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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
第二章

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仮初兄妹4

「ほら、昨日のやつはどうしたんですか!?」


今日も朝っぱらから起こされるとシドに文句を言われるトマコ。眠いし、訳わかんないから勘弁してほしい。


「……昨日のやつ?」


「私は仕事に出かけるんですよ!?」


「????」


「ほんと、貴方は馬鹿な上に察しが悪いんですね。」


「……朝から嫌味。早く仕事に行ったら?」


トマコがそう言うとシドは不満顔をした。なんだよ、起きてあげたでしょうがとトマコは思う。


「ほらほら、時間が無くなるよ?いってらっしゃ~い。」


2度寝しなくちゃならないトマコはフラフラと手を振ってシドを見送る。昨日はあの恐ろしい風呂とトイレも掃除したんだ。相当疲れている。


「……。」


シドは思いっきり眉をしかめて昨日と同じに出て行った。


ガチャン……



だから、オートロックかよ。トマコはまた突っ込みつつもベットに戻って行った。



*****



「だから、なんでわざわざ起こすかな。」


シドが食べていいと言う棚にある食べ物はネズミが魔法を解くと途端に湯気が出ているスープに変わった。初めはびっくらこいたトマコだが今は「魔法ってすげえ」と感心している。


「さあ?自分が働くのにトマコが呑気に寝ているのが気に入らないんだろ?」


「だよねー!」


パンをちぎりながらスープを食べる。目の前の小さな皿にも同じものが少し乗っていた。もうコソコソ分け与える必要はないので堂々とネズミと食事ができる。


「でもさあ、なんであんたはあーんな酷い奴に雇われてるの?」


「それなんだよなあ。俺ってばあいつに弱み握られちゃってるわけよ。」


「弱み?それで脅されてるってわけ?」


「まあ、そんなもんだな。それが無いと俺、元の姿に戻れないし。」


「はあ?元の姿?」


「知ってんだろ?俺ってば王子だからよ!」


「……ふうん。このスープってどうやってつくるの?やっぱ、魔法?」


完全にトマコはネズミの「王子」説をスルーした。どのみち本当に王子だったとしてどうだと言うのだ。


「おい、今完全に無視しただろう?泣くぞ?」


「ああ。あんたがシドに弱みを握られてるって話ね。」


あくまで「王子」には触れないトマコ。ある意味ホントに王子だったら怖い。


「そうなんだ!だからさあ、トマコ、一緒に探してくんねえかな?」


「え!?探して見つかるもんなの?」


「なんか、トマコなら見つけてくれる気がすんだよ。」


「まあ、期待しないでくれると助かるけど。で、どんなもの?」


「それはな……名前だ。」


「名前?」


「そう。それがわかんねえと俺、戻れないんだわ。」


しょんぼり頭を垂れるネズミはちょっとかわいそう。


「分かった。今日から頑張ろう!じゃあ、手始めに「ジョン」!」


張り切ったトマコの声が狭い部屋に響く。「ジョン」とはサーカスに居た犬の名前だ。


「……なんか、おれ、大事にされてる感ないけど大丈夫?」


寂しげなネズミの声は小さく消えて行った。




******



その日の朝トマコが目覚めるとシドはまだ眠っていた。部屋の真ん中に繭のようなでっかいものが浮いているからトマコは静かにビックリしてしまった。


「話には聞いてたけどホントに宙に浮いてたんだ……。」


驚きのあまり口をパクパクしていたトマコはこれまた静かにベッドから落ちて床から上を見上げていた。別にトマコはシドのために静かにしているのではない。ただ、思いのほか滑らかに落ち過ぎて音もせずお尻を打った。誰にも気付かれることもなさそうな地味な痛みだ。


「……。」


年相応な好奇心でトマコはシドの繭状ベットを観察した。床からは一メートルくらいのところで宙に浮いていてシドを包んでいて柔らかいカプセルみたいだった。


「触るんじゃねぇぞ。びりっと来るからな。」


そう言われてトマコの肩が揺れた。いつの間にかネズミが足元に来ていた。


「やっぱマズイ?」


思わず触っちゃいたい気持ちはわかるが触るとシドの逆鱗に触れそうだ。仕方なしにトマコは出していた指をひっこめた。


「眠ってると人形みたいだね。」


眠っているシドはお行儀が良いらしい。身じろきひとつしない。透き通る肌につやつや光る金の髪。小ぶりな顔にはばっさばっさした長い睫毛。すっと通った鼻に少し薄い唇。全てが均等に美しく配置されているように思えた。これは女の人と間違えたって私が悪いわけじゃないな、うんうん。とトマコは一人で納得した。





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