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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
第一章

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女王様登場

「おい、お前、ウルフの情婦になったんじゃあ……。」


「ジョウフってなに?」


「……。」


「ちょと、薄情じゃない?ずっとひとのポケットにいたくせにさ。」


「もう俺なんて必要ないかと思ったからだろ?」


「私がいつ必要にしたよ!?アンタが私を必要だろうよ!?」


ひとまずクビにならずにホッとしたトマコはこの世界に来てからずっと一緒だったネズミが自分に与えられた部屋のベッドにちょこんといるのに気づくと猛烈に腹を立てた。だって、トマコは話し相手だけだったにしても、自分の食べ物をちょこっと減らす存在だったにせよトマコにとってネズミは心のよりどころだったのだ。


「俺がいつ……。」


「お前を必要だって言ったんだよ。」とネズミは続けられなかった。見上げたトマコからは大粒の涙が降ってきたからだ。トマコはオイオイと泣いていた。「そうか、こいつは寂しかったんだ。」そう、分かったネズミはトマコに向かって人生初の言葉をかけた。


「ごめん。」


そう言うとトマコは大事そうにネズミを持ち上げて頬ずりした。


「また臭くなった。」


トマコは眉間にしわを寄せて言ったが涙目では迫力がない。トマコがぱあっと笑うのを見て、謝るのも悪くないとネズミは思った。急に静かになってネズミが不思議に顔を上げると心の友を得たトマコはちょっと安心できたのかベッドに倒れるようにして眠っていた。……気絶したと言っても可笑しくないほどの早業ともいうが。白目が少し見えていて不気味……笑ってしまったが不思議とネズミは温かい気持ちになった。


「しょうがねえな。」


そうはいってもネズミはトマコにシーツの一枚かけることなくトマコの部屋を後にした。



******



「お客様がお見えになっているのですが、是非トマコ様にお会いしたいとおっしゃられています。」


モリスンにそう呼び止められたのは正午過ぎだった。先ほど昼食をもらって、ウルフのどでかいクローゼットの中を拭き掃除していた。ここでの生活で気に入ったのは朝昼晩の3回の食事が付いていたことだった。しかし、やたらと「ウルフ様似の……。」と不思議な呪文をつぶやくモリスンは不気味に思えた。

今朝も「トイレを掃除すると美人になると……。」とトイレ掃除をさせられて、その続きで床拭きを続けると「体に障ります!」とかなんとか言い出した。なんなのだ?やれと言ったり、やるなと言ったり。確かに美人にはなりたいがそれを人から言われるのはどうかと思うトマコだった。なんか、見張ってるっほいのも気分が悪い。


「え……と、今、なんて?」


モリスンが複雑な顔でトマコを見ていた。トマコに「お客様」って警察!?サーッと青くなったトマコは逃げ出す経路を考え始めていた。


「ウルフ様のお母上様です。」



「はあ?」


なんで?としか思えないトマコ。使用人に会いに来るとは何事だろうか。とはいえ、使用人なのに断られるわけもなく意味もなく重い足を引きずるようにしてモリスンの後ろをついて行った。



「……。なるほど。今までの人に首を縦に振らなかったわけね。」


豪華な応接室について目の前のご婦人がトマコを一通り目踏みするとそう言った。ウルフの母らしいその人物はあんな大きな子供がいるとは思えないほどに若くて美しかった。きっとうちの母ちゃんより年取ってるはずなのに、とトマコは感心した。


「え……と。失礼。お名前はなんていうの?」


「トマコ様です、奥様。」


「そう……へんてこな名前ね……。」


その風貌も変だけど。と黙る夫人から聞こえたような気がした。顔に出てるってこういうことなんだ。



「まあ、いいわ。ウルフィファルが気に入ったというなら。よく見たら可愛いじゃない。」


動物みたいだけど。今度も聞こえてきた気がした。なんというかトマコ、ファイト。


「あの子の事、宜しく頼むわね。」


そう言って夫人はトマコに手を差し出してきた。そこでトマコはようやく頭が回り始めた。そうか、自分は数ある仕事の中でもウルフの身の回りという大事な仕事に就いたのだ。きっと母親がちゃんと見定めるのは当たり前なのだと。


「至りませんが精一杯務めさせていただきます。」


「……見た目よりも積極的なのね。」


意気込みを見せたトマコにウルフの母親は少々引き気味だった。彼女はもちろんモリスンにウルフが気に入った女性を屋敷に連れ込んで彼女の純潔を情熱的に奪ったと報告を受けていた。……多少の誇張表現は彼の妄想によるものだろう。


「頑張れば報酬は弾むわ。あの子の気持ちを捕まえててね。」


「はい!」


元気よく答えるトマコはもちろん「気持ちを捕まえててね。」の方は頭に入っていない。ご褒美が貰えるならと張り切るトマコをよそにウルフの「初の女の恋人」としての地位を確立してしまうトマコだった。



まあ、こういう展開に。

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