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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
第二章

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増えるトマコの家族1

トマコ達が養子になってから1週間ほど経った。カドーレ夫婦に気に入られようと言わずもがなシドは品行方正だった。そんなシドには立派な仕事があり、トマコはぷー。勉強時間以外はぶっちゃけ暇でしかたない。


「トマコちゃん、暇なら一緒に行くか?」


だからこんな誘いに即答でハイと答えた。


誘ったのはミハイル=カドーレ。カドーレ家元当主は物静かで「釣り」が趣味だ。トマコの様子にミハエルはちょっと不思議顔。誘っといてなんだけど思春期真っ只中なお年頃のトマコが「釣り」についてくる自体信じられない。一方トマコは父親としょっちゅうさびき釣りに防波堤に行っていたし、ゴカイ(釣りの餌:モンスターみたいなミミズ似の虫)も平気で千切れる。トマコにとって釣りは夕飯のおかずだったし、あの竿の振動は本能が揺さぶられるものだ。


途中、店で餌を購入したミハエルはトマコと防波堤の上に二人で腰を下ろした。王都の運河沿いの道を30分ほど行けば釣り場が有るので趣味で通うのにとても便利だ。



「トマコちゃんはなんていうか……豪快だね。」



無表情でぎーぎーと断末魔をあげる釣り餌の小型モンスターを針に付けて行くトマコを見て義父となったその人はトマコにそんな感想を述べた。ミハエルにも不思議生物として認められたに違いない。この際突っ走るしかないかもしれないなトマコ。だってそのモンスターの顔が半端なく怖い。


考えてみればトマコってば女の子が通る王道っぽいものを知らないかもしれない。ちょっとばかし上手かったから田舎のソフトボール部でエース。おしゃれも何も朝から朝練だったし、弁当も父親並みの大きさが二つ。間食用とお昼用。帰りは皆とパンをかじっていた。クラスの子がリップを塗ってスカートを短くしていたのにトマコは楽だという理由だけでスカートの下に体操ズボンを着用していた。


マレノの力が及んでいるらしいトマコは普段着もスカートなどは穿かせてもらえなかった。動きやすいと得に不満もないトマコも何も言わない。メヌエット=カドーレ……トマコの義母はちょっと残念そうだったが。



「トマコちゃん……。」



ーー嫌なら断っていいんだよ。とその言葉はミハエルの口から出ずに終わった。冗談ぽく誘ったら意外にも付いてきたこの娘はズボンに長靴といういでだち。「女らしくしたら殺す」と預かるときにマレノに念を押されたのも記憶に新しいが年頃の娘にこれは無いとミハエルは心の中でトマコに謝っていた。


「私の釣った小さいのはから揚げにしてもらおうかな。」


その日はミハエルが大物を1匹。トマコが小さいのを5引き釣っていた。大物以外に興味のなかったミハエルは小物を逃がしていたのだがトマコがそれを残念そうに見ながら何も言えないのに後になって気付いた。


「次からは全部持って帰ろう。家族が増えたんだから。」


嬉しそうにクーラーボックスを覗いているトマコにミハエルはそう声をかけた。

教えることもなくミハエルがするのを見ただけで釣針をセットして迷うこともなくモンスターを千切るトマコ。もちろんトマコは単に慣れていたに過ぎない。しかしミハエルはこの子を娘にして一番得したのは自分かもしれないと口元を緩めた。



*****




「今夜はサムスンが来るの。貴方達を紹介するわ。」


朝の清清しいテーブルを前にしてメヌエットがトマコとシドに言い聞かせるように言った。


「サムスン……て誰ですか?」


不思議がるトマコにシドは呆れた顔をしていた。だって知らないものは知らないんだよ。とトマコは睨み返したがその時にはシドはもうトマコを無視していた。


「息子よ。貴方のもう一人のお兄様になるわ。シドくん、今日は早く帰ってきてね。魔法省にはこちらから連絡するわ。」


「分かりました。」


朝食は「家族で」と夫婦とトマコとシドは毎朝4人でテーブルを囲んでいた。それに合わしてなのかここに来てからはシドも少し早いくらいで出勤している。シドの態度にまたムッとしたトマコだったが夫婦の子供ってどんな感じかなぁと想像しながら食事を終えた。出来るだけシドとは関わりたくもないと思うトマコは最近シドに腹を立てると違うことを考えることにしている。



