仮初兄妹3
「起きてください。」
揺さぶられてトマコは目を擦った。
「今何時?」
「何言ってるんですか?頭大丈夫ですか?」
「だから、今何時?」
「……4時半ですよ。」
「……………………………………寝る。」
睡眠に対しては譲れないトマコはシーツ潜った。どんなところでも寝るのがトマコ。心臓に剛毛が生えた女の子。
「起きてください。時間の無駄です。私はこれから仕事に出かけるんです。すこし、注意事項があるから聞いていただきますよ。」
「仕事」って言葉が無かったらトマコは起きなかっただろう。でも、ここの部屋の主人はシド。居候のトマコが「仕事」で自分が寝てるわけにはと渋々目を開けた。
「昨日、遅くまで帰ってこなかったのにこんなに早く仕事?」
「そんなことはどうでもいいでしょう?いいですか?部屋のものを勝手に動かさないでください。」
「ああ、うん。……わかった……ふあああ。」
「明後日は休んでアーキンス家に向かいます。それまで大人しくここに居てください。食事はそこの棚にあるものを適当に食べててください。腐らない様に魔法をかけてますから食べる時はネズミに言ってください。」
「あ……。」
「なんですか?」
「ちょっと寒いんだけど、毛布とかないの?」
ものすごく面倒な事の様にシドはトマコを一瞥した。でも一瞬、間が開いたと思うとトマコの上に水色の毛布がドシンと乗っかった。
「では、行きますから。」
「いってらっしゃい。」
「……。」
眠い目を擦りながらトマコは出勤するシドを戸口まで見送った。ベッドからドアまではほんの数メートルだがフラフラしながらも手を振る。
「……あなたの国の習慣なんですか……。」
シドはそんな事をつぶやいて眉間にしわを寄せたまま暗闇に消えて行った。何だかよくわからないままトマコはドアを閉める。切望してた毛布も手に入った。もう一度寝直そう。
……ガチャン
オートロックかよ……。トマコは突っ込みながらまたベットに倒れ込んで眠った。
*****
「シドって毎日あんなに働いてんの?」
「ああ。……まあ、やっかまれてるから余計に大変なんだろ。」
「やっかまれる?」
「若くて才能が有ってその上容姿もいい。コットランが自ら推薦して魔法省に入ったくらいだしな。」
「あんなんでも大変なんだ。」
「あんなん、だからだろ?」
ふてぶてしいシドの態度を思い出してトマコも納得。
「だからって同情してやらない。」
この汚い部屋に閉じ込められて何が嬉しいものか。しかも物を動かすなだとう?だったら魔法で綺麗にしといたらいいだろう?お前がサル頭にしたからってこっちは乙女なんだよ!とトマコはたいそうご立腹。
「なんか、出して貰ったはいいけどこの毛布チクチクするし……ん?」
薄い布団で震えて寝ていたトマコは念願の毛布をゲットした筈なのに何だか体が痒かった。
「ねえ、これって……。」
毛布は水色だったが何だかところどころがキラキラしていた。そのキラキラの糸をトマコは一本引き抜いた。
「……。」
絶句するトマコがもう一度毛布をじっくり観察する。
「な、なんじゃこりゃあああああああ!!」
その正体を確かめると二度寝の時にうっかり抱きしめてしまった自分を恨みたくなった。
*****
「一本……二本……あ、あはははは。はは。」
「おい、トマコ大丈夫か?」
これが笑わずにいられるか。
「こんな恐ろしいもの呪いとしか思えない……呪いだ呪われた毛布……。」
その毛布は長年シドが使って来たものなのだろう。匂いこそしないが見事な金髪が織り込められているかのように刺さっている。先ほどから虚ろな目のトマコが毛布から抜き取った髪の毛を床に落としているのだが足元にはもさもさと毛が集まっていた。ーー洗っていない……否、臭くはない。が、きっと無造作に使われてきたに違いない。
「昔、どっかのタレントがファンにびっちりと髪の毛が編み込められたマフラー貰ったって言ってた……。そう、それ。……それだぁ。」
キモい。キモすぎる。しかしキモすぎて笑ってしまうのだ。
……人間って精神的にやられると笑ってしまうらしい。
「あは、あははははは。」
一本、また一本と床に金髪が落ちて行く。
何が魔法省に才能だ。
何が美形だ。
「性格が最悪な上に生活もダメダメじゃん!」
きっと今夜も寒い。
この毛布を使うとすれば、どうしようもなく毛布に潜り込んでいる毛を抜きたくなるトマコだった。
ちょっとしたホラー。




