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俺様世話係1

結局トマコはモリスンに連れられて使用人部屋の一角にやってきた。渡されたのはもちろんズボンとシャツ。メイド喫茶みたいな可愛いのを一瞬でも期待したトマコは虚しい。


「あの、こんな頭で有りますが……私、女なんです。」


「え……。」


まさかのトマコの告白にここで着替えろと言ってしまったモリスンの動きが止まった。いかにも紳士な感じの執事さんはそれでも仕事柄か平静を装っていた。ジロジロと不躾に見られてもトマコの猿頭なら仕方がない。


「どこかから…逃げてきたのですか?」


モリスンは宗教的なところからと言う意味で言った。尼になる僧院ならトマコの頭も納得できる。逃げてきた途中少し髪が伸びたという程度だからだ。悲しいかなトマコの髪は切られてからの伸びが遅い。


「……はい。」


もちろんトマコはサーカス団からだ。でも「犯罪」付きのサーカス団と言っていいものか口をつぐんだ。

モリスンはトマコをじっと見て考えた。この子ザルのような子供は我が主「ウルフィファル様」が連れてきた「花嫁」なのではないかと。いやいや、あんたたち二人は、さっき庭師に預けようとしてたじゃん。というのはモリスンの頭からは遠く離れたところに行ってしまった。実はロマンチストで妄想家のモリスンは能面のような顔の下でお花畑のような妄想を繰り広げていた。


「その、ウルフ様の身の回りのお世話も頼めるのでしょうか。その……夜も。」


お花畑の結果がどうしてこの質問かというと実のところそのウルフの性質が分かる。彼は表面上は男色で通っている。まあ、その経緯には色々と有るようだがつまり女性が極度に苦手なのだ。だから屋敷には男しか置いていないし、必要とあらばモリスンもいつだってスタンバイオーケーだった。


「はあ。」


お子様トマコに「夜のお世話」と聞かれて連想できるものはない。


「お布団を温めるとか?」


トマコの頭には草履を温めるのちの関白秀吉が浮かんだ。……どこかで自分をサルだと自覚しているぞ、トマコ。


「……では、今夜から。」


やはりそうだったかとモリスンは一人で納得。訳の分からんトマコはとにかく布団を温めることに意気込んだ。



*****



「おい、お前、見かけによらず……。ってか、いくつなんだよ?」


想像していたより可愛かった服に満足しながらトマコはネズミをボロ服のポケットから移していた。白く清潔なブラウスに膝丈の黒のズボン。おそろいチョッキには薄くグレーの格子が入った柄だった。ブラウスに細いリボンを結んでトマコの気分はわずかに浮かれていた。


「ん~と、13歳だよ。」


「13か……じゃあ、経験済みか。」


「なんの?」


「や、お前、ウルフってやつの寝室行くんだろ?」


「ああ。布団温めるって変な仕事だよね。ビックリした。この世界にはアンカとか湯たんぽ無いのかな?」


人力で温めるなんて……とトマコ。


「??お前、意味わかってて言ってるんだよな?」


「?なんの?」


「……。」


なんだ、この娘、結構辛く世間を渡ってきていたのかとネズミは落胆していた。この世界で女の子が生き延びるには当然と言って通る道だった。ネズミはサーカスで働くくらいならストリートキッズ等の訳ありなのだから仕方ないと思った。……でも、自分が食べるためにトマコにそんなことをさせるとなれば……。


「おい、やっぱり夜の世話は出来ないって言え。駄目だったらここから逃げるぞ。」


ネズミは男らしく、そう言った。

しかし、とはいってもポケットのちっぽけな食べ物をもらう存在に言葉の重みというものが有ると言うのか。トマコは美形とネズミを天秤にかけて遠くの空に飛んでいくネズミが容易に想像できた。


「ヤダよ。せっかく寝る場所見つかったのに。布団温めたって死にゃしないよ。」


ネズミの親切心は粉々に粉砕される。結局女ってやつは強いよな。

鼻を鳴らして訪れる夜にどうしてだか怒りを覚えてネズミはトマコのポケットから箪笥の隅へと姿を消して行った。



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