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あれあれ?

「ふうん」


頭を下げたトマコに反応したのはウルフの方だった。あれあれ、トマコが頭を下げたのはレストランの亭主なのに。


「働きたいなら俺の屋敷に来たらいい。雑用くらいは出来るんだろう?」


「はあ、珍しい。ウルフさんが気に入るなんて。坊主、良かったな。」


いやいや、食料品の扱うところが良かったんだけど。何だかわからない展開にトマコは抗議の声も上げられなかった。亭主はワシャワシャと頭を撫でてくるし。


「こう見えてこの坊主は投げるのが上手い。コントロールもいい。」


「へええ!」


亭主の撫でる手に力が入った。短い髪の頭は幾分気持ちよかったに違いない。

取り敢えずなんとか宿無しは避けられそうだと満たされたお腹を撫でながらトマコはポケットの住人にも食料を分け与えた。この男の屋敷で雇ってもらうってどうなんだろう。猛獣の世話なら上手くなってきたところだったが。これってバイト代とかどうなるのだ?交渉していいのか迷ったが、言って行くところが無くなる方が心配になったトマコは取り敢えず様子を見ることに決めた。



*****


お腹が満たされて眠くなったというのに前を歩くウルフは速度を緩めようとしなかった。部活三昧で足を鍛えていたトマコでなければ根を上げていただろう。先ほど食事をした「ゴボンの隠れ家」というレストランを後にしてトマコはウルフに連れられて歩いていた。正確には前を歩くウルフの後を頑張ってついて行ったというのだが。


「ここだ。」


ふいに足を止めてウルフはさっきからずうっと続いていたうんざりするほど長い塀にからやっと出てきた門に向かって言った。


見上げてよく見ると立派過ぎる門だった。この人、やっぱりヤバいひとなんじゃあ……。お金持ちにひどく偏見のあるトマコはウルフに黒いものを見ようとした。あ、だめだ、神々しい美形にやられている。直視してはいけない、トマコ、顔のいい男だってトイレに行くんだって母親が諭してたじゃないか。しかし最近男の人と言えばタヌキ面や病人面しか見ていなかったトマコがなんとなしに目の前の美形を贔屓目に見ても致し方ない所である。



「ほえ~。」


初めてこちらの世界に来たお城よりは幾分近代的な建物と言ったところだろうか。トマコはテントや人買いのいたビルよりもこの屋敷が洋物映画の雰囲気ぴったりだと思った。なんてこの美形の人の家にピッタリなんだろうとトマコはひとしきり感心し、自分ならどんなに頑張ってもお風呂屋さんの娘だなと思った。トマコの祖父は畳屋だったらしいが父は一般家庭のサラリーマンでどうしてそうなるのかは疑問だが。


「モリスン!いるか?」


「こちらに。」


ウルフが声をかけるとモリスンと呼ばれた男がウルフの後ろに音もせずに出てきた。ビビるトマコは彼を心の中で「しのびん」と呼んだ。なんだかトマコはビビってばっかり。


「この坊主を今日から屋敷で使ってくれ。腕の筋力が良いし、コントロールが良い。」


「はあ。……では庭師のディケンズにでも預けましょうか。」


「そうだな。」


「あっ。」


「……なにか?」


「その、動物の世話の方が向いてるんですが。」


庭師=ハサミが器用 

トマコはこの先職を失わない様ここで二人に口を挟んでみた。


「ふうん。」


ウルフはまた「ふうん」と言った。トマコは面白そうにこちらを見るウルフと目が合う。


「じゃ、俺の世話でもするか?」


「え。」


目が点になったトマコは思わず後ずさった。


「モリスン、お前が使え。俺の世話係が居ないとぼやいていたろ?」


「……。ウルフ様がよろしいなら。」


……なんだか雲行きが怪しい。美形は見るもので関わるものじゃない。特にトマコの中ではそうだ。そうは言っても美形なんてテレビの世界でしかお目にかかったことなど無いトマコ。ウルフにブラッシングが必要となれば役に立つかもしれないが。


「む、無理!」


その言い方の何が楽しかったのか、ウルフはトマコを見て美形も真っ青な漫画顔でブッと噴き出した。




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