仮初兄妹6
トマコが身支度を整えて脱衣所を出るとあの大きな繭はすっかり無くなっていた。取り合えずスゲエ。シドはというとちょこんと出したちゃぶ台風情に食事を並べて食べていた。トマコはあんなの有ったんだ!と小さなテーブルを見てびっくり。トマコがベットの踏み台にしていたのがシドのテーブルだったらしい。
「おはようございます。」
そう言ったトマコにシドはチラリと一瞥だけして食事を続けた。……何こいつ。人の半裸見といてムカつく。とトマコ。でも気にされていた方がこの際ややこしい気もしてそのことには触れないことを誓った。
トマコは座る場所に悩んだがベッドに座るのも偉そうなので仕方なしにシドのお向かいに座った。すると目の前にあったコップに見る見るミルクが増えて行く。
「へっ!?」
トマコびっくり。だってミルクがコップに湧き出てきたんだもの。おっかなびっくりコップを眺めるトマコ。シドを伺うとシドは相変わらず知らん顔だった。
「それを飲んだら行きますよ。」
シドのその声でトマコは慌ててコップに口をつけた。
「ホットミルクだ……。」
それは少し甘みのあるミルクだった。熱くもなくちょうどいい。なんだろうこれ。親切だったらチョー怖い。トマコは毒でも入ってんじゃないかと不信がりながらも一瞬くるシドの視線が怖くて一気にそれを飲み干した。
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「トマコ!待ってたわぁあ!!」
またしてもユサユサと豊満な胸をトマコは押し付けられていた。
ココ、ウルフィファル邸。
グリグリと頬に柔らかい脂肪を感じながらトマコが目だけ動かすと吐きそうな顔をして自分とマレノを見るウルフが見えた。……助ける気はないらしい。
あさの支度が整ってシドがドアを開けるとそこには黒のスーツを着込んだギャング……いやマレノの使いが待ち構えていた。なんだかマレノの「逃がしゃしない」的な意思を感じでマジ怖かったトマコ。
「あの……息ができません……。」
「あら、ごめんあそばせ。」
やっとの思いでマレノから解放されたトマコはフラフラ。外面の良いシドはここぞとばかりトマコを支えてくれるけどそれがかえってムカつく。
「まあ、来てそうそうなんだけど、話を進めるわ。そこに座ってちょうだい。」
偽兄妹を椅子に座らせるとマレノは侍女に合図をする。すると隣の部屋から50くらいの夫婦が出てきた。
「こちらは私の父方の親戚。ちょこっと王家の血も引いてるカドーレ家の方よ。」
「はあ。」
「トマコは……知らないでしょうけど、あなたは知ってる?」
「はい。確か2年ほど前までは大臣で居られた方では?」
「そう。まあ、今は田舎に引っ込んじゃった変わり者だけど、出そうと思えば権力もあるわね。で、ここから本題なんだけど、カドーレの長男はとっくに子爵を継いでるし、後には子供もいないからぶっちゃけ暇な夫婦なの。加えて女の子が欲しかったものだから、トマコ、養子になりなさい。」
「え?」
「ついでに貴方も引き受けてくれるらしいから一緒に養子に行きなさい。」
「わ、私もですか?」
ビックリしたトマコが隣を伺うとシドもビックリしていた。が、シドの回答は早かった。
「宜しくお願いします。」
深々と頭を下げるシドを見て訳も分からずトマコも頭を下げる。でも、いったいなんなんだ?と言ったところ。なんだかわからないが異世界に来て両親が出来たトマコ。初めはオドオドと顔を上げたが目が合うといたわるように微笑んでくれる夫婦はトマコの胸の内に何だかジンときてしまった。
「あ~良かったわぁ!これでウルフィーちゃんのお嫁さんも確保できたわ!」
「……え。」
あれ?ウルフの嫁フラグは折れたんじゃなかったのか?慌ててウルフを見るとゲンナリしたウルフが「諦めろ」と目で言っていた。
「ウルフィーちゃんには可愛そうだけど当分トマコはカドーレ家でマナー合宿よ!と、いっても暫らくは王都のカドーレ邸に戻ってもらえるから週末くらいは会わせてあ・げ・る♥」
トマコは口をパクパクしていたがマレノは完全スルー。そこで婦人が口を開いた。
「シドくんも今日中にトマコちゃんと引っ越していらっしゃい。家から魔法省に通えばいいでしょう。」
祖母を思わせる声色にトマコは思わずホロリ。
「あら、どうしたの?トマコちゃん。」
「なんれもあじまぜん……。」
こんなところでなぜ涙が。トマコの郷愁の想いが爆発した瞬間だった。クシャクシャになって泣くトマコは可憐でもなんでもなかった。でもそんなトマコが可愛いかもと思うおかしな人間ばかりがその場に居合わせていたことにトマコは気付いていなかった。




