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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第三章 海で遊ぼう

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第49話 ふたりでお薬を

 さて、48の夏イベントとか言う謎ミッションで入手したダブルポーションなるもの。


 大きめのガラスの容器……ワイングラスを大きくしたというか、この手の容器には詳しくないんだが、柄の付いた大きな丸いグラス。それに入った、青くて半透明のブルーハワイというか、トロピカルドリンク的なもの。グラスのなかには炭酸の泡が見える。

 もしかしたらこういうの、普通はさらにフルーツとか色々と入っていたりするのかもしれないが、これは飲み物と氷だけ。まあこれは単なる飲み物ではなく、回復用のポーションのたぐいらしいから、それでも問題はないだろうが。

 問題はその飲み物自体ではなく、そこにささっている1本のストロー。いや、ドリンクに入っている部分は確かに1本なのだが、ハート型の部分を経由して2つに分かれ、飲み口はふたり分。

 たまに、漫画でカップルとかが飲んでいたりするやつだ。


「ラブコメ漫画に出てくるやつじゃないか。これ実在する代物なの?」

「……代物ゆーな。ちゃんとある種のお店で売ってる。わたしも飲んだことないけど」

「ある種のお店ってなんだ。高校生が行っても大丈夫か?」

「……だ、大丈夫だと思う。一度一緒に行って……い、いやまだちょっと早いかも」

「俺も飲んだことはないが、何だろう。何か違和感を感じる」

 俺の言葉に一瞬首を傾げるカズハだったが、すぐにグラスを持ち上げて勧めてくる。

「……とにかく、嫌なことの後は、楽しいこと、しよ?」

 楽しいのかなあ、これ。


「……これをふたりで飲むと、HPとMPが完全に回復する」

「MPの回復手段は貴重かもしれないな」

「HPを回復する手段は色々あるけど、これでMPまでも回復し放題だったら、バランスおかしくなるかも」

「確かにな。それで、これをひとりで飲んだらどうなる?」

 量をみる限り、ひとり分にしては多い気はする。ふたりなら……どうだろうか。


「……ひとりで飲んでも効果は出ない」

「どんな設定だよ」

「……そういうゲームだから」

「というかこれ、戦闘中に敵の目の前で飲んだりするの?」

「……一応、戦闘中は使用不可扱いにはなってる。飲もうと思えば飲めるけど、効果が出るまで時間が掛かるから、不推奨」

「ふたり揃ってやられるだけだろ」

「……とにかく、アイテムの挙動テスト、しよ?」


 拠点施設の四阿あずまやは、1辺3メートル近い大型の正方形のテーブルと、その四方に配置された長いベンチ、そしてテーブルの中央から真上に伸びる1本の柱と、それにささえられた角錐型の屋根からなる。

