聞けば色々と作ると思ったんだ。」
そういうことなのか!?っとトマコはやっと納得した。が、ちょっと疑問がわく。
「でも、あの人、ボクと同じって軍人コースですよね?ケーキ作るのに??」
「チュランプ家といえば王室御用達の菓子屋だ。国の幹部の子が揃うセリベートに何とか息子を入れたかったんだろう。そういう伝手狙いの奴も偶にいる。そうするとおのずと男なら魔法の才が無ければ軍人コースだ。」
「はあ、なるほど。」
そういえばトマコが言った「チーズケーキ」という言葉に反応していた。
「なんか、チーズケーキについて話がしたいといわれました。」
「チーズ?旨いのか?」
「めっちゃ旨いです!」
「……前に言ってたプリンってのは?」
「ああ!プリン!おいしいですよ~ぷるっぷるのねえ~。」
「それも話しとけよ。」
「了解です。」
トマコがいえっさ~とジェスチャー付きで言うと、すでに箱の中身を食べ終えたウルフが寝台にうつ伏せで倒れた。これ、いつものマッサージをしろとのサイン。アウンの呼吸でトマコも寝台に上がり、ウルフの背中に乗りかかる。凝ってますね旦那、と言いながら肩甲骨に沿って親指を鎮めるトマコはプリンってどうやって作ってんのかな、と怪しい自分の記憶を手繰り寄せていた。




