第10章 トーナメント戦
第二幕開始です。
「はぁ、はぁっ……くそっ!!」
ここは、【亜利乃学園】の第八訓練場。
1年7組の教室の約5倍の広さはある。
その訓練場で、一人の『ガードスーツ』を着た男が、何かから逃げる様に走り回っていた。
否、本当に逃げていた。
容赦ない銃弾から。
「……くっ‼キリがない…」
ドンッドンッと、銃を乱射する音が後ろから聞こえてくる。
それ等を巧みに躱しながら、男は『ゴール地点』まで全力で走る。
『……咲姫ちゃん!ターゲットは多分、煙幕を使って逃げる‼
紫衣ちゃんがB地点に居るから挟み撃ちで!!』
銃を乱射している女の通信機から、仲間の指示が聞こえた。
「了解。……紫衣ちゃん?」
『分かってる』
別の冷静な声がヘッドホン型の通信機から聞こえてきた次の瞬間、目の前が白い煙で覆われる。
だが、両手銃を持つ彼女は何も焦って居なかった。
(…ここまで予想通り)
『紫衣ちゃん。ターゲットを今度はF地点まで誘き寄せて!!』
『分かった。緋奈、咲姫。崇はどこに居る?』
「多分、『ゴール地点』で待ち伏せしています」
そう答えると、通信機から『了解』と言う短い返事が聞こえ、その声を最後に通信は切れた。
「うっ…うわぁぁ!?」
ターゲットが叫び声をあげながら、作戦通りF地点に向かって走って行くのが、煙幕越しに見えた。
しかし、フラフラと違う方へ行こうともして居た。
「……っ‼」
ドンッと再び銃を撃ち、ターゲットがF地点に行くように誘導する。
「F地点に向かっています!!悠くん、よろしく‼」
『了解』
男の声が聞こえる。
ターゲットは全力で走る。
「っ‼はぁ…はぁ…これで、煙幕を抜ければ……!?」
煙幕を抜け、開けた視界の先にいたのは……。
にっこり笑顔の男が居た。
真っ黒な大鎌を、 持った男が。
「チェックメイト、だね?」
「う、うあ…うぎゃあああああ!?」
逃げ回っていた男は、気を失った。
『勝者、朝花チーム!!』
最後の一人が戦闘不能になった直後、飯島の声が部屋中に響いた。
歓声が観戦席から巻き起こった。
……何故、こんな事になっているのか?
それは、数日前の出来事がきっかけだった。
◆◇◇◆◇◇◆
「よーし、今日から実践するぞ~」
「……実践!?」
担任の飯島のその言葉にクラスの大半は驚きの声を上げた。
担任は何でも無いようにサラッと言い続ける。
「おぅ、実践訓練だ。つっても初めから【植獣種】と戦えとは言わねぇよ?」
クラス中から安堵の息が漏れた。
いきなり入学して半年も経って居ない1年生に【植獣種】と戦えというのは酷だろう。
「と言うわけで!君達には6人グループになって貰う。……はい!5分で作れ~」
その言葉と同時に、クラスの男子が1年7組の星…朝花 咲姫に向ってダイブした。
「朝花~~~~!!!」
「咲姫た~~ん!!」
美少女で、性格良くて、天才で、『ジャックス』である咲姫と一緒にグループを組みたい男子諸君は、咲姫の意向など全く聞かずに飛び掛る。
「───っ!!」
ヤバイ!!と咲姫がそう思った時だった。
それ等は飯島の一言によって一瞬で屍と化す事になる。
「…あ、言い忘れてたけど火野、朝花、安立、華原、石塚は同じチームでな。…1人足りないけど大丈夫だな」
瞬間、男子諸君は崩れ落ちた。
咲姫は「助かった」と言わんばかりにため息を吐く。
「くそう……!何て事だ……」
「何故……何故だ…?」
「あぁぁぁぁ…俺の咲姫たん…」
各々の遺言を遺し、力尽きる男たち。
(まさに死屍累々…)
そんな光景を見ながら、冷静にそう思う火野 悠。彼は注目の人物の幼馴染にして『死神』だ。
「やったぁ!!いつものメンバーだぁ!!」
ムードメーカーの安立 緋奈はその場でくるくると回り出す。
「分かったから…はしゃぐの辞めて」
飽きれた顔の華原 紫衣。
しかし、満更でもなさそうだ。
「そだね~。所でさ、実践訓練って何するの?」
おっとり口調の爽やか少年、石塚 崇は疑問を口にする。
そこで丁度、何時の間にか消えて居た飯島が帰って来た。
「チーム決めたかー?っておわ!?何これ!?」
教室の惨状(男子のほとんどが精神的ダメージを食らい、床に伸びている状態)を見て、驚愕する飯島。
「………えー、それでだな?君等にはこのチームでトーナメント戦をしてもらう!!」
見なかった事にする飯島。
…まぁ、それが1番正しいだろう。
「トーナメント戦?」
「そうだ。トーナメント。勝ち残り戦とも言う」
「ただ、普通のトーナメントでは無い……。その名も『お題トーナメント』だ!!」
「……………」
ポーズ付きで言い放った飯島。
誰も言葉を発しなかった。
「………ゴホン。うむ。『お題トーナメント』とは一戦ごとに俺が『お題』を出す。例えば【2対2】【3対3】とかだな。
で、その条件通りに戦うと言うわけだ。分かったな?質問は?」
「……………」
誰も何も言わない。
しいて言うならば、さっきのポーズの意図を質問したかった、と言う空気が流れて居た。