トマコお披露目会2
「正直、パーティなんてクリスマスとお楽しみ会しか知りませんよ?ウルフ様の誕生日かなんかですか?」
「……ただの思いつきだろ。内輪でするから特に気にしなくて良い。お前は俺の隣に居たらいいらしいから。」
「はふあ。……お食事、豪華なんでしょうね?」
「そりゃあ、パーティだからな。」
「なんと!?」
ここの食事はまかないでも超おいしいのに、さらにスゴイとなると!?
考えただけで口の中が唾液でいっぱいになったトマコは思わずほぐしているウルフの背中に涎を落としそうになった。いけない、いけない、いくらなんでも落ちたら殺されるだろう。
「お前も一応俺の母親が着飾るそうだ。前の日から本邸へ行って来い。」
「ま、前の日からですか?……まさか、またドレスを……。」
トマコもまた例のピンクのドレスを思い出していた。確実にカツラ付きだろうと予想される。トマコの中で商店街で見たちんどん屋のお囃子が流れた。
「観念しろ。美味しいものに有りつけるんだ。少々見世物になったところで我慢しろ。」
ここで、トマコがこの世界の貴族のパーティなんてものを理解しているわけが無かった。親戚がちょっと集まって、美味しいもの食べて、おめでと~とお年玉。みたいな感覚である。そりゃ正月だってば。加えてウルフのパートナーを「見世物ピエロ」と勘違いしている。
「まあ。いいか。」
美味しいものが食べれるなら。
どうせいつかは家に帰るんだから。この際コスプレでもなんでもしてやろうじゃない。
トマコはこの世界でも一発ギャグはウケルのだろうかと頭を巡らしていた。……当日はそんな事など吹っ飛ぶほど頭が真っ白になるのだが。
*****
ちゅんちゅん。
容赦なくその日はやってきた。
いつも通り起きたトマコはネズミが居ないことに軽く舌打ちしていつもの支度をした。結局トマコがこの屋敷でするウルフの世話とは夜のマッサージくらいしかなかったので、朝は調理場で昼は馬鹿でかい3つある玄関を順番にデッキブラシで洗った。そうしないとウルフは夜より他はほとんど屋敷にはいなかったし、ぶっちゃけ暇なのだ。暇だとどうしても物事を悪い方に考えてしまう。こうしてみるとサーカス暮らしの方が食べ物のことしか考えない分自分の状況を考え込む時間が無かったかもしれない。本音を言うとふてくされてずっと寝ていたい気分だったが、それは出来ない身分だとトマコながらに分かっていた。まあ、そんなこんなで考えるよりも動いた方が良いトマコはコマネズミにように働いていた。
顔を洗いに外に出ようとトマコがドアを開けようとするとスッとドアが開いて思わずトマコは前のめりにボワンとぶつかる。
「ボワン??」
顔面の圧迫感から首を上げるとそこには麗しのウルフの母マレノが立っていた。
「きょ、巨乳!?」
その言葉に一瞬マレノは口元を少し上げて両手で軽くトマコの顔を挟んだ。
「も、モガモガ……。」
これ以上は窒息死すると大袈裟に手を鶏の様にバタバタさせたトマコを見てマレノはやっと解放してくれた。
「おはよう。トマコさん。」
「お……はあはあ。……おは…おはようございます。奥様。」
いったい今の行動に何の意味が有るのか分からない。
「では、付いていらっしゃいな。」
鼻水を垂らしただらし無い顔のトマコにマレノはニッコリと微笑みをくれてやるとそれを合図に後ろのマレノのお供の巨漢……いえいえ大きな女の人がトマコを子猫の様につまみ上げた。
「ぐえっ」
訂正、潰れたカエルのようにつまみ上げた。
「ど、どこへ?本邸には明後日って聞いていたんですけど。」
足が地面に付いていないと変に体の力が抜けるなあと思いながら米俵の様に抱えられたトマコはマレノに尋ねた。
「一日だけなんてあなたを磨くのに足りないわよ。ウルフィーに頼んで3日あなたを預かることにしたのよ。」
「脅して」というのが本当のところ。トマコには「しょうがないでしょ」みたいな言い方だがその割にはここのところ楽しそうに準備する毎日。
「3日……。」
どんな宴会芸を仕込まれてしまうのだろうかと、ユサユサと揺れる腕の中でトマコは不安になっていた。