トマコお披露目会5
晴れ渡る青空の下で中央の庭園に広がるように大広間の一つが解放され、見事な花々が招待客たちを歓迎していた。親しいものを集めたパーティは簡単な立食式で様々な料理が銀色の盆の上に並べられて湯気を出していた。タイル張りの庭園部分にはパラソル付きのテーブルが置かれ、端には休めるようにソファが並べられていた。中央の東屋に主賓のウルフとトマコがペアソファに座らされている。異国情緒あふれるこのガーデンパーティもこんな形で出席しなければトマコだってウキウキしたはずだった。
「ホントにこんなんで大丈夫なんですか?」
「バレたら俺はお笑いの的だろうな。」
げんなりとするウルフにはもう蕁麻疹が出る様子は無かった。
「私、死にたいです。」
「気にするな、俺もだ。」
トマコが今着飾っているのは半分。顔の半分は化粧を完ぺきに落とされていた。ちなみにウルフに触れる手も装飾が取り払われていた。これがウルフとマレノの妥協策ということになる。
「誰か来たら横向かなきゃ……。」
「おい、俺の方に人形側を向けるなよ。」
「うう。」
右左に向いただけで一人演劇な今の状態。「あなた~ん」「なんだい、おまえ♡」を一人でやってみたい気分である。口紅だって半分から見事に拭き取られている。……お笑い覚悟で今日を迎えたトマコだが、こんなことになるとは。こうなったら誰もウルフにあいさつしに来なければいいのにと思うトマコだがウルフ目当てで開いたパーティでそれはありえない。
「初めてですね。ウルフィファル様が女性を連れておられるなんて。」
案の定パーティが始まって数秒、トマコ達の前には大輪のバラの花をしょっていてもおかしくないような妖艶な美女が立ちはだかった。トマコは半分を見せない様に必死で扇で顔を隠した。
「おい、あの女が俺に触れない様にガードしろよ?」
「へっ!?」
バレないように必死なのにウルフからもさらに無理難題がトマコに降りかかる。ウルフは目の前の美女から少しでも遠ざかれるようにトマコを前に差し出した。差し出されたトマコは反対側を見られない様に体をよじるので変な体の具合に……。
「まあ、私の目の前でウルフィファル様にもたれ掛るだなんて……はしたない人。」
もたれ掛ると言うよりはもう限界な体制。ウルフはトマコをぎゅうぎゅう押すし、トマコは顔半分ウルフに押し付けてるしで。
「お生憎様。そのくらいのことで私は諦めなくてよ、ウルフィファル様。下賤な出の愛人の一人や二人、気になどしません。必ずやウルフィファル様の妻の座を射止めて見せます。」
そうは言ったものの、美女は二人がギュウギュウしあっているのを「いちゃいちゃ」とみなして不快極まりないと言った顔でその場を去って行った。ふ~っとため息を漏らすトマコとウルフ。
「……ちょっと怖かったですよ?今の人。」
「ああ、あれは一応婚約者に名乗りを上げていた女だからな。」
「え~!?良かったんですか?思いっきりスルーしましたよ!?」
「俺が女と一緒に暮らせると思うか?」
「……思いません。……でも、それでよく女の暗殺者に狙われなかったですよね。」
「触れられる前に始末すれば関係ないだろ。」
「……こわっ。」
はあ、しかし、ここの出席者は並みの暗殺者より性質が悪いと見たトマコ。ウルフが蕁麻疹を出さない様にトマコごときが守れるのだろうか。そんなこと考えていると次なる刺客……お客がウルフの前にやってきた。
「お久しぶりです。ウルフィファル様。」
お、今度は髭面の紳士っぽい中年腹の親父だ。これは楽勝と思いきや紳士はトマコの顔を正面から見ようと近づいてくる。ヤバイ。非常にヤバイ。
「こんにちは。レグレー伯爵。最近では貿易のご商売の方でご活躍とか。」
「いえ、まだまだ海のものとも山のものともつかないのですよ。それより……。」
話をするも上の空でトマコを見分したいレグレー伯爵。困ったトマコは顔半分を見せないためにもウルフにしがみつくしか無かった。それに気づいたウルフも仕方なくトマコの腰を抱いて引き寄せてやる。
「これはこれは仲睦まじいことで。そちらのお嬢様を紹介しては下さいませんか?」
「あ……いや、彼女は人見知りがひどくて。今日も無理をさせているからこれ以上は勘弁してください。」
ウルフがやんわり断るとレグレー伯爵は残念そうにトマコを見た。
「我が家のサロンでお茶でも誘いたかったのですが。ウルフィファル様は余程そちらの方を自分の宝石箱に閉じ込めていたいらしい。」
「ぐっ。」
「宝石箱」とは。このサルに似合うのはサル山だ……そう思うとおかしくなってウルフは吹きだしそうになるのをどうにか堪えた。真っ赤になって笑いを堪えて下を向いて誤魔化したものだからレグレー伯爵は勝手にウルフが照れているのだと解釈した。
トマコはウルフが笑いを堪えているのが分かった。どうせ、自分の事を面白おかしく想像していることも。まったく面白くないぜ。と投げやりになりながらトマコは服越しに伝わる震える腹筋を感じていた。
トマコが思い切ってヤーっと手刀で正面切って客の中を駆け抜けたい衝動に駆られた頃、ウルフの視線が一点に集中しているのに気づいた。おや、とトマコは思う。顔を上げて視線の先を確認しようとするとハッとしたウルフの視線がさまよった。




