俺様世話係5
「……。」
そうか、やっぱり罰ゲームだったのだ。トマコはウルフのその言葉で納得した。それでは仕方ない。昨日の晩、主人のシーツに薄黄色のリアルなシミを作った上に鼻血を吹いてしまった。……まあ、鼻血は事故だが。そう思うとトマコは罰ゲームらしく腹をくくってカツラをバッサリとウルフの目の前で取った。
「ぶはっ。」
トマコはウルフの何回目かになる「ぶはっ」を聞いた。しかし、疲れのせいかテンションが揚がっていたウルフは引き笑いまで始めてしまった。……きっとどこかでサーカス団に居たのがバレていたのだ。こんなコメディアンみたいなの。トマコは目の前で銀の食器を押しやりながら机に突っ伏して笑う美形が訳もなく憎らしくなってきた。
「ヒーッ、お、俺を……ヒーッ……こ、殺す気か……。」
涙目でトマコに訴えるウルフにトマコだって恥ずかしくって死にたいし。
「どういうつもりだ……モリスン、お前まで……このサル頭にこんな趣味の悪いピラピラ着せやがって……。」
「あ、いえ。その……。」
「昨日、シーツを汚したお仕置きなら別の事にしてください!」
堪らなくなってトマコもモリスンに訴えた。だって、笑いものにするなんてあんまりだ。
「と、トマコ様!わ、私が悪うございました。トマコ様がご無事にお勤めを果たされたのが嬉しくて、羽目を外してドレスを選んでしまったのです!」
言いながらモリスンがバッと広げたのは昨日ウルフがゴミ箱に捨てた例のシーツだった。
「「うわっ。」」
トマコとウルフの声が重なる。モリスンが広げたしわくちゃなそれには薄い黄色のシミの輪郭の上に鼻血が薄められたシミが広がっていた。トテツモなく悪い予感がトマコをよぎるがその方向性が全く分からない。何が言いたいんだこの人ってところだろう。
「ウルフィファル様の子種を受け入れた証がここに!モリスンは宝物にします!」
「「……。」」
トマコとウルフの目が点になった。
二人の目は言っていた。
こいつは変態だと。
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「女だったのか……。」
元の使用人スタイルに戻ってホッとしたトマコは今度は書斎でウルフと向き合った。
「ふうん。」
これまた何度目かのウルフの「ふうん」だ。トマコを下から上までじっくり見るとウルフはトマコに握手を求めた。
「え、と。これは……これでバイバイって感じですか?」
「いや。」
「このまま、ここにおいて貰えるんですか?」
「……それなんだよなぁ。」
「……やっぱり、駄目ですか。」
「行くあて有るのか?」
「無いですね。」
「多分すぐわかると思うけど、俺、「女」ダメなわけ。仕事先もこの屋敷も男しかいない。男だらけ。ただの女嫌いじゃない。避けているのは実害が有るからだ。蕁麻疹が出る。」
「へえ。」
「でも、お前には出ない。お前がサル頭だからなのか、そんな女とは試したことが無いからわからん。確か、3歳くらいの女までは大丈夫だったはずだ。」
トマコの女としてのプライドは最初からほとんど無いにしろ塵の大きさほども残っていなかった。それよりはこの先宿無し、飯無しは避けたいところだ。
「痒くなったら出て行きますから、それまで置いてください!」
こういう時、変に度胸が有るのがトマコだ。
「まあ、いいだろう。」
その態度がウルフは気に入ったらしい。ニヤリと笑うと後は退出するようにトマコに手でシッシとした。
ひとまず安堵したトマコは退出しかけてふとウルフに問いかけた。
「あ、そう言えば……モリスンさんが誤解してるみたいなんですけど。妙に私の体を気遣うから怖くって。」
「……ああ。ほっとけ。」
「なんかモリスンさん、あのシミのシーツ宝物ってヤバくないですか?本当の事を知らせた方が……。」
「妙に言い訳した方が疑わしいんだよ!」
吐き捨てるように言うウルフには嫌な思い出が有るらしい。トマコはウルフの怒声に肩を震わせてから慌ててウルフの書斎を出て行った。
これがトマコと国軍最強の男と言われる国王の親衛隊の一人、ウルフィファル=アーキンスとの出会いだった。




