増えるトマコの家族6
「来るなら来ると言っておいてくれませんかね。」
一連の事が落ち着いたときにシドがトマコに言った言葉はこれだった。トマコだってなにも驚かそうとしようとしたわけじゃあない。まあ、ちょっといびられてるのが見たかったので黙ってきてしまったが。
「ニールズ……から手紙が来たっていうから。」
ニールズの名前がでてシドはちょっとだけ眉を動かした。ちゃんと名前を覚えきれなかったトマコはその視線にハラハラしたがシドの視線は隣のサムスンに一瞬移ってトマコに戻って来ただけだった。
階級社会の底辺だったシドがカドーレの養子になって面白くないあの三人。もちろん今までだってコットランのお気に入りの天才児っていうので虐めてきたがさらに面白くない。三人は後ろ盾が大きい所のボンボンだったのでシドもなるべく波風経たない様にして遣り過ごすしかなかった。魔法省には行き場がない三男坊以降がステータスの為に受け入れられているような状態。まさに石を投げれば三男に当たる。もちろんシドをいじめていた三人も例外に有らず。ようするに厄介者が多い。しかもシドはトマコのオマケの養子なのだからいざとなったらカドーレは守ってくれないだろうと予想していた。だからシドも日頃から注意していたけど、どう頑張ったって15のシドに出来ることなど知れている。もしもトマコが来ていなければあのままシドは散々な目にあっていただろう。けれど素直にトマコにお礼を言えるようなシドではモチロンない。
「……。」
で、無言で終了。
覗き見みたいなやましい気持ちで来たのがいけなかったとトマコもシュンとした。トマコだってシドが三人の大人に一方的に苛められる姿なんて見たい訳じゃなかった。そんな頭に耳が生えていたらへにゃっとなってそうなトマコを見てシドはトマコの頭を撫ぜた。その動きがあんまりにも優しかったのでトマコはうっかり涙が出そうになった。
「俺、お前たちが兄妹なんて嘘くさいって思ってたけど本物だったんだな。」
二人の姿を見てサムスンがそう言った。その言葉に反応したシドは事もあろうか強めにトマコの頭をはたいた。
「いてっ!」
私がなにしたって……。眉間にしわを寄せたトマコだったがトマコがシドの姿を捕らえた時にはもうシドの背中しか見えなかった。「お尻、イテェ。やっぱりヒドイ。」とトマコは恨めしげにシドの背中を眺めたが、シドはトマコの頭を撫でた手を不思議な思いで眺めていた。
*****
ニールズ・ホンネット戦災孤児センターは魔法省から馬車で半日のところにあった。山道という事もあってカドーレが用意したのは馬車である。普段から当たり前のように車を使うアーキンスとは格が違うというのもあるのかもしれない。
ちょっとした田舎で下水が整備されていないのか近くに牛舎があるのか、たい肥のような匂いがしていた。古い教会を増築したようでところどころの煉瓦が今にも落ちてきそうな建物。子供の元気な声だけがやたらと聞こえる。建物の前にあるだだっ広い土地で子供が40人ほど走り回っていた。
サムスンは養子とはいえカドーレを名乗るものに手を上げたことを思い知らせると言って魔法省に残った。もとより孤児院には付いてくる気は無かったようで手配されていた馬車はさほど大きいものではなかった。早々に合流するはずのメヌエット母もシドの事件を納めるべき魔法省へと向かってしまった。……結果、トマコはシドと二人での訪問になってしまったのだ。
「取り敢えず、こっちへ来てください。」
馬車が付くと従者が馬を付けている間に素早くトマコはシドに小部屋に押し込まれた。
「これが話していたトマコです。書類はきちんと揃っていますか?」
「はい。これを。」
仲にはちょっと年老いたシスター張りの(シスターなのだが……)女の人がいた。トマコがイメージする孤児院の主人にふさわしい風貌だったがトマコが思っていたよりは不安げな優しそうな人に見えた。
「こんにちは。トマコちゃん。私はオーレン。ここの子供たちの面倒を見ているの。よろしくね。」
「あ、よ、宜しくです。」
オーレンジ……年上の女の人は柑橘系が多いなオイ。と脳内変換のトマコ。レモンの事がちょっと頭によぎったらしい。
「トマコ。設定上、オーレンの事は「お母さん」と呼んでください。貴方はここ育ちになるんですから。」
シドが偉そうにトマコに言い切る。くるくる巻いてある紙には年表と出来事。一番上にトマコ暗記表とある。
「ちょっとまって。覚えられる単語は少なくでお願いします!」
「そう言えばニールズ・ホンネットも覚えきれてなかったですね。……単細胞。」
「うっ。」
それからシドの地獄の特訓が始まった。途中頭がパンク状態になったトマコの訴えはシドが魔法で出した青い炎で一掃される。半泣きのトマコに楽しそうなシド。オーレンは二人の様子を驚きを持って見つめ続けることしか出来なかった。




