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死神の誓い  作者: 白猫
第一幕
7/11

第6章 昔の記憶

大蛇は怒りと言う感情を忘れていた。

「………咲姫を危険に晒したお前は……絶対に許さない」


もはや、そこに笑顔は無い。

怒りに狂った瞳が、大蛇を畏怖させた。


ゆっくりと大蛇に歩み寄る悠。

右手には鎌が握られている。


「カ、カ……カアアアアアアアアアア!!!」

大蛇は恐怖に耐えられなくなったのか、歩み寄ってくる悠に噛み付こうとする。大きな口を開けて。

悠は動かない。動こうとしない。

そして、



バクリ、と言う音がした。




「!!!ゆ、悠くんーーーーーー!!!?」

遠くで咲姫は叫んだ。

そしてぺたりとその場に座り込む。


「え…何で……あ……あぁ…そんな…」

どうしよう、と咲姫は途方に暮れた。

悠は、食べられた。大蛇によって。


「悠くん……悠、くん」

何度も悠の名前を呼ぶ。

現実を、受け入れられない。


ズルゥ、と大蛇は咲姫の方へ向き直る。


「う……あああ…」

食べられる、という恐怖よりも悠を失った悲しみの方が勝っていた。

そのせいか、涙がポロポロと零れ落ちる。


大蛇は、咲姫に狙いを付ける。

鎌首をもたげ、数百メートル上から咲姫を眺めていた。


咲姫に戦意が無い事を悟り、好機と思ったのだろう。凄い速さで咲姫の目の前まで大口開けて迫ってきた。


「───っっ!!」

ギュッと目を瞑る咲姫。食べられる‼


………しかし、咲姫が食べられる事は無かった。


しばし沈黙。

そして、

「ギャァァアアアアアアア!!」

大蛇が叫び出す。


「───っ!?!? な、何?!」

驚いて目を開ける咲姫。

そこにあった光景とは、


大蛇の体の内側から、鎌の切っ先が飛び出していた。

目と目の間。いわゆる眉間に。

そこには見覚えのある鎌の先が出ていた。


(鎌……もしかして!!?)


その切っ先は、徐々に尻尾の方へ滑るように動く。

そして、ビキビキ…と肉の避ける音がしたかと思うと大蛇は縦に真っ二つになる。

大蛇は背開きにされて倒れた。

血の雨が、降り注ぐ。


「っ!!悠くん!?」

悠が、血まみれになって背開きにされた大蛇の上に立っていた。


咲姫は悠に近寄ろうと駆け出したが、恐怖で立ち止まってしまう。


「悠、くん……?」

咲姫はぞっとした。

……悠が、知らない男に見えた。

冷たい目。しかし、狂った目をしていた悠。

咲姫はすぐに、いつも見ていた悠では無いと分かった。


「───っ!」

そうだ、あの目……。

【あの時】の目だ……!

そう感じた次の瞬間、咲姫は【あの日】の事を鮮明に思い出した。


血だまりの中に倒れている自分の両親と悠の両親。

ガタガタと震える咲姫。

切り刻まれた【植獣種】の死体。

そして【あの日】見た悠の目。


記憶がすごい速さで流れ込んでくる。



「う………」

次の瞬間、途轍もない頭痛が咲姫を襲った。

痛みで視界が霞む。

立っていられなくなる。


「ゆぅ……くん」

「………咲姫!!?」

聞き覚えのある声を遠くで耳にしながら、咲姫は倒れた。


◆◇◇◆◇◇◆


「……ん…?」

目を開けると、目の前には………悠の寝顔。


「!? !? ? ! ───!?」

思考が追いつかない咲姫。

な、何故!?何があった!?

アタフタしている咲姫。


「んん………」

悠がモゾモゾと動く。

咲姫は慌てて自分の口を手で抑えた。


──お、起こしちゃ可哀想だよね──

そう思い、静かに状況整理をする。


(えっと……ここは、私の家?)

見慣れた部屋内。

薄い黄緑色のカーテン。床にはクリーム色の絨毯が敷いてあり、真ん中に白のテーブルが。

枕元にはテディベア。


間違いなく咲姫の部屋だ。


(さっきまで……何してたっけ?………あ、そうだジャックスの任務していたんだ)

懸命に記憶の糸を手繰り寄せる。


(……それで、大蛇に襲われて……うん、そうだ。悠くんに助けられたんだった。)


全て思い出した時だった。


「……咲………姫」

「うわっひゃい!?」

突然、名前を呼ばれ飛び上がる咲姫。


「………あ、寝言…」

名前を呼んだ張本人である悠は、まだスヤスヤ寝ていた。

咲姫は何故かホッとした。

そして、悠をジッと見つめる。


「………可愛い寝顔」

さっきまで血の雨の中にいた人物とは思えない寝顔だった。


咲姫は、悠の頬を触る。

起こさないように、優しく。


(そういえば、悠くんの寝顔なんて何年ぶりに見ただろう?)


中等部の二年生になったあたりから、咲姫と悠は別々で一人暮ししていたので、昔はよく見ていたこの寝顔も最近は見ていなかった。


毎日来ると言っても、いつも起きている時間に行っているから。


「悠くん……」

返事をしないと分かって居ながらも、話しかける咲姫。


「助けてくれて……ありがとう。私、悠くんが側に居てくれないと全然ダメだね…」

アハハ、と力なく言う咲姫。


咲姫は今回の任務で、自分の非力さをとても実感していた。


自分が人より優れているとは思ってないが、それでも悠の力に、少なからずなれると思っていた。


頑張ってジャックスに、学生のガードになって悠と一緒に戦おうと思っていた。


しかし、今回は何にも出来なかった。結局、足で纏いにしかなって居ないと咲姫は感じた。


「……悠くん。あのね、私ね…」

寝ている悠を起こさないように、静かに言う。

心臓がドキンドキンと高鳴って居た。


「……その……」

スゥ、と息を吸う。

顔が熱くなるのが分かった。


「私、悠く「咲姫ちゃぁぁぁん!?大丈夫!?!?」

バンッと玄関の扉が勢いよく開き、緋奈の声が響く。


そして緋奈、紫衣、崇はドタバタと部屋の中に入った。


「もぉぉぉぉ!!!心配させないでよ咲姫ちゃん!!」

「咲姫、大丈夫か?さっき、火野から咲姫が倒れたと連絡を貰ったんだが…」

「っていうか、火野くんが倒れてる感じだねぇ…?」


どうやら彼らは、咲姫を心配して飛んできたらしい。

代わる代わる咲姫に質問する3人。


「ご、ごめんね?みんな……。私も悠くんも無事だから……」

ニコッと笑う咲姫。

それを見て、安心したのだろう。3人はフゥ、と息を吐いた。


「そうか……。ところで咲姫、顔が赤いぞ?暑いのか?」

「え?………あ、うん。大丈夫、です」


紫衣の質問に応えながら、咲姫は悠をチラリと見て微笑んだ。


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