俺様世話係4
夜明けまですったもんだして結局ウルフの寝室のソファで寝てしまったトマコは朝の清清しすぎる光で目を覚ました。
「あれ?」
そう部屋を見渡してもウルフの姿は無い。きっとどっか他の部屋で寝たんだろうとトマコは思った。取り敢えずは鼻栓を抜いて血が止まったのを確認する。なんか、途中で何もかも面倒になって寝てしまった気がする。ああ、これで確実にクビだ。トマコはうなだれながらウルフの部屋を後にしようとした。
「おはようございます。」
なのに、やはり忍者の様に「しのびん」がトマコの前に現れた。
「や、……これは……。」
ウルフの寝室でうたた寝してしまって焦るトマコにモリスンは怒る様子もなかった。構えていたトマコは拍子抜けだ。
「……シャワーをお使いください。」
……そんなに頭が跳ねていたのだろうか。短くなってからは変な寝癖がつくから…とトマコは恥ずかしくなって頷いた。そんなトマコを見てモリスンは知った顔でトマコを風呂に誘導する。
「え、と。この部屋のシャワーだなんて、使っていいんですか?」
「貴方はウルフ様の所有物になったのですから。」
所有物?使用人なんだけども。トマコはそう思ったが強引なモリスンに何も言えなかった。
「お着替えはここに。」
モリスンが渡してきた服はピンクのぴらぴらだった。以前のトマコなら喜んだが猿頭には似合いそうもない。
「昨日の罰が下ったか……。」
さっぱりして着替えたトマコには鏡を前にそんな言葉しか出なかった。
*****
どうにもピンクのドレスが自分に似合わないので以前使ったカツラをかぶってみた。……猿頭よりまし。こんなんで使用人の仕事になるのかな。とトマコの気持ちは沈んだ。やはりウルフは怒っていたのかもしれない。腹を抱えて笑う美形を思い出してトマコは首を振った。
「トマコ様……初めてでいらっしゃったんですね?」
是非朝食はウルフ様とご一緒にとモリスンがトマコを誘導する。モリスンはゴミ箱のシーツを勝手に見聞したのだがトマコはそんなこと知らない。
「初めてって、なんですか?」
「その……。処女だったのでは。」
はあ?と思ってトマコは立ち止まって考えた。確かにトマコは処女だが、モリスンに言われる筋合いはない。朝からそんな事聞かれるいわれのないトマコがまともに言葉を受け取れるわけもなく……
「そうですけど……。」
「少女だったのでは。」とトマコの無意識の自己防衛本能が働いたのか勝手に自分で脳内変換して答えた。どうしてまた自分の性別を湾曲に聞かれるのかトマコは首を傾げる。一方モリスンの頭の中はお花畑が満開の上に花びらを散らしていた。「ご主人様に栄光あれ!」ってなもので。彼はウルフの未来の家族を想像すると身震いをしていた。……モチロン勝手に。トマコは中学の保健体育と友達との猥談くらいでしか知識のないお子様。しかも部活のエースとなればそっちの方面には超ニブチンである。だから、トマコは疑問があっても外見超紳士なモリスンが「そんなことを言う」とは思わなかった。
モリスンの出身地では領主などある程度の地位の者が花嫁を娶ると初夜の次の朝に屋敷の窓からシーツを広げて「純潔を破った事」をみんなで確認する習わしがある。つまりちゃんと「行為」が行われたかの確認でもある。モリスンは今からでも主人の部屋にあったシーツを窓から広げたい気分だった。女性嫌いの主人が女と生殖行為を行ったのだ!上手く行けば子供も出来ているかもしれない!この際相手がサルだろうがカバだろうがかまわない!モリスンの能面の下ではムハハな想像がおっぴろげられていた。
「では、トマコ様はこちらへ。」
浮かれた気持ちを悟られない様に慎重にモリスンはトマコをウルフの向かいに座らせた。
「…?ど、どうも。」
どうして仮装した使用人と朝食を食べるんだろう。トマコは不思議だったが椅子まで引かれては仕方ない。
向かいにトマコが座るとウルフは眉を寄せてこう言った。
「……お前、誰?」