第7章 死神への嫉妬
前半は説明です…。
「……うわぁ。これ全部始末するのかよ…。───?」
悠の作り出した『惨殺現場』を見て、呆然とする飯島。
【植獣種】の切り刻まれた死体。その死体からは内臓やら何やらがぶちまけられ、言葉では言い表せられない程の悪臭が鼻を突く。
辺りは水浸しならぬ血浸しになっていて、目も当てられない状況だった。
そんな所に、1人の少年が横たわっている。
飯島はその少年に近づいた。
「おい、荒地。お~き~ろ~!」
頬をベチベチ叩く。
「……───っ!?へ、蛇は!?」
跳ね起きる荒地。すぐ近くに落ちている自分の太刀を手に取り、構える。
「おぉぉ!? 危ねえな!!もう蛇はいねぇよ」
そう言って荒地を宥める飯島。
「いない……?先生が倒したのですか?」
太刀を仕舞いながら、荒地は言った。
「いや?俺は手ぇ出して無いけど?あの大蛇を倒したのは火野だ」
「……何言っているのですか?火野何かが倒せるわけないじゃないですか」
全く信じていない荒地。
そんな荒地を見て、ため息を吐く飯島。
「全然信じてないな……。本当だよ。お前を助け、大蛇を倒したのは火野だ。……お前が気絶している間にな」
「……俺でさえも倒せなかったLV.5を、あいつが倒したと言うのですか?冗談ですよね?」
飯島の言葉に荒地は敵意を示す。
拉致があかないと思った飯島は、「はいはい。分かった分かった」とだけ返事して、後片付けを始める。
「……先生。何故、火野がジャックスの任務に参加出来たのですか?」
「あぁ?」
片付けをする飯島の後ろから、荒地は一つの疑問を投げかけた。
「……おかしいでは無いですか?学生のガードと同じ様な扱いを受けているだなんて…」
「……同じでは無い」
「…は?」
ポツリと呟いた飯島。その否定の言葉に荒地は反応した。
「あいつはお前らジャックスとは比べ物にならねぇよ」
「………」
「お前がそんなに知りたいなら、教えてやるよ」
面倒臭いがな…と付け足す。
「一言で言うと……あいつは『死神』だ」
「───っ!? 死神!?あいつが!?」
「そうだ」
普通、神才は『全知全能の神』に与えられたものとされている。しかし、稀に『神』ではなく『死神』に選ばれる人が現れる事がある。
死神に選ばれた者は決まって『鎌の神才』と途轍もない『神才力』を授かると言う。
そして『神才力』とは。
例えば咲姫の場合、銃を使う際にその神才力が、自分の身体、武器に及ぶ。その結果、片手剣や太刀などを使う時よりも威力や身体能力が数倍に跳ね上がるのだ。
「その中でも火野の神才力は群を抜いている。あいつが敵に回ったら……都市は、全滅するだろうな」
「…………」
未だ、信じられていない荒地に気にせず話を続ける。
「だから、『キング』達は火野を仲間に引き入れたいと思った。……1人で都市を壊滅させれる奴を野放しに出来ないからな。
それで、キングは交換条件を出した。……何か分かるか?」
「………いえ」
飯島はフッと笑う。
「…火野がキングになる代わりに、火野が目的を達成する手助けをすることだ」
「目的……?」
「さぁて!!片付け再開!お前も手伝え」
そう言って荒地に背を向ける飯島。
その飯島の背中を、荒地はずっと睨んでいた。
納得がいかないと言う様に。
◆◇◇◆◇◇◆
昼休み。
悠、咲姫、緋奈、紫衣、崇の5人は、机をくっつけて各々の弁当を出していた。
「お腹空いたぁ!!早く食べようよ!!」
「……さっきまで爆睡してた癖に…」
「さぁて!!食べようかー!!」
漫才をしている緋奈と紫衣。
それを見ながら笑い合う悠と咲姫と崇。
それがここ最近の日常だった。
咲姫はあの後何も無かったように悠と接していた。
心の中では、意識しまくっていたが……。
そんな時、弁当を開けようとする悠の首襟を後ろから引っ張る者がいた。
「!?」
驚いて見ると、そこには荒地が居た。
「おい、火野 悠。ちょっと来い」
そう言ってグイグイと引っ張る。
「ちょっ…あの、荒地くん?離して…「荒地くん!!」
咲姫はガタッと席を立つ。
「火野くんに何するの!?そんなに引っ張らないで!!」
その咲姫の大声に、クラスメイトは何事かとこちらを見る。
「そうだよ!!何か用事があるならここで言ってよ!?」
緋奈、紫衣、崇も咲姫に加勢する様に立ち上がる。
「み、みんな落ち着いて…」
「じゃあここで話してやる」
荒地は悠を睨みながら言う。
「───え?」
「お前、死神だな?」
教室が静まり返る。
「恐怖、畏怖の対象であるお前が何故こんな『普通の場所』で暮らしているんだ!?」
「…………」
悠は、何も言わない。
荒地は続ける。
「お前みたいな『異常な存在』が咲姫の周りをうろつくな!!」
「あ、荒地くん!?何言って…「言いたいのはそれだけ?」
咲姫を手で制し、荒地に問いかける悠。
「確かにぼくは『異常な存在』だ。こんな普通の場所にいる事は君の言うとおりおかしい。
だけど、咲姫の周りに居てはダメ?何で君が決めるの?」
そう言う悠。
「お前が『異常』だからだと言っているだろう!?」
「……そうだね。でも、咲姫にだって自分の意思がある。もし咲姫が君の言う通り、ぼくと一緒に居たくないと言うのだったら、ぼくは消えるよ」
悠の目は何も写していなかった。
「黙れ!!……咲姫。行くぞ‼」
咲姫の手を取り、悠から離れようとする。
「───っ荒地くん!!」
パァン、と音が教室中に響く。
荒地は赤くジンジン痛む頬を押さえた。
「……咲姫」
「悠くんは、あの時私達を助けてくれたんだよ?それなのに死神だ何だってヒドイよ!!悠くんは悠くんなの!!私は悠くんと一緒に居たい!!」
咲姫は、荒地の頬を叩いた手を握りしめる。
「【あの日】だって悠くんは……」
「咲姫。もういいよ」
ポン、と咲姫の頭に手を乗っける悠。
「ぼくが『異常』なのは、彼の言う通りだよ。……ほら、もう席に戻ろう?」
ニコッと優しげに笑う悠。
「……うん」
そう言って呆然としている荒地を尻目に、席に戻る悠と咲姫。
教室は未だ静まり返っていた。