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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第8話 呼び捨て

「それで……ええと、沖浦(おきうら)さ――」

「……我が真名まなは『カズハ』。以後、この世界では……そう呼んでほち……そう呼ぶがいい」

 ああ、また変なところで噛んだ。


「そんな中二病プレイみたいなの、恥ずかしいなら無理することはないのに」

「……無理は、してない」

 いやまあ、ゲーム内なんだから本名じゃなくてキャラクター名を呼ぶというのはわかるが……それよりも名前の件で気になることがある。


「その名前だけど、そんな本名そのままで登録して身バレとかしないか?」

 ほぼ同じ事やってる俺が言うのもなんだが。

「……大丈夫」

 彼女の場合、根は面倒くさがりみたいだから言葉が少ないだけで、根拠のない発言では決してない……はず。


「……………………」

 とはいえ、しばらく待ったが続く説明はなさそうである。ならば、こちらから聞いておかないと、後でまた面倒なことになりそうだ。


「根拠は?」

「……例えば、リアルの友達と一緒にプレイする場合、うっかり本名やあだ名で呼んでしまうかもしれない」

「まあ、それはあり得るな」

 俺もそうだが、彼女のアバターも本物そっくりにできてるからな。俺もつい学校にいるときみたいに、沖浦さんとか呼んでしまいそうだ。


「……そんな時、同時通訳機能の応用で、聞かれたくない人にはキャラクター名に自動で変換してくれる」

「へえ……」

「……ガイドフォン、出して」

 彼女に言われたとおり、腰のホルダーにしまっていたガイドフォンを引っ張り出す。


「……キャラクター設定から、言語タブを開いて、同時通訳機能をオンにする」

「同時通訳……ああこれか。オンになったぞ」

「……次に、キャラクター設定は閉じて、フレンドリストから私を選ぶ」

 選ぶとか言われても、フレンドはまだnewの文字が付いたままのカズハ一人だけなんだが。


「……そこで、呼び名タブを開いて……変換候補に普段呼んでる名とか、うっかり呼びそうな名を登録する」

「じゃあ、普段の呼び名の『沖浦さん』を登録するぞ……よし、登録完了」

「……次に、変換先を入力する」

「ここに『カズハ』と入力すればいいのか」

「……! 違うっ!」

「えっ……? あ、そうか。他の人に聞かれてもいい名前にしないといけないのか」

「……ん。じやあ、私がよく使うハンドルネーム、『リーフ』を登録して」

「リ、ー、フっと、登録できた」

「……それから、カズハのほうもリーフに変換されるように登録して」

「うん。こっちも登録完了」

「……それから……ね」

 続けて、沖浦さん……いや、リーフさんと呼んだ方がいいのだろうか。彼女はさらに言葉を続ける。

 なんだか、その頬が少し赤みを帯びているように見えるのは気のせいだろうか。


「……それと、カズハの名は変換とかじゃなくて、ちゃんと呼んでほしい」

 いや待て。俺も『ゲン』なんていうキャラクターネームを使っている。これは俺の名である幻也(げんや)に由来するものだ。

 いやまあ、俺も安易に名前を付けたけどさあ。

 これじゃあまるで……。


「じゃあ、ええと……カズハさん?」

「……さん、はいらない」

 えー……いや、これ、俺が意識し過ぎなのかもしれないが。

「異性の下の名を呼び捨てってそれ……こ……それなりに特別な関係じゃないといけないんじゃ……」

「……そんなことはない。陽キャの人たちはよくやってる」

「いや俺たち陽キャじゃないだろ」

「………………」

 彼女は一瞬、ちょっと不機嫌というか、困ったような表情になるが、すぐに何かを決意するかのように拳を握りしめ、真顔でこちらに向き直った。


「……ゲン」

 彼女は名前を呼んで欲しそうに、まっすぐに俺の方を見ている。

 現実世界とほとんど変わらない、その姿で。

 現実世界では前髪の下に隠れている、その瞳をあらわにして。


 ……しょうがないなあ。

「カズハ」

 その名を呼んだ瞬間、唐突に頭に血が昇ってくるのを感じた。彼女の方から見たら、俺の顔は赤く染まっていたかもしれない。

 俺は女性恐怖症だし、これまで同級生の女子とはいい関係を築けていなかったのだが。

「これまで経験のないことでよく分からないんだが、もしかしてこれ、照れくさいとかそういうやつなんだろうか」

 ただ名前を呼んだだけなのに。


「……なんでそんな感情学習中のロボットみたいな」

 そういう彼女の方も顔を赤くして、顔を背け、時々ちらちらとこちらに視線を送ってくる。その表情は、恥じらっているようにも、嫌がっているようにも見えなくもない。

 いやこれ、嫌がっているわけじゃないよね。そもそも下の名前呼びが嫌ならこんな展開にはならなかったはず。

 あるいは、実際呼ばれてみたら予想外の不快感があったとかそういうものなのだろうか。


「……ん……大成功」

 いやだから、まだ名前呼んだだけなんだが。

 それとも、ちゃんと翻訳機能がはたらいているということなんだろうか。


 やっぱり、女子のことはよくわからない。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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