表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第一章 夏休み、はじめました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/52

第6話 もう一度……

 ビクッ! と、体が大きく震えるのを感じた。これはゲーム内のアバターではなく、現実世界の自分の体だ。


 目を開ければ、自室のベッドの上だった。


 熱中症対策でクーラーはつけていたのだが、それでも体が熱い。心臓が早鐘のように打っているのがはっきりと分かる。身に着けていたTシャツは、ぐっしょりと汗を吸い込んでいた。短パンと下着もだ。


 今のは死に戻りではない。通称、ドクターストップだ。


 プレイ中はサングラスとハチマキ、それに腕輪を組み合わせたようなゲームギアを身につけることになるが、それは仮想現実の世界を見せてくれるだけでなく、プレイヤーの心拍数や呼吸、体温などの状況を計測する機能を持つ。

 バーチャルリアリティのゲーム内では、普通のゲームと違って自身がゲーム内の出来事を、戦闘なんかも含めて体験することになる。

 中にはプレイヤー自身の苦手なことや嫌なこともあって、本体のほうに異常が生じれば自動的にログアウトされられる。それがこの、一般にドクターストップと呼ばれる機能だ。正式名称は別にあったはずだが、忘れてしまった。

 今回は、ゴブリンたちとの戦闘が昔のトラウマを呼び起こしたのだろう。

 

 重い体を起こし、着替えていると、枕元に置いたスマホから着信音が聞こえてきた。

 この音は、沖浦さんからだ。バイトのため、彼女だけ着信音を変えている。


「だ、だいじょうぶっ!?」

 スマホを操作すると、普段はあまり聞くことのない焦った声が聞こえた。


「ごめん」

 こちらの状態を聞いてきた彼女に、俺は謝罪で答える。


「……えっ」

「バイト始めたばかりで悪いんだけど……俺、この仕事向いてなさそうだ」

「……え……えっ?」 

 抑揚の少ない普段の彼女とは違い、明らかな驚きと戸惑いが伝わってきた。


「前に少し話しただろ。小学校の頃、クラスの女子みんなからイジメられてたって」

 まだ呼吸を整えながら、スマホの向こうの沖浦さんに話しかける。

「…………うん」

「その後色々あって、両親も亡くして、関西から関東(こっち)のほうに流れてきたけど、少し前まではほとんど女性と話もできなかったし、沖浦さんの前でも過呼吸とか起こして保健室送りになってただろ」

「………………うん」

 スマホから聞こえる沖浦さんの返事も、何だが弱々しい。

  

「少しは慣れたかと思ってたけど、人間型の相手と戦闘とか、無理みたいだ。恐怖の方が先に立つ」

「……そう」

「……だから、ごめん」

 そう言って、今回のアルバイト自体を断ろうとしたとき――。


「ま、待って!!」

 珍しく、彼女が大きな声を出した。

「っ!?」

 俺の体がびくりと震え、一瞬動きが硬直する。

「……あ、ご、ごめん」

 それがスマホ越しにも伝わったか、沖浦さんが謝ってくる。


「……でも、お願い、もう少しだけ、聞いて。このゲーム、戦闘だけじゃないから。生産職とか、普通の市民とかで暮らしてるプレイヤーもいるから」

 珍しいな。この人がこんな必死になるなんて。


「……農業とか、鍛冶とか、錬金術とか……そういう戦闘系じゃないプレイでもテストが必要だから。人型モンスターが嫌なら、ゲーム内で会わないようにもできるから」

「会わないようにって、なんかスキルとか取得しないといけないんじゃ」

「……いざとなれば、会社の人に頼み込んで、ゲンの周りだけ人型モンスターが出ないようにしてもらう」

「いや待て。ただのアルバイトにそんなことができるのか!?」

「……まだベータテストの段階だし、少しくらいなら融通、きくよ?」 

 そんな権限あるのか、この人?


「……ゲーム内でスローライフとかしたい人もいるし、そっちも、きっと楽しい、よ。島くんにもその楽しさを、知って欲しい」

 普段と様子の違う彼女に戸惑いはしたが、その気持ちは分からなくもない。


「……な、何かあったら、わ、わたしがっ、守るからっ!」

「好きなんだな」

「……ふえぇっ!?」

「このゲームが」

「……まあ……うん……そう……」

 同じ部でのやりとりで、この人が結構なオタクであり、アニメやゲームが好きなことは知っていた。しかし、本気でゲームのプログラマーを目指していることは、アルバイトの話を紹介されて初めて知った。


「……戦い以外でも経験値は手に入るし、農業とかやりながらスローライフってのもあり」

「スローライフ……か」

 名前だけはよく聞くが、具体的に何をするかまではよく知らない。

 それでもこのゲーム内では、農家だとか職人だとか、戦闘職でなくとも活躍の場は用意されている。そんな話は聞いた。


「わかったよ。バイト料も発生するみたいだし、初日からやめるのも迷惑だろう」

 紹介したアルバイトが早々に辞めたら、彼女の顔に泥を塗ることになる。

 俺は女性恐怖症ではあるけど、相手が女子だからといって不義理が許されるというわけではない。


「……よかった……」

「それじゃ、またゲーム内で」

「……ね、今度はいつ会え……いつアルバイトに参加できる?」

 それまでの焦った声と違い、今は若干喜んでいるような声にも聞こえる。スマホ越しで画像通話もしていないので、その表情はわからないが。


 な、なんかデートのお誘いっぽいセリフだな……。

 いやいや、付き合っているどころか友達かどうかさえ怪しいのに、それはないだろう。

 バイト仲間、というより仕事中は上司みたいなもんなんだから、変な意識は持たないようにしないと。

 

「……私は明日以降も、現実の朝9時から昨日の河原当たりで作業をしてる。また、来てくれるとうれしい」

「こっちは予定通り明日の午後かな。午前は宿題を片付けないと」

「……じゃあ、宿題が全部終わったら、もっと遊べ……テストプレイできる?」

 えっ?


「ま、まあ日程はまた考えるとして」

 俺も、ゲーム自体は嫌いじゃないんだ。

 テスターをして、少ないながらもバイト料がもらえるなんて理想の仕事じゃないか。文句をつけている余裕なんかない。


「そ、それじゃ、また明日」

「……ん、また明日」

 なんか恥ずかしくなったので適当に話を切り上げた。


 それでも、彼女の嬉しそうな声を聞くと、現金なものでこちらもついさっきまでの重苦しい気分もかなり(やわ)らいでいた。彼女が心配して連絡をくれなかったら、昔のトラウマがぶり返してしばらく一人で落ち込んでただろう。


 さて、明日から何をするか。


 食料が必要だが、採取だけでは限度がある。

「スローライフ……か」

 畑でも作ろうかな。


 そんなことを色々と考えているうちに、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


次回より、本格的にゲームが始まります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