いざ学園へ8
トマコが向かう教室は文武両道クラス。ランクが上だとか下だとかは関係ないひとつしかないクラスだともいえる。花嫁修業兼執事コースは女子がほとんどでSランク、AランクBランクの3クラス。後は魔法の勉強をするのやや男子の多いクラスがS、A、B、Cの4クラスある。C、Bクラスから始まり、一年ごとにランクが上がるシステムでだいたいの年齢は似たり寄ったりだが出来不出来で多少の年齢差もあった。
トマコのクラスは同い年は少ない。アランをいれてトマコと二人だけだ。2歳上くらいが一番多くしかも女子が居なかった。当たり前だこの学園で女の子が「武」なんていらない。このクラスはカリキュラムが終了すると軍人コースとなる。すなわちウルフの部下直結だ。
「うへえ。」
教室に入ったトマコが真っ先に口にしたのはこの言葉だ。だってさ、ムサイ、クサイ。なんか、獣の匂いがする、とトマコは顔を顰めた。
「僕のコロン貸そうか?」
ちょっとだけ態度が軟化したアランがトマコを見て気の毒そうに言った。しかし……。
「ケッコウデス……。」
甘ったるいアランの香水は加齢臭の混ざったおっさんより始末が悪い匂いだった。アランはトマコの返答に不服なのか片眉を上げたがそれだけに留めた。担任の先生が入ってきたからだ。担任も筋肉隆々の毛モジャの生き物。問えるなら幻のイエティ。溜息しか出ない。
「トマコ=カドーレ。前に来て自己紹介を」
そう言った先生はトマコを教室の前にやった。見渡せばマッチョな軍団にトマコはお腹いっぱいだ。思い起こせばウルフの屋敷も十分むさ苦しい。
「トマコーカドーレです。よろしくお願いします。」
トマコがそう言うと「ちっちぇえ!」「女みてー!」「馬鹿、女だよ!」「あれが、ウルフ様の!?」とか聞こえてきた。なんだかメンドクサイ雰囲気にトマコは意識を飛ばした。
「知ってのとおり、彼女?はウルフィファル=アーキンス氏の婚約者だ。丁重に扱う様に。」
ちょっとまて、彼女のところが疑問形だったよな?しかも公認かよ、とトマコが先生を見上げると同時にトマコは大きな手に押し出されて元の席にもどった。
「やっぱり、おかしい。」
婚約者のままじゃないか。とトマコは青ざめる。した覚えがない。なのにおかしい。しかも何この野獣集団。可愛くないしと涙目のトマコ。明日はあるのか!?いや、きっとある。ガンバレトマコ。
机に突っ伏したトマコに朗報が舞い込むのは数時間後のお昼の時間だった。
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全寮制なので全校生徒の食事はクラスごとに食堂でする。一度に4クラスずつが前半後半に分かれるシステムだ。トマコはここだけは譲れないと無理から昼食だけはヘレナと一緒に取ることにした。ヘレナはか細い声で嬉しがり……トマコにはそう聞こえたし、そう聞こえたと思いたい。これまた嫌そうなアランと一緒に三人で食事を取ることになった。そこで、あの美女に再会したのだ。
「ウルフ様の婚約者を名乗っておられるそうね。フン、ずうずうしい。しかも、なあに?別人じゃない!?」
え、と誰だっけ。と一瞬アランとヘレナに視線を合わしたトマコの灰色の脳みそに火が灯る。ピコーン。
「ああ、パーティの時のひと!!」
美女は怒りの形相でトマコを睨むが学食なのでなんとか怒りを飲み込んで取り巻きの前に立っていた。
「マーガレット=オブズウェルよ!覚えときなさい!あなたの最大のライバルだとね!」
「ウルフ様の横に立つのに相応しいのはマーガレット様よ!」
そうよそうよと取り巻きたちもはやし立てる。昼食が冷めるのが嫌なトマコは気にせずモグモグしてその
様子を伺っていた。一呼吸おいてアランとヘレナもトマコに習って食べ始める。だって、時間になったら教室帰んないといけないし、とトマコ。
「馬鹿にして!!」
キーっとなったマーガレット嬢はトマコの皿を叩いた。トマコのパンは飛び上がって宙を舞うが吸い込まれるようにトマコの片手に収まり、トマコは気にせずそれを食べた。その、飄々とした態度に食堂に居た誰もがトマコが大物だと悟る。威圧感半端ない親子で鍛えられた食い意地のはったオサルに過ぎないのだが……。
「ど、ど、どうせ、この学園に在籍している間は結婚なんて出来ないのですから、勝負はこれからですわよ!」
「……。」
負け犬の遠吠えとアランが呟くも、その言葉はトマコには神の福音に聞こえた。
「在籍中は、結婚無し!?」
嬉しさのあまりトマコはアランの襟元をユサユッサ掴んで振った。
「オエェエエ。」
……吐きかけたアランがトマコの頭を殴ったのは仕方のないことだった。




