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宣戦布告

この物語はフィクションです。

しかし、いずれ皆さんの身にも起こりうる、紛れも無い現実なのです。

「宇宙人から、地球人に向けての重大なメッセージがあるようです! この後午後3時から、全世界生中継でお伝えします! 繰り返します、宇宙人から…」

 テレビ越しにアナウンサーが同じ台詞をひたすら連呼している。

 自習中だった真田達3年A組は、教室に設置してあるテレビの画面を黙って見つめていた。突然の事だった。池本が先生がいないからと、気まぐれにテレビをつけたらこうなっていたのだ。

「てゆうかいいの?勝手につけちゃって。先生来たら怒られるんじゃない?」

 クラスの女子が池本に尋ねた。

「大丈夫、どうせ教師共は職員室でテレビに釘付け状態だろ。俺達の事なんか放っておいてさ」

 池本は投げやりに答えた。現在の時間は4時55分、あと5分で宇宙人からのメッセージが全世界に放たれる。テレビ画面には、広い部屋が映し出されていた。そこには沢山の記者達が詰め掛けている。おそらく5分後にはこの部屋に宇宙人が現われて、会見のような形でメッセージが流されるのだろう。

 真田はテレビの画面をじっと睨みつけていた。あの宇宙人は、何を喋り、どんなメッセージを発するのか。本来なら不慮の事故とはいえ、無関係な人間を殺したのだから、地球の人達に向けて謝罪の一つくらいするべきである。しかし、宇宙人の謝罪を期待する者などはこの世界、少なくともこのクラスには真田以外、一人もいないだろう。

 例の事故で来須一家が亡くなったことはこの学校の全員が知っていた。午前の全校集会で、校長の口から発表された。しかし、その時涙した者や、宇宙人への怒りを露にした者など、これもまた真田以外、一人もいなかった。あくびをしていた者さえもいた。そう、皆、無関心なのだ。彼らにとって、来須智治の死など、宇宙人の出現に比べれば特に興味を引くことでもないのだ。元々来須があまり目立っていなかったからかもしれないが、これじゃあまりにも報われない。真田は哀れむような目で、誰も座っていない来須の席を眺めた。

 その瞬間、テレビから記者達のざわめく声が聞こえた。慌てて振り返り、テレビに目を凝らす。宇宙人が入ってきたのだ。飛行物体から出てきた時と同様に、どこか落ち着き払った態度をしていた。口元が僅かに緩んでいる。真田にはその笑みが、友人を亡くした自分を嘲笑っているかの様に見えた。

「おお、来たあ!」

 テレビの音声が聞き取れない程に、クラスで歓声が上がる。何が楽しいのだろうか。宇宙人は、咳払いをした後、空気を大きく吸っている。

「皆、静かに!」

 池本が沈黙を促す。

 しばらくした後、宇宙人は、とても宇宙人とは思えない程、流暢に日本語を話し始めた。

「ち、地球の皆さん、こんにちわ。ペペ…しかし、この『あいさつ』というのは何の意味があるの?ペペ…全く理解できない」

宇宙人の声は、人間の声にモザイクをかけた様な、ぎこちない声質をしていた。

「ペペ…知っての通り僕は君達から見れば宇宙人だ。ぼ、僕達のことは『メファール』と呼んでね」

 宇宙人は偉そうに話を続ける。どうやら、彼ら宇宙人のことを総称してメファールというらしい。

「ペペ…僕達の星の環境は、地球とほぼ同じなんだ。お、同じ様に酸素を吸って、同じ様に二酸化酸素を吐くんだ。だから、体の構造も似るんだ」

それに関しては、想定内だった。宇宙の中に星は無数にあるのだから、地球と環境が似ている星があってもおかしくない。

「あなたはどうして地球に来たのですか?」

「あなたは何故、日本語を話せるのですか?」

 二人の記者が同時に二つの質問を投げかけた。今、地球人が最も知りたがっている疑問である。

「うーん、面倒だから二ついっぺんに答えよう。僕達の星の王は、日本語を習得する為に5人の使いを日本に送り込んだよ。僕もその使いの一人だった。そして無事日本語を習得し、僕達は自分の星へと帰った。しかーし!」

 宇宙人がテレビに向かって人差し指を突きつけてきた。ふざけている様にも見える。

「つ、使いの一人が『ある物』を地球に忘れてしまったんだ」

 ある物…?真田の脳裏に一瞬、妙な不安が過ぎった。まさか。そんな訳がない。

「使いの一人が忘れた『ある物』は、僕の星のある儀式に使う大切な物だった。それを探す為、僕は再びこの地に降りた。そういう事なんだよ」

「『ある物』って何なんですかー?そこの所を詳しく」

 記者達が宇宙人に詰め寄る。宇宙人は相変わらず余裕ある表情を浮かべている。

「ペペ…あまり詳しい事は言えないけど…その『ある物』は■■に入っていて中は見られないようになっているんだ。まあ、野球ボール位の大きさだと考えてくれればいいんじゃない?」

 嘘だろ…?思わず息が詰まりそうになる。真田は右手にカプセルを持って、走って教室を飛び出した。冗談だろ?このカプセルは、宇宙人の忘れ物だというのか。間抜けな使いがこのカプセルを忘れたが為に、来須は死んだのか。

「こんな物っ!」

 真田はカプセルを床に叩き付けた。しかし壊れる筈もない。

「じゃあ、そろそろ帰るね」

「ちょっ…ちょっと待ってください、まだ話は」

 教室の中からテレビの音声が聞こえる。どうやら宇宙人が帰ろうとしているようだ。

「あの家族に謝罪の言葉とかは無いんですか!?」

 記者の一人が大声を張り上げた。

「謝罪…?何の事?」

 宇宙人の不機嫌そうな声が聞こえる。

「あなたを乗せた飛行物体が墜落したせいで3人の家族が犠牲になったんですよ! 謝罪の一つ位するべきではないでしょうか」

 記者が真田の気持ちを代弁してくれた。

「君は地球の規則やルールを僕達に、おしつけようとしているのか」

「は?」

「僕が人間を煮ようが殺そうが、僕の勝手だ。謝る必要などない」

真田は腹が煮え繰り返りそうだった。カプセルを握り締めながら教室の戸を開ける。クラス全員が真田を振り返る。それに構わず、真田はテレビ画面に映る宇宙人に向かって叫んだ。

「勝手だと…お前が俺達を殺すのが勝手なら、俺はお前を殺す! いいか、俺はお前を、お前らメファールを絶対許さないからな!」

カプセルの数字が、84に減っていた。 


 

かなりハイペースで書き上げました(笑)欠点等がありましたら御指摘ください。


御感想、評価待っています。

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