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おっす。おらトマコ

トマコは先ほどの興奮がウソみたいに引いて行くのを感じた。目の前の長身の男はものすごい美形で直視するのも憚られたが、それよりも人とは思えない冷たい視線に固まってしまった。しかも、この男左右で目の色も違った。


「ししししししし、シマ?」


何のことだかさっぱりわからない……どこのシマって?あ、そうかとトマコは慌てて口を開いた。


「に、日本という島国であります!」


……なぜ敬礼付きでトマコが答えたのかはわからないがそのくらい男の威圧がすごかったのだと解釈しておこう。


「聞いたことないな。まあ、いい。ついてくるか?礼に飯くらい食わせてやる。」


トマコのビビりようが笑いを誘ったのか少しだけ男の雰囲気が柔らでいた。それでも通常ならついて行かない。知らない人にはついて行っちゃいけないと小さいころから教えられているからだ。……しかし……。



ぐ~きゅるきゅる


ぐ~きゅるきゅる



尋常ではない腹の音が路地に響き渡った。トマコの乙女メーターは底をついてショートした。


「宜しくお願いします。」


なんだか丁寧に返事してしまったトマコを男はついてくると確信したのか振り向かないまま歩き出した。

ちょっとくらい気を使ってもと思っても口には出さない。トマコだって命が惜しいから。路地から路地へと軽々わたって行く男の後ろをトマコはひーひー言いながらついて行った。




*****



「ウルフさんにツレだなんて珍しい。」



やがて薄汚れたレストランに入った男が足を止めた。かすかな食べ物の香りにトマコの唾液はとめどなく溢れていた。その亭主だと思われる男は男にそう声をかけた。


「適当に食わせてやってくれ……命の恩人だ。」


「へええええええ!!!こんな小坊主に助けられるなんぞあんたも焼きが回っちまったのかい!?」


面白そうに言って亭主は髭を動かした。白いエプロンにいかにもシェフみたいな風貌の男はトマコを面白そうに見ていた。その間もトマコは食欲だけが刺激され続けて限界だった。なんでもいいから食わせてくれ……口には出さなかったが雰囲気で悟ってほしかった。


「カポかトレチならすぐ出せるが、お前さんなにが食べたい?」


出来るなら肉!肉!肉!と叫びたいトマコだったがぐっとこらえた。


「食べれるものならなんでもいいです……。」


この言葉が亭主の気を良くしたのかもしれない。二カッとわらった亭主は厨房らしい方向へ消えて行った。テーブルに突っ伏したトマコはよだれが垂れそうになるのをこらえていた。なんだかこっちの世界に来て涎さえ外に出すのがもったいない。しばらくするとテーブルの向かい側に誰かが座る気配がした。トマコが顔を上げると先ほど奥の階段を上がって行ったウルフと呼ばれた男がいた。


「女みたいに細いな。もっと肉をつけろ。」


いえいえ女ですけど。しかしもうその問題には匙を投げたトマコは黙っていた。そう言えばこっちに来て随分痩せた気がする。満足に食事が出来ていないのだから当たり前なのだが、毎日の空腹と疲れでそんなことも考えられなかったとトマコは思う。家に帰りたい。しかし、毎日起き上がっても元の世界に帰れる感覚はいっこうに無かった。



「さあ、食え。俺の料理はぺネロ一だからな!」



良い匂いと主に亭主は西洋料理っぽいものを持ってきてくれた。それが何かはさっぱりわからなかったが極限の空腹にいたトマコは黙々と食していった。



「見事な食べっぷりだ!」



亭主は喜んで次々に銀の皿をトマコの前に運んだ。ウルフはジッとトマコの食べっぷりを観察するだけでコーヒーのようなものを飲んでいた。


「ニホンってシマにどのくらいいたんだ?」


「え、とお。生まれてずっとです。13年。で、ちょっと前にここにきてサーカスに……。」


「ああ。」


言ってからトマコはハッとした。この男が警察関係者なら超ヤバイ。しかしトマコの杞憂だったのか男は納得していた。


「きょうガサ入れされたサーカス団か。じゃ、お前は売られてきたのか。どうりでこの辺で見ない顔だと思った。」


売られてはいないとは思っていたのだが初めて会った美人が連れて来たってことはトマコは売られてきたのかもしれない。なんだか踏んだり蹴ったりだな。トマコはなんだかムッとした。お腹いっぱいになったところでトマコはぼんやりと今後のことを考えた。この機会、逃してなるものか……。


「ここで働かしてください!」


亭主が皿を下げに来たときトマコはガバリと頭を下げた。ビックリした亭主は銀の皿を落としてしまったようで、カランカランという音が店に響いていた。









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