第4章 劣等感
【植獣種】の数を20体→50体に変更しました
「……このぐらいだったら、楽勝かな?
昨日よりは大分少ないですしね」
約50匹以上の【植獣種】を前に、そんな事を言う悠。
そんな悠は、黒い戦闘スーツを着ていた。
「その様子だったら心配いらないな……火野。お前はその場で【植獣種】を蹴散らせ」
「了解」
ヘッドホン型の通信機を通して、悠は飯島に返事をする。
「ん、頼む。……じゃあ、切るわ」
飯島の声が聞こえたかと思うと、通信は切れた。
「…ふぅ」
悠は首をコキコキと鳴らし、大きく伸びをした。
「さて……行きますか」
そう言って【植獣種】の群れに歩いて行く彼の右腕には、真っ黒な『鎌』が握られていた。
◆◇◇◆◇◇◆
「……荒地、お前が前衛で戦い、朝花は後衛で荒地の援護をしろ」
「はい」「はい」
「これから、俺たちは誰もお前らの心配はできない。
自分の身は自分で守れよ」
その言葉に朝花 咲姫は、さらに一層緊張した。
何せ、ジャックスになって初めての実戦だ。
今までとは空気が全く違う。
咲姫は自分の心臓がバクバク言っているのが分かった。
「先生……一つ、いいですか?」
そんな咲姫とは打って変わって、荒地は落ち着いていた。
「あん?」
「何故、あの男……火野 悠が参加しているのですか?ジャックスでは無いのでしょう?
俺や咲姫よりも強いとは流石に思えません!!」
荒地は感情的になって、飯島に言い寄った。
飯島は、そんな荒地を見て苦笑いをし、小声で荒地に言う。
「あぁ……。お前、朝花が火野にとられたって考えてんだろ…」
「ち、ちが…!」
「……何を話しているのですか?」
咲姫が2人の会話に入ってきた。
除け者にされていると感じたのだろう。
「何でもねぇよ。それより早く持ち場につけ。…もう近くまできているぞ?」
見ると、飯島の言う通り【植獣種】の群れはすぐそこまで来ていた。
「先生…!」
「後で教えてやるよ。一つ言っておくが、火野はお前よりも断然強い」
そう言って納得のして居ない荒地とキョトン顏の咲姫を置いて、飯島は長剣を持って【植獣種】の群れへ走って行った。
…一体何の話だったんだろう?
咲姫は首を傾げた。
「……チッ。咲姫、行くぞ!!」
「あ、はい!」
そう言って咲姫と荒地も群れに向かって走った。
群れの中心部に到着する。
咲姫と荒地は臨戦体制をとった。
目の前には不気味な植物の大群がいる。
───LV.2の【植獣種】だ。
「咲姫!援護を頼む!!」
「わかった!!」
腰にさしていた太刀を荒地は掴んだ。
荒地は『太刀の神才』を持つ。
『太刀の神才』を持つ者は少ない。しかし、太刀は使えればとても強い武器となるので、『太刀の神才』を持つ者はレベルが一番高いとされている。
返事をしながら、咲姫も自分の武器を取り出し、構えた。
咲姫の神才は『両手銃の神才』。この両手銃も持つ者が少ないので、太刀と同等のレベルと言えるだろう。
「うらぁぁぁ!!」
荒地は太刀で目の前の敵を一刀両断した。
そのまま両断した敵の後ろにいた奴を突く。
(……俺は、こんなに強い!!そんな俺があんな普通の人間より弱いはずがない!!)
敵を横に薙ぎ払う。
荒地が今考えているのは、悠の事だった。
(俺は、あいつよりも咲姫と釣り合っている‼
その俺が……)
「───っ!!俺が、あいつより弱いはずがない!!!!」
衝撃波で7体を一気に倒した。
「……っ、こ、これで」
「荒地くん!!危ない!!」
咲姫の声とドンドンッという音がしたかと思うと、後ろから荒地を襲おうとしていた犬の姿の敵は倒れた。
咲姫が後ろから銃で倒したようだ。
「おぉ!悪いな、咲姫」
「───っ!!それよりも!前!!」
振り返って咲姫に話しかける荒地。
その背後に向かって、銃を打ち続けながら、咲姫は叫んだ。
「!? ───!!」
少し遅れて荒地は向き直るが間に合わず、気が付けば宙吊りにされていた。
「!? は、離せ‼」
そこにいるのは、人間の何倍もの大きさの大蛇がいた。
太く、長い胴体にテラテラとぬめっている皮。深緑色の鱗、そして口には刺さったら一発で死ねる程の牙がついていた。
荒地はその大蛇の尻尾に片足を掴まれている。
「っ!! 何でLV.5の【植獣種】がここに!?報告にはLV.3までって…!?
と、とにかく荒地くんを助けな───っ!?」
咲姫は後頭部に鈍い痛みを覚え、そのまま意識を失った。
◆◇◇◆◇◇◆
「……ん、火野さん!!応答してください!!」
通信機から切羽詰まった男の声が聞こえた。
「はい、火野です。……どうしましたか?佐藤さん」
通信機の向こう側の男は佐藤 理緒という男だ。彼は、『ガードリーダー』……要するにガードの隊長だ。
いつもは冷静なのだが、今はとても焦っているようだ。
「そ、それが…突然、LV.5が率いる別の【植獣種】の群れが乱入してきたんです!!」
「……今はどこに?」
「えっと、西区の方ですね。…現在、ジャックスの2人が苦戦しています。」
途端に悠の声が低くなった。
「分かりました。すぐ行きます」
「……え!?でもまだ敵が…」
「もう全て殺し終わりました。」
「そ、そうですか…。では、お願いします」
そう言って通信は切れた。
通信がきれた時、悠の瞳は何も写していなかった。
【植獣種】に対しての怒り以外、何も。
───全て、殺す───
悠はただそれだけ考えていた。
咲姫に被害を及ぼすものは、絶対に許さない。
そんなもの、全て殺してやる。
それだけしか───考えて、いなかった。