しかし……


「おい。」


「なによ!?」


「私は仕事に行くんですよ!?」


「……。……いってらっしゃい……。」


どうしてこんなにシドがこだわるのかはトマコは理解できなかったが、なぜかこのやり取りだけは毎朝強制させられていた。



*****



夕食時になって現れたのはトマコの想像とはちょっとずれていた大男だった。身長は2メートル近いのか見上げるトマコは首が痛い。


「お~。これがあのウルフィの想い人か……。噂とは……無責任なものだな。」


開口一番はこんな感じだった。失礼極まりないがトマコは気にしない。


「こっちが……天才魔法使いか……。これはこれは噂通りの……。」


今のはちょっとひっかかったがトマコはやっぱり気にしないことにした。


「これが兄妹って、無理があるだろ~。」


ガハハ。サムスンは笑った。ミハエル譲りの濃い茶色の髪に太い眉毛。瞳はメヌエットと同じ薄い白藍色をしていた。なんてマスクが似合いそうな人!マッチョマン!


「まあ、でも。」


サムソンがトマコとシドの手を取った。トマコの指は肌荒れから治っている最中でシドの指は意外にも荒れ放題だった。


「こういうところが似ている。俺はこんな手が出来る人間が好きだ。」


サムスンはそう言ってニッと笑った。


「マレノ様の弱みと魔法省の未来の星を手に入れるなんて親父もやるなあ。」


その言葉でトマコは初めて義父が只者ではないことを感じ取ったのだった。





******




「おお、これは……。ウルフィが手放したくないのも分かる……。」


何だかわからないがトマコはサムスンの背中に乗っていた。何故だかマッサージをしろという。どこで情報を仕入れたんだろうと頭を傾げていると簡単に分かった。


「なんでバラすかなぁ。ウルフ様。」


「なんでって、トマコ、ウルフィも必死なのさ。週末にお前に来てもらえるように俺に媚び打てくるなんて天変地異が起きるぜ。ガハハ。アイツをからかえる時が来るなんてなぁ。流石我が妹よ!」


「はあ……。」


絶対ウルフ様は甘い物の禁断症状が出ているんだ。とトマコは迷わず思う。一度堂々と甘味を味わえる身になったウルフの元に戻った時の落差は考えるだけ恐ろしい。


「愛されてるなぁ!あの、変態に!」


ハッキリ言える貴方が羨ましい。遠い目をしてトマコはマッサージを続けた。これ以上この話をつつかれるのは勘弁してほしい。仕方ないのでトマコは話の矛先を変えることにした。


「サムスン様、今日奥様は?」


その質問にサムソンの方が分かりやすくビクリと揺れた。


「……分かってて言ってる?トマコちゃん……。」


「も、ももももももももしかして触れちゃいけない事でした!?あ~あ~あ~。大丈夫です。さっきの会話は私の脳から削除されました。え~。サムスン様の好物は?」


「はあ。20も歳下の女の子に気を使われる方がキツイ。今ねぇ……お兄ちゃんは奥さんに逃げられ中なの。そうか、親父たちはトマコちゃん達には言わなかったのか。」


そう言ってサムスンはトマコを背中から下してしょんぼりと座った。


「それと、サムスン様じゃなくってお兄ちゃんって呼んでくれない?」


トマコの顔がわずかに歪む。「私のことはお兄ちゃんと呼びなさい。そう言う設定ですからね。」恐ろしい顔で脅してきた誰かさんの顔を思い出す。その後部活並みの声だし特訓も記憶に新しい。もう、一人も二人も三人も一緒だ。なんだかトマコはげっそりした。



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