仮初兄妹7
あっという間に王都のカドーレ家にお引越しのトマコは狭い1LDKのシドの部屋に別れを告げていた。正直狭い方が気持ちが落ち着くのだがその辺はぐっと堪えた。ドSのシドとこの先やって行く自信なんてこれっぽっちも無かったし、正直仲良くしようなんて思ってもいなかった。
「あんたも行くよね?ブルータス。」
「?その名前は違うな。」
毎日違う名前で呼んでみようとネズミに約束したトマコはポケットに向かって名前を呟いてみる。って、裏切られてもいいのかカエサルトマコよ。
「こういう時だけ荷物持ってくれるなんてなんて外面がいいんだろう。」
人の目が有るところではどんなに妹思いのシドなんだか。にっこり笑ってトマコの荷物を車に運んでいる。そんな姿もトマコの気に障った。
「トマコのお蔭でカドーレ家の養子になれるんだ。どんなことでもするぜ。」
「これって凄いことなの?」
「そりゃそうさ。カドーレが後継人ならシドだって魔法省で虐められなくなるだろうしな。」
「え!?あいつ、虐められてんの?」
「なんだってあんなに朝早く出勤してあんなに遅く帰ってきてたと思ってたんだよ。相当いびられてんのさ、他のお貴族様の魔法使いに。」
「……。」
「出来が良すぎるってのも問題だよな。あ、俺がしゃべったことシドに言うなよ!俺ってば殺されちゃうからな!」
「……わかってるよ。」
そうだったのかと、トマコはシドの後姿を見た。ふうん、あいつがねぇ。とちょっとニヤニヤ。俄かに気分がすっきりしたトマコ。どうしてマレノがトマコをカドーレの養子にしたのかはこの際考えが及んでいないのだろう。同じ穴のムジナだとは気付いていないらしい。
能天気トマコはこれからどうなるかなんて考えちゃいない。おまけにいつかは帰るんだからと投げやりなところが有った。カドーレ家に行ってからの生活なんて想像もしていなかった。
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引っ越し先はちょうどいい部屋だった。トマコの日本の家の部屋よりは2倍ほどの大きさだったけどウルフのとこよりはこじんまりしていい。シドは隣の部屋らしく、カドーレ夫人曰く「ご苦労されたご兄妹ですもの本当ならご一緒がいいでしょうけれど、シドくんはもうお勤めもあるし生活時間が違うのだから違う部屋がいいわね。二部屋続いて空いているのがここだけだったから狭いかもしれないけれど我慢してちょうだい。」とのこと。暗に年頃の血の繋がっていない兄妹は同じ部屋ではいけないというのもあったのだがトマコが気づく筈もない。
家は婦人が仕切っていた。夫は物静かで本当に大臣なんぞやっていたのかと思うくらい影が薄い。定年すると男の人は「友達もいないし趣味も無くなって元気がなくなる」と母が言っていたのをトマコは思い出していた。そうだったとしても優しそうだったのでトマコに不満は無かった。
トマコはマレノが持たせたトランク二つだし、シドもそんなに大袈裟な持ち物は何一つ持っていなかったので引っ越しというより「移動」と言った感じだった。トマコはシドが小さなテーブルを抱えているのが不思議だった。だって、あれ小さくって汚いだけなのに。真っ先にシドが捨てそうなのにと思った。
部屋に通されて荷物?をどうしようかとトマコが悩んでいると手伝いと称してシドがやって来た。
「わかってるでしょうけど貴方は私の妹って設定です。」
「は、はあ。」
いきなり部屋に来てそれかよ。とトマコは思う。
「異世界人ってのも禁句です。色々としゃべってもらっては困ります。ちょっとそこに座ってください。」
「?」
「指を出して。」
トマコにはシドが何をしたいのかさっぱりわからなかった。こんな時に頼りのネズミは屋敷内を探検中だった。……それもシドの差し金かもしれないけど。
「痛ッ!痛い!」
素直に指を出したトマコはすぐに後悔した。いきなりシドはトマコの指を針で突いたのだ。トマコは反射的に手を引こうとしたがシドががっしりと手首を押さえていた。すぐにトマコの指先から丸い血の玉ができる。シドはブツブツ何かを唱えるとトマコの指先を紙に押し付けた。
「な、なにすんの!?」
「これでいい。」
「なにが!?」
「今証文を取りました。貴方の血判が承諾の証拠です。今から貴方は異世界人だった話ができなくなりました。」
「……。」
トマコはそれを聞いて絶句した。シドの中には「お願い」は存在していないらしい。きっとどこかに出張中だ。なんてムカつく奴なんだとトマコはさらにムカついた。
「もちろん私の悪口なんて言ったらどうなるか。」
「……。」
トマコはシドを挑むように睨んだ。別に誰も信じてくれないような話を自分から話そうなんて思っちゃいない。シドが魔法省で虐められなくなるならカドーレの養子にだって一緒になったらいい。
こんなだまし討ちみたいに証文取らせるなんて誠意に欠ける。
何でもない様に酷いことを平気でしてくるシドにぜったいギャフンと言わせてやるとトマコは誓った。




