トマコお披露目会6
チラチラと熱い視線でウルフが見ているのをトマコは確認した。こんなウルフを見るのは初めてだった。
「ウルフさん、まさか……。」
「……。」
「好きなんですか?」
「黙れ。」
ほんのりと耳が赤いウルフ。こんなウルフをトマコは初めて見る。巷で殺人兵器だかなんだか言われている男とは思えない。ウルフはトマコの顔を正面から見つめて言った。
「 ぶっ 。」
訂正。噴き出した。自分たちでトマコをこんな顔にしたくせにとトマコは目頭を熱くした。
「……。おい、ここで大人しくしてろ。」
「まさか、あそこに独りで行くつもりなんですか?こんな私を置いて!?」
聞けばなんとなく痴話げんかに聞こえる。通りすがりに聞いたなら昔の恋人に挨拶しに行く彼氏を諌めているようにも聞こえる。……が、トマコの場合はそうではない。
「大声で言いますよ。知られたくないからコソコソ見ていたんでしょう?」
「黙れ。」
「黙りません!この、甘党!」
いつものトマコなら地底のナマズを呼び起こしそうなウルフの低い声に逆らうはずもなかった。けれど、今は、今の状態はトマコにとってギリギリなのだ。訳も分からない異世界の初めて目にするパーティで、顔の中央で通販化粧品のCMみたいに「左がBefor。右がAfter。」になっていて誰が独りになりたいか。
「知ってるんですよ。ウルフ様のベットの横のチェストの奥に御砂糖の箱とお菓子の箱が有るのを!」
「うっ。」
「香ばしい香りのクッキーやほろ苦いキャラメル……。軍や屋敷の方には知られたくないでしょうねぇ、普段は無理して砂糖なしのお茶飲んでいるウルフ様が……。」
「……おい、最近減りが早いと思ってたんだが?」
「はっ……。」
ウルフを追い込んだつもりがうっかり盗み食いの告白をしてしまったトマコ。アホとしか言いようもあるまい。
「どんな苦労してあれを俺が集めてきたと思ってるんだ?それこそ、普段は我慢している俺が。」
「……ご、ごめんなさい。」
みるみる青ざめて行くトマコにウルフが調子づいて言い出した。甘党を隠していても罪にはならないが主人のおやつをくすねていればそれは罪。
「そうだな、お前が欲しがればこれからは簡単に手に入るということか。」
そこで、ウルフの目が輝いた。トマコにはジャイ○ン並みに「いっしっし。」と聞こえてきそうな顔だった。
「すまないが……。」
ウルフは早速近くを通りかかったウェイターに声をかけてデザートを一通り持ってくるように告げた。
もちろん表向きは「トマコ」にだ。戸惑っていたトマコだが、ウルフの甘党を隠せばご相伴に有りつける。二人にとってはいいこと尽くしに違いない。すぐに目の前に美味しそうなデザートが山の様に並べられた。
「では、さっそくカモフラージュに私めが……。」
へりくだった言い方をしてトマコがウルフの目の前でケーキの一つをフォークで刺した。ウルフの眉が片方ぴんと上がる。
「誰が勝手に食べていいと言った?」
「え、でもウルフ様が食べてるとおかしいじゃありませんか。」
「……。」
それもそうかとウルフは渋い顔になった。ここでニコニコとケーキを頬張るわけにはいけない。
「おい、俺に「アーン」しろ。」
「へっ?」
「渋々食べてやるから早くしろ。もう腹ペコなんだよ!」
……だったらオードブルでもつまめばいいのに。とトマコも突っ込めない。仕方なしにトマコはケーキを刺してはウルフの口元に持って行った。ウルフは当然の様に眉を寄せて渋々と言った感じでケーキを頬張った。
「なかなかお前も役に立つじゃないか。」
満足げに言い放つウルフを見て少しは分けてくれてもいいのにと思いながらトマコは次々とケーキをウルフの口に運んだ。口に出して言わなかったのはこっそりウルフの秘密の箱から盗み食いしていた罪の意識だろう。
それからも次から次へとウルフとトマコの仲を伺うものがやってきては去って行った。少々糖分は補給できたがパーティが終わる頃にはトマコとウルフのダメージはマックスを振り切っていた。もはや二人とも丸焦げを通り越して灰になっていた。もう死んでもパーティなんかに参加するものかとそれぞれが思う頃、マレノだけがパーティの成功に独りほくそ笑んでいたのだった。
この一件でウルフとトマコは只ならぬ「相思相愛」として有名になった。




