いざ学園へ3
「こちらはアラン=シュノーベルくん。トマコと同い年よ。えっと……ちょっと言いにくいいんだけどトマコちゃんのルームメートになるの。」
「ええええ!?え、と。男の子、ですよね?」
「そうなのよねえ。でもね、トマコちゃん。マレノはアランくんにトマコちゃんのボディガードもさせるつもりだから仕方ないって。ウルフの婚約者だからね……。それに、アランくんは女の子には興味ないからってね……。だ、大丈夫よ!女の子のルームメイトももう一人いるから!」
メヌエット母は気付かいながらアランくんとやらを見た。アランは大丈夫ですよという様に天使の笑顔炸裂で答えた。
「ええ。私もウルフ様のように女性は苦手なんです。もし、トマコさんが僕に「女」を感じさせたら僕、何するか分かりませんけどね。でも、大丈夫そうです。」
アランの後ろに「ゴートューヘル」的な禍々しいものが見えてトマコ、ガクガクブルブル。あまりの威圧感にメヌエット母も「私もヤバい?」的な雰囲気になっていた。
「ご心配なく。僕は性的対象に「女性」を求めていないだけで、ウルフ様みたいに実害はありませんから。」
ニッコリとメヌエット母にアランは言ったが、ここでトマコは早くもアランを変態認定させてもらった。
「そ、そして、こちらが女の子のルームメイトのヘレナ=ロトウッドさん。実はアンヌの従姉のお嬢さんなの。もちろん、同い年よ。男装しててもトマコちゃんは女の子だから色々相談する女の子が必要だと思って頼んだの。」
「…………です。」
「はっ!?」
蚊が鳴くってこのことか!ってな感じの超音波に近いほどのか細い声に反射的に反応してしまったトマコ。声が小さすぎて思わず聞き返してしまって申し訳なさ全開。バツが悪い。
「……ヘレナです。」
「と、トマコです!女の子のお友達なんてうれしいです!」
「……~~。っ……。」
初対面で何度も聞き返す勇気が無かったトマコは笑うしかなかった。
「間抜けな顔……。」
すかさずアランからトマコに先制攻撃。なぜか、アランは好戦的だしヘレナはなにかと物陰に隠れたがるしでトマコは途方にくれる。
「さあさ、お茶でもしましょう!」
仕切り直しとメヌエット母が声をかけるがその場の雰囲気は暗黒空間だった。
*****
お茶会が終わると各自解散でほっと一息。だって、ほら、お茶をすする音しか聞こえないお茶会なんてどんな罰ゲーム。トマコはどっとつかれた。このままベッドで突っ伏したいほど。でも世の中そんなに甘くない。
「トマコちゃん。ウルフがお待ちかねらしいわ。ほら、学校に入るまでは毎日会いに来るようにって。ほんと、ちょっと遅れるだけでお使い出すんだからウルフも困った人ね。」
そう言ってお菓子の箱を持たされたトマコの肩はがっくりと落ちる。また拷問の様な緊張感の中で甘いものを口に詰め込み、感想を言わされるのだ。重い足取りで玄関から車に押し込められるとトマコはウルフの元へと連行された。
******
「いいか、こいつだ。しっかり覚えろ。」
ウルフの私室にトマコが入ると俺様なウルフは聞く耳持たずにトマコに一枚の写真を見せてきた。その写真は白黒で色は判らないがキツネ目の少年が映っていた。
「これが?」
「セリベート学園に在学中のロマ=チュランプだ。17歳。接触しろ。」
「せ、接触う?」
ウルフはそう言うと写真をトマコに渡した。裏を見るとご丁寧に名前と簡単な説明書きがあった。なんだ?この私にスパイしろと?トマコは眉をしかめる。
「いいか、上手く取り入れ。」
「と、取り入る?」
自分がどんなに平凡なのか知ってて言っているのだろうか?絶世じゃなくとも美女でもないのに?しかも男のかっこした変でしかない女が4つも上の見知らぬ男の子に気に入られる自信なんてない。無理無理。
「いいか。俺がこいつに取り入れって言った事は秘密だ。しゃべんなよ。他にばれたら只じゃおかねぇ。」
「や、でも、わ、私、む、むり!」
「ああ、それから。お前、「私」って使うな。そ~だな~。「僕」だ「僕」。そら、練習しろ。」
「は!?」
「言ってみろ。」
「あ、え~と……。ぼっ……ボク。」
トマコがそう言った瞬間、なぜかウルフが真っ赤になった。恥ずかしいのはこっちなんですけどってトマコ。ウルフは長い指で口を覆う様にしてから向こうを向いてしまった。その瞬間トマコはどこにあるか分からないウルフの笑いのツボに嵌ったのだと確信してムッとした。
「今日は、帰っていいぞ。」
少し経ってからウルフはトマコにそう言い放った。呼びつけたくせにとトマコはぷりぷりしたが長く居座ってもろくなことがないのは学習済みなので早々に退出することにする。お菓子の箱をウルフの机に置いて(ほんとは乱暴に置きたかったがチキンなのでいつもよりはくらいの感じで)ウルフの私室を出る。
「自分で言わせたくせに。」
何なんだろう!あの人。ほんとむっかつく。とトマコは肩で風を切りながら玄関に急いだ。いつもよりトマコの早い退出にモリスンは泣く泣くカレンダーに三角をつける。
そして……
「なんだ?これ?」
ウルフは自らの唇を長い指でこすりながら得体の知れない感情に耳まで真っ赤にしていた。




