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そしてサーカス団3

ああこれはもう死んだな……

心のどこかで諦めたトマコはデッキブラシを放り投げて逃げ出そうとしていた。そんなトマコに諭す声が聞こえた。


「おい、あいつは見た目より大人しいんだ。さっさと綺麗にしたら何もしないさ。」


見た目よりって何さ。見た目マックスだったら普通に暴れるんじゃないのか。とトマコは姿の見えない声に反論したかった。でも、トマコが目を凝らそうが声の人物は見当たらない。


「もしかして、メサイヤさんが遠隔操作で見張っているんじゃ……。」


「しただ、したを見ろ!」


思わず顎を出して自分の舌先を見てしまったトマコを誰も責めないでやってほしい。


「足元だよ!」


やっと自分の体の下から声が聞こえてきたんだと理解したトマコは自分のスニーカーの傍に黒い影を発見した。


「ね、ネズミ……もどき?」


姿はトマコの知っているネズミにそっくりだがこちらも素直にネズミなだけでなく、黄金の鬣をもったネズミだった。


「もしかして呪いをかけられた王子様とか?」


期待を込めてトマコはやけっぱちで聞いてみた。すると、ネズミは呆けた顔でトマコを見つめた。


「お、なんで知ってる。」


うそ、マジで。と思ったトマコもネズミもどきをじっと見つめた。うん、少し汚れてはいるが元の姿に戻せるならキスくらいしてやってもいい。そう思ったトマコはネズミもどきを手の平にのせた。ネズミもどき……いいや、めんどくさい……ネズミはくんくんとトマコに鼻を揺らしながらトマコの顔に近づくのを待った。


「ぶほっ!」


鼻の頭同士がかすれるほど近寄った瞬間トマコはネズミを手のひらから放り投げて涙目で叫ぶ。


「くっ、くっさ~~っ!!!!!」


「お、お前、なんだ!?いきなり!ビックリするじゃないか!」


放り投げられたネズミが不満を爆発させていたが、トマコはもげそうになった自分の鼻にとにかく別の空気を取り込むのに必死だった。


「だって、殺人的な臭さだし!」


「……ん!?ああ。生まれてこの方水浴びさえしたことないからな。」


エッヘンと威張るネズミを見て、こいつ、ぜったい王子なんかじゃないとトマコは確信した。しかも久兄のお尻の穴から漏れ出た恐ろしく生臭い空気の数十倍は臭い。ちなみにひさしとはトマコの2つ上の外面の良い兄である。トラウマになりそうだとよろよろとトマコは立ち上がると目の前の生き物が焦れたようにドシンドシンと足踏みした。途端、床がその振動で揺れる。


「さっさと掃除してやれよ。怒らせると火を噴くぞ。」


その声にトマコはサッと青くなった。思いっきり火を噴いても可笑しくない。急いでデッキブラシを取りに行くとバケツの水をぶちまけて檻の外からゴシゴシやってみた。


「あれれ。」


やってみると意外にきれいになるので楽しい。しかもゾウも黙って体を移動させて協力するもんだから思ったよりもスムーズに事が済んだ。


パオ~~~ン


喜ばしついでにゾウの背中にも水をかけてやった。だってゾウは水浴びが好きだしとトマコはもどきだっていうのに思い込みだけで水をかけてついでに床を磨いたブラシでゴシゴシやった。


「すげえな、お前、カッシードが喜んでる。」


そこで足元のネズミを見るとトマコは無言のままネズミをバケツに突っ込んだ。隣に居るだけでこんなに臭うのは居た堪れない。


「臭い!臭すぎる!」


「がぼっ。助けて!人殺し!」


適当に置いてあった液体はトマコの期待通り石鹸だったようでモガモガと泡の中で小さな生き物がもがいていた。そのあまりの臭さにトマコは無言で時々ネズミをデッキブラシでバケツの中に戻す。


「このままってないよね……。」


だんだんと寝ても覚めない夢になってきたことを実感してきてトマコは急に絶望的になってきた。


「でも……。」


なに、この空気。

泣ける感じがしない。


ゾウがトマコのデッキブラシの感触をワクワクと期待した目で見つめているし、バケツの中で臭い生き物が騒いでいる。この奇妙な世界に突然落とされたとしてシリアスなものが無い……。トマコは完全に泣けるタイミングを逃してしまっていた。



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