俺様世話係2
トマコはその夜早速モリスンの言う通りにウルフの寝室のベットの上で布団を温めていた。
トマコの頭で一生懸命考えて借りてきた氷嚢に湯を入れて3つ並べた。考えてみればトマコが布団を温めるよりもその方が暖かいし使用人のトマコがご主人様のベットの中で寝るとは失礼だと思ったのだ。台所に居た使用人も氷嚢アンカをひどく感心してくれたし。
「これでよし。」
満足げにつぶやいたトマコはウルフが寝に来るのを待った。モリスンに「ウルフ様が退出に許可を出されたら部屋から出てください。」と言われたからだ。とはいえ、初日というのにウルフは外出先からなかなか戻ってこなかった。「おれの世話係」に任命されてから正直顔を合わせちゃいないし、氷嚢のお湯を交換したのも先ほどで3回目だった。
「ったく、ネズミはさっさといなくなるし。」
あれからネズミはどこかへ行ってしまった。なんとなくこの世界に来てから心のよりどころにしていたのをトマコは感じた。臭いし、なんの役にも立たなくてもトマコの友達だった。
「ウルフ様、早く来ないかな……。」
眠い。
トテツモナク。睡眠を愛するトマコにはある種拷問の部類の「世話係の夜」である。
きっとネズミもトマコの使用人部屋には戻ってきてくれるだろうと、トマコはウルフを待った。この世界に来て畳一畳分ほどのベッドが初めてのトマコの城だった。
ウトウトしていてるとやっとこさ待ちに待ったドアがギギっと開く。
「……。あれ? そういや……お前、何してる?」
トマコの姿を確認したウルフは訝しげに尋ねた。トマコは首を振って眠気を飛ばしてから大声で答えた。
「お布団温めときました!すぐに横になられます?」
そこですかさず胸に入れていたスリッパを差し出した。
「……なんか、温もりが……キモい。」
トマコから差し出されたスリッパを一応は足に入れたウルフから想像していたのと違う反応が返ってきてトマコは狼狽えた。そこまでやったトマコもトマコだがトマコだってウルフが超寒がりかと思ったから頑張った訳だ。
「……で、これ、何?」
ベッドのシーツを気怠そうにウルフはめくって言う。なんか、「秀吉作戦」は失敗に終わった……らしい雰囲気。
「特製アンカです!寒い夜もこれでバッチリ!」
「……まあ。それはそれでいいか。取り敢えずもういいから取ってくれる?」
「はあ。分かりました。」
どうしてだかトマコの苦労は水の泡だった。ウルフは喜んでくれるどころか不思議顔だ。
「なにか、モリスンに言われたのか?」
「あ、はい。ウルフ様のお布団温めといてって。」
……夜の相手の話がトマコの中ではもう布団を温めるでしかない。
「……。」
ウルフは頭を押さえるようにしてベットに腰を掛けた。
「頭が痛いんですか?お薬貰ってきます?」
心配したトマコにウルフは視線を戻すと
「……寝るから。」
そう言った。なんだか気持ちは下がったままのトマコだがそれを聞いてホッとした。
「じゃあ、私はこの辺で。」
「ちょっと、待て。」
トマコが特製アンカを取り出した場所をウルフは指さした。
「あっ!」
何度も湯を替えたせいかそこはお湯が漏れていたらしく30センチほどのシミが広がっていた。
「すすすすす、すいません!すぐに新しいシーツ持ってきます!」
「まて……。今は夜中だ。それにこのお湯……。」
ウルフは眉間にしわを寄せると目を瞑った。トマコがそのシミを観察すると氷嚢が古い材質だったのかお湯を入れたのがまずかったのかそのシミは薄く色がついていた。
「これじゃ……。」
位置的にもまずい。
「……。」
どう見ても……
誰もが「おねしょ」したと思うであろう場所にうまい具合に黄色のシミが出来ていた。