第5章 怒り、狂う
今回は少し短いかもしれません…。
大蛇に締め付けられている荒地は必死に抜け出そうと足掻いていた。
「こっ……このっ!!」
そう言って大蛇の体に太刀を突きつけようとしてみるが、思いの外硬く、逆に跳ね返されてしまう。
「くそ……!!───っ!?」
ふと視線を下げて、地上をみる。
そこにあったのは、咲姫がLV.2の【植獣種】に羽交い締めにされている光景だった。
しかも、その【植獣種】は荒地を尻尾で締め付けている大蛇に咲姫を差し出そうとしている。
───咲姫を食べるつもりだ。
「───!咲姫!!逃げろ!咲姫!?」
咲姫は全く反応しない。気絶している様だ。
大蛇は咲姫を食べるべく、大きく口を開けた。
「や、やめろ!!離せ‼この!」
そう言って何度も大蛇に太刀を突きつけるが、全く効かない。
それ所か、さらに締め付けられる。
「ぐっ……があぁぁ!!!」
締め付けられている左足がギシギシという音をたてている。
荒地は余りの痛みに、気を失いかけた。
咲姫は大蛇の口に放り込まれそうになっている。
───もう、ダメか…?───
つい、そんな事を思ってしまった。
しかし、彼は見た。朦朧とした意識の中、『黒い十字架』が咲姫を羽交い締めしている【植獣種】を切り刻んだのを。
(……なん、だ?)
そのまま彼は気を失った。
◆◇◇◆◇◇◆
「……見つけた」
ポツリとそう呟き、悠は飛んだ。
普通の人ではあり得ないくらいの高さまで。
そして、咲姫を羽交い締めしている【植獣種】の真上まで移動。
上から下へ鎌を【植獣種】に向かって振り下ろしながら、着地。
そして、真っ二つになっても未だ立ったままの敵を左から右へ薙ぎ払うように切る。
───十字架を描くように───
「……ギ?」
切られたことに気づいていない【植獣種】は自身から流れ出る大出血を見る。
その後、自分は『死んだ』と認識した。
【植獣種】はゆっくりと倒れる。
四つに切り裂かれたまま。
悠は、支えがなくなった事で倒れそうになる咲姫を片腕で抱きとめる。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
獲物を丸呑みする所を邪魔された大蛇は怒り狂い、大きく叫んだ。
咲姫を抱きかかえ、大蛇と距離を取る悠。
「ん……む?」
咲姫は、大蛇の咆哮で目が覚めた様だ。周りを見回し、自分を抱きかかえている悠に気付く。
「……!?悠くん!?」
「あ、起きた? おはよう、咲姫」
「え?あ、オハヨウゴザイマス…?」
パニックを起こしている咲姫に、悠は優しく笑いかける。
「咲姫。ちょっとゴメンね?……今からアレ、何とかしてくるからちょっとココで待ってて?」
そう言って咲姫を立たせ、人の何十倍もあるような大蛇を指差す。
「あ…うん。………そ!そうだ!!悠くん、荒地くんが蛇に!!」
離れて行く悠に、咲姫は大声で言った。
「うん。分かってる」
悠も同じように大声で答え、歩いて行った。
◆◇◇◆◇◇◆
テクテクと悠は歩いて大蛇の元へ行く悠。
周りの【植獣種】は、大蛇を中心に円を描くように配置していた。
「………お前等は、絶対に『殺す』」
笑顔でそう言った。
しかし、さっき咲姫に向けていた笑顔とは、まるっきり違うものだった。
目が、全く笑っていない。
……一体の【植獣種】が痺れを切らしたように悠に飛びかかった。
他の【植獣種】もそれに続く。
およそ120体の【植獣種】の群れが一斉に悠を排除しようとした。
しかし、それ等が消えるまで十秒もかからなかった。
気が付けば、そこは肉片となった120体の【植獣種】が散らばる虐殺現場。
赤黒い鮮血がポタポタと悠の持つ鎌を彩っていた。
「え………?」
遠くから見ていた咲姫は、何が起きたか全く分からなかった。
否、近くにいても、分からなかっただろう。
それ程までに、早い攻撃だった。
「次は……お前を殺す」
大蛇に向かって、悠はそう言った。