増えるトマコの家族9
ズッパーン……
「すっげぇ!」
「と~ま~こ!と~ま~こ!」
次の日、朝も早から朝食前の草野球(に似ている遊び)の試合が始まっていた。当然、トマコはエース。マウンドの上で輝いちゃっていたりする。その剛速球に誰一人として打ち返したものはまだいない。バットというよりは棍棒のようなものを握りしめた子はその球の速さに呆然としていた。
「かっこい~~!!」
その姿に女の子はため息。男の子は目を輝かせた。久しぶりに体を動かせられたトマコも楽しくってしょうがない。いつしかゲームは「だれがトマコの球を打てるのか」みたいになってしまっていた。
「サージがダメなんだもん!もう誰もトマコは負かせれないよ!」
数十球と投げたトマコが額の汗をぬぐったとき、5回目の挑戦をしていた一番運動神経がいいと言われていた男の子がその言葉で棍棒を地面に置いた。
「さて、朝食に行こっか。」
トマコがそう言って皆で建物に入る筈だった。
「打ってあげます。」
棍棒がシドに拾い上げられるまでは……
*****
カキッ
「はあ、はあ。」
トマコの目の前にはシド。いつもの涼しげな顔はなんのその、のシドである。
「いい加減、止めようよう。」
トマコがそう言うもシドが構えるので止められない。しかも手を抜いたらいいのにトマコはそれを出来ないでいた。勝負は勝負。負けてやる義理もない。さっきからシドはファール続きである。
「わかった。3回勝負。も、私投げらんないもん。」
その言葉にシドも頷く。なんだ、最初っからそうすりゃ勝てたのにとトマコちょっと後悔。
段々見飽きてきたギャラリー(子供たち)もその言葉で気が引き締まったのか唾をゴクリ。
ザシュ
トマコが振りかぶる。渾身の力で投げた第一球はストライク。
ニヤリと笑ったトマコにシドが睨み返してきた。トマコは息を短く吐くと返ってきたボールをまた構える。
ザシュ
カキッ
二球目はシドが上手く球を捕らえてきた。ボールは大きく跳ねあがったがファールで終わる。
今度はお互いに満足げに見つめ合った。「ヒョロヒョロしたもやしっ子だと思っていたのに。」とトマコは感心した。意外なシドの一面に驚く。
「カドーレ夫人が到着されたわよ!」
あと、一球で終わるのをちょっぴり寂しく感じた二人の耳にオーレンの声が届いた。
「え~っ」
子供たちが残念そうに声を上げる。シドはその声で我に返ったのかいつもの大人しい顔に戻って棍棒を片付けた。慌ててトマコもボールを片付ける。ボールを片付けてトマコはシドに追いつくと思い切って声をかけた。
「勝負は、お預け……だね。」
その言葉に一瞬驚き顔だったシドはまたいつもの顔に戻るとトマコに片手をちょこっと上げた。それを見たトマコはちょっとだけシドとやって行けるような気がした。
******
メヌエット母とオーレンの話はすぐに済んだ。本格的にシドとトマコを養子にする手続きもついで進められていた。オーレンはシドがどんな素晴らしい子かを演説しトマコはちょっとげっそりした。どうもオーレンはシドを崇めているような節がある。メヌエット母はニコニコして聞いていたが。
「トマコお姉ちゃん!また来てね!」
「トマコ!今度、投げ方教えてくれよ!」
帰り際、大勢の子供たちがトマコ群がった。まさに砂糖に群がる蟻のようだった。
「わかった!わかったから!」
一泊二日の滞在だったがニールズ・ホンネットはトマコにとって馴染んだ場所になった。子供たちは皆働き者だったし、ちょっと臭うがいい子たちばかりだった。そう考えるとオーレンがきちんと躾けているのが良くわかる。子供たちにとってシドは「先生」でトマコは「ヒーロー」だった。ここに来てみてシドの意外な一面を見ることが出来たのがトマコの収穫だったのかもしれない。なんの収穫だかわからないが。メヌエット母とオーレンが話しているのを聞けばシドの給料のほとんどはこの孤児院につぎ込まれていたし、カドーレに行く前は休みの日は必ずここへ来て子供たちの勉強を見ているようだ。只のええ恰好しいだけではきっと出来ない事だとトマコは思った。
帰り道オーレンと子供たちに見送られながら馬車に乗ったトマコに隣に座ったメヌエット母が手を重ねてきた。メヌエット母はトマコとシドがここで育ったと疑っていなかったのできっと心づけるためにそうしたのかもしれない。その手の暖かさにトマコはこの世界で初めて自分の居場所を見つけたような心地になった。
意地悪で冷たいのに気になるシドと。
大きいくせに気の小さいサムスンと。
ホットミルクみたいにあったかいメヌエット母。
静かで穏やかなミハイル父。
トマコをお姉ちゃんと呼ぶ子供たち。
生意気なポケットの住人。
思い浮かべてなんとなく穏やかな気分になれたトマコはそっとメヌエット母の手を握り返してみた。
……おいおい、ウルフとマレノの立場は。
ま、いっか。