 この手のものをふたり同時に飲もうとすれば……対面は遠すぎるし、横並びでもちょっと飲みにくい。

 少し考えて、角を挟んで並ぶことになった。


「……じゃ、いただきます」

「いただきます」

 ふたりでそれぞれストローの端をくわえ、青い液体を吸う。

 こういうのは初めてだが、思ったより顔が近い。


「……甘い。おいしい」

「ちょっと甘すぎる気もするが、炭酸飲料ってこんなもんか」

 カズハは表情から判断する限り喜んでいるようだが、味そのものはごく普通の炭酸飲料だ。

 とはいえ、至近距離で見つめ合いながら飲むのは、なんというか……心臓の負担が大きい気がする。


 俺は視線を下に、謎の青い液体に向ける。

「そういえば、ブルーハワイって何の味だっけ」

「……かき氷のシロップは、色と香料の違いだけで味は同じって聞いたことあるけど」

「昔のシロップはそうみたいだけど、最近は果汁とかも使われているらしいが」

「……ブルーハワイだと……ハワイの海の味?」

「塩味だろそれ」


 俺は目を閉じ、ポーションの味に集中する。

 単なる砂糖の味ではない。何かフルーツが含まれているようだ。

 この甘さは一体……。


 そうやって俺がポーションを味わっていると、鼻先に何かが触れた。


「んんっ!?」

 目を開ければ、鼻と鼻が触れて……。

「ご、ごめん……っ!」

 慌ててストローから口を離し、顔を引く。


「……だ、大丈夫。わざと……だけど、わざとじゃないから」

「いやどっちなんだよ」

 嫌がってなさそうなのは良かったけど。

 小学校のころは近くを通るだけで嫌がられてたからなあ。


「鼻と鼻は触れられるんだな、このゲーム」

「……そういえば、具体的にどこまで大丈夫か聞いてなかった」

「待て」

 彼女がまた鼻先を近付けてくるのを避けようとして、先ほどからの違和感の正体に気付く。


「違和感の正体が分かった。妙に近いと思ったが、たぶんこのストロー、先端を口にくわえることを考慮してない」

 そりゃふたりで先端くわえたら、想定以上に顔も近くなるだろう。


「……つまり、こういうのを全く飲んだ経験がない人が作った?」

「いや待て滅多なこと言うな。飲んだことある人の方が圧倒的に少数派だろう」

「……っていうか、一緒に飲む相手が」

「いや待てそれ以上は止めとけ」


 面倒なことになりそうなので、話題を変えることにする。そういえば、以前ゲームをしていて気になることがあった。

「それはともかく、ラストエリクサー症候群って知ってるよな」

「……ん。希少で強力な回復アイテムを、使うのがもったいないからと使用しないでいると、ラスボスや裏ボスを倒した後も、ずっと使うことなくアイテムボックスに入ったまま残ってしまう」

 それは、そのゲームをプレイしなくなる日、ある意味、その世界の終わりまで続く。まさに、アイテムを入手できなかったのと同じ。

 そんな現象のことを、ある有名ゲームのアイテムの名からそう呼ぶ。


「……これはむしろ、その対策のひとつ。これならもっと気楽に使ってもらえる」

「いや逆に使いにくくない? 奇数パーティーでひとりあぶれたり、誰と飲むかで内紛勃発しそう」

「……専用のストローを使えば、最大6人パーティーで一度に飲むこともできるけど」

「VRが生んだ地獄絵図」

 やっぱりサークルクラッシャー的なものなんじゃないか、これ。


「例の症候群の元ネタもさ、このカプセル・フェニックス社のゲームのアイテムじゃないか」

「……うん」

「もともとどういうものを想定してたんだ? まさかびんをみんなで回し飲みするわけじゃないだろ」

「……最後の人回復できなそう」

「グラスに小分けして……それができるなら最初からひとり用を用意しろって言われそうだな」

「……開発の人、そこまで考えてないんじゃないかな」

「おおい!?」

 この人、時々先輩社員の皆さんに失礼なこと言うな。


「……ねえ、ゲンならどんな形にする?」

「ええと、すぐに思い付くものなら、気体でないと効果がでないタイプかな」

「……と、いうと……例えば?」

「揮発性の高い液体とか、固体では消化吸収が困難で、お香みたいに火を点けて煙を吸う形なら。それなら一人でなく複数人でも摂取できるし、むしろ人数いる方が効率的。敵も回復する可能性があるから、戦闘中の使用は非推奨」

「……た、確かにそれならば、条件を満たせる」

「ただし、大きな欠点がある。見た目が完全に脱法ドラッグ」

「……やっぱり、ドリンクタイプがいいかな」

「いや、さっきも言ったけどそれはそれで」


 チリリリリン。


 ガイドフォンがいつもとは違う通知音を鳴らした。


 視界の端で、少しだけ減っていた俺のHPバーと残り少なかったMPバーが光を放ちながら伸び、一気に全回復する。

 俺のものと並んで表示されていたカズハのそれも同じように。


「全回復したぞ。これで問題なし……」

 ストローから口をはずして体を起こすと、まだストローをくわえたままのカズハと目が合う。


 ポーションは、まだ3分の1ぐらい残っていた。


 ……しようがないな。


 俺はもう一度ストローに口を寄せ、カズハと一緒に残っていたポーションを飲み干す。


 ピコン!

 今度はいつもの通知音とともに、視界の端に文字が現れた。


――ユニークミッション【48の夏イベント:カップルドリンク】をクリアした!――


「え?」

 そもそもこの飲み物、そのミッションの報酬だったわけで。

「いやこれマッチポンプじゃない!?」

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