嘘の日 小話
四月もまだ前半のためエイプリルフールにちなんでもいいはず…!
「もう、結局どっちなの? 気になるんだけど……!」
「あれ、ユイちゃんたちだ。どうしたの?」
「メイメイ、アンリ! それがね……」
とある日、宮廷の一角にて。
年若い女官が賑やかに話しているところに通り掛かったのは、仕事終わりのメイメイとアンリだ。
何やら面白そうな話をしているぞと、立ち止まって事情を聞いてみる。
「つまり、今ユイちゃんが読んでいる本で、女の子が幼馴染とくっつくのかどうか知りたいってわけだね!」
メイメイがふむ、と話をまとめてみると、少女たちは楽しそうに言い合いを始めた。
「そうそう。リンがね、最後幼馴染と結ばれるって言うから本当か聞き返したら、どっちでしょうってはぐらかしてきて!」
「あはは、もちろん教えないよー! ちゃんと最後まで読まなくちゃ」
「それはそうだけど、気になるものは気になるの。それなのに惑わせてくるなんて!」
メイメイも、その場合は最後まで読ませたい派である。
だが気になる気持ちも分かるぞと一人頷いていると、隣のアンリが表情を和ませた。
「ふふ、リンちゃんが冗談言った時って信憑性があるから、そう言われたら気になる気持ちが強まってしまいそう」
「確かに……! なんだろう、声色? 表情かな……」
思わず顔を見合わせるメイメイたちに、話題に上がった少女は得意げに笑う。
「わたし、揶揄いたい時はわりと真顔を意識しているからね!」
「意識すればうまくいくものなの? あ、そうだ! みんなで適当なこと言って、嘘か本当か当ててみない? まずメイメイから」
さっきまで地団駄を踏んでいた少女は手をぽんと叩いていたずらっぽく笑うと、メイメイに話を振ってきた。
「わっ、わたしぃ!? えーっとなんだろう……。じゃあ、実は恋愛ものよりも冒険ものを読む方が好きだよ……!」
「紛れもなく嘘ね!」
「うっ、すぐには思いつかないよぉ……。じゃあね、アンリは!?」
「あら、わたし? うーん、婚約者は二つ年上よ」
落ち着きのあるアンリは特に動じず、さらりと微笑んでみせる。
その表情があまりにもいつもと変わらないから、メイメイたちはうーんと悩んでしまった。
「待って、アンリも表情変えないね? む、難しい……!」
「ううん……、年上の人とも上手にお喋りできるから、本当……?」
「うふふ、嘘よ! 同い年なの」
「全然分からなかった! これ面白いねぇ。じゃあ……、次はユイちゃん!」
きゃっきゃと笑い声をあげる少女たちを、通りかかった文官は微笑ましそうに見ていた。
◇ ◇ ◇
「嘘か誠か当てる遊び?」
きょとんと目を瞬かせたのは、美貌の高官ソユンである。
父王の元に行った自分の主を迎えに行く最中に、普段同じ宮で仕事をする仲間たちに声を掛けられたのだ。
「ええ、最近若い女官の間で流行っているということですよ。ソユン様がどちらか気取らせないようになさったら、我々は果たして分かるのだろうかと話していて」
「そう? みんなにはお見通しだと思うけれど……」
しかし期待の目に囲まれてしまったので、ソユンは考えてみることにする。
「そうだね……。煮魚より焼き魚が好きとか、枕を変えると寝つきが悪くなるとか……?」
「む、これは本当のことを仰っているようにも見えますが……」
微笑むソユンに文官たちがううんと頭を悩ませたのは一瞬で、すぐに彼らの後ろから真偽を明かす声が発された。
「うん? そなたは煮魚の方が好きだろう?」
「それに枕がなくても無頓着に寝るくせに、そんなことが寝つきに影響するか?」
「「王太子殿下、王子殿下にご挨拶申し上げます!」」
すぐに反応した一同が、ざっと腰を落として挨拶をする。
並んでやって来たのは、この国の王太子と、その弟でありソユンの待ち人、ジフン王子だ。
前者は不思議そうで、後者は少し呆れたような表情を浮かべている。
ソユンも軽く膝を折って礼をすると、正解を当てて見せた王家の兄弟に笑いかけた。
「今は嘘か真かを当てる遊びをしていたのです。なんでも女官たちの間で流行っているとか」
「なら、俺の言うことも当ててみるか? そなたでも見抜けないことがあるのかは気になるな」
挑むように口角を上げた主に、ソユンもにこやかに応じる。
「ふふ、では一度おやりになりますか」
「はは、それは見ものだな。二人ともぜひやってみせてくれ」
「おや、こちらにいらっしゃったのですね。王子殿下もご機嫌麗しゅう」
「お、スホ、ちょうどいいところに! 今から二人が――……」
そこにソユンの兄も合流し、二組の兄弟は楽しげにその場を去った。
――宮廷の隅、とある女官のお喋りから始まったこの遊びは、こうして王族にも広まり、暫くの間宮廷の中で流行っていたのであった。
◇ ◇ ◇
「ソユン様! わたしは晴れの日がいちばん好きです……!」
そうしてまた別の日。
王都の大庭園でソユンを見かけたメイメイは、意気揚々と話しかけに行く。
「……本当、かな?」
「えっへへぇ、実は最近は薄曇りの日がいちばん好きなんですよ! ……あれ、でも前までは晴れた日の方が好きだったから、あながち間違いでもない……?」
うむむと眉を寄せるメイメイを見て、ソユンは柔らかに目尻を下げた。
「よく晴れた日が君には似合うよ。でも曇りの日も落ち着くよね」
似合うと言われて思わずにっこりと笑みを綻ばせながら、メイメイはソユンを見つめる。
晴れた日は窓際で本を読むのにちょうどよかったから、好きだった。
でも今は、薄曇りが好きなのだ。
見ていると心が弾んで、幸せな気持ちになるから。
考えていると少し気恥ずかしくなり、もじもじしながらソユンに問い掛けた。
「えへへ……、ソユン様はどんなお天気がいちばんお好きですか?」
ソユンが優しく笑みを返して口を開く。
その瞳は、いつものように時に紺や青の光を散らす、灰がかった空色をしていた。




