第48話 雨がやんだら
至近距離での落雷。
光と同時に、轟音までもが俺たちを包む。
目を閉じ、耳を塞いで、魔法の効果が収まるのを待つ。
雷の魔法使うたびにこれはちょっとなあ。対策もあるとは思うが。
ピコン!
通知音が聞こえた。
目を開けば、さすがに雷の光は消えている。
そして音の方も、雨音に交じって、波の音も聞こえてきた。
視界の端に文字が見えた。
――中ボス【メイジマーリン】の討伐に成功した!――
何かちょっと反則技に近いものもあった気がしたが、とにかく勝った。
「カズハ?」
見れば、彼女は砂浜の上にうずくまり、未だに目と耳をふさいだままだ。
そういえば、隕石落下の時にも様子がおかしかった。
もしかして、雷か、あるいは大きな音か何かが苦手なのかも。
俺も砂浜の上に膝をつき、視線を合わせるようにして話しかける。
「もう大丈夫だ。敵は倒したから、もう雷は――」
許可もなく触れるのははばかられたが、慰めるようにその右肩に軽く触れる。
「ゲン!」
がばっ、と普段よりも5割増の速さで顔を上げたカズハが、突然俺にしがみついてきた。
「ちょ……!」
驚きと抗議の声を上げそうになった俺は、彼女の体が小刻みに震えていることに気付く。倒れそうになり、両腕で上体を支える。
そのまま、カズハも俺も動きをとめる。
カズハの両腕は、俺の首と背中に回されている。
背中に乗られたり、オンブはあったけど、こんなふうに向かい合ってのハグみたいなものはなかった。カズハの方はそれを望んでいたふしもあるが、俺の方は女性恐怖症があるので、応えるのは難しい。そう思っていた。
だが、こんな状態のカズハを無下に突き放すのも心苦しい。
女性の扱いに慣れた男なら、こちらからも手を伸ばして抱きしめたりするのかもしれないが、俺にはどうしたらいいのかわからない。
女性恐怖症のためか、はたまた女子と急接近したせいか、俺の心臓が急激に活発化したのがわかった。いや、小学校の頃のような不快感は小さいが、このままではまずい気もする。
ただ、体を支えている両腕を動かせば後ろに倒れ込んでしまいそうで、こちらも動けない。
やがて、メイジマーリンが呼び寄せた雲は風に流され、海の向こうへと帰ってゆく。
雲の切れ間から顔をのぞかせた太陽は、ふたたび真夏の空から俺たちを照らしている。
いつのまにか、カズハの震えも収まっていた。
「……っ!? ごめん。」
カズハが慌てて飛び退く。
「こっちこそごめん。カズハの苦手なものを考えていなかった」
「……ううん、大丈夫」
「確認するが、雷だけじゃなく、大きな音がするものが苦手なのか?」
隕石が落ちた時の様子を思い出しながら、質問を投げかける。あの後は、隕石の回収に行きたがっていたから、怖がっていたのも一瞬かと思ったのだが。
砂浜の上、俺たちはひとり分ほどの間を空け、海の方を向いて並んで座る。
「……小学校3年の時、家族でキャンプに行ったことがあったんだけど、急に天気が悪化してね……」
真夏の輝きを取り戻した海を見ながら、カズハは語り始めた。
「……夕立というかゲリラ豪雨で、風も強くなって、テントの外は嵐みたいになって、そして、すぐ近くに雷が落ちたの。テント越しでも、外が真っ白になって、音もものすごく近くから聞こえて、まるで、世界の終わりみたいな。そのとき、わたしははじめて、このまま死んじゃうのかもって、思った」
「…………」
何と声をかければいいのか、まったく思いつかないまま、俺はカズハの声に耳を傾け続ける。
「……その時は両親が一緒だったから、まだ安心していられたけど……それから雷が苦手になった。今回も、ゲンがいてくれて、良かった」
そしてカズハは、視線を海から俺の方に移す。
「……ありがとう」
「あ、いや……どういたしまして」
俺はどうこたえていいかわからず、何とかそう声を絞り出す。
俺はただ、この場に居合わせただけだ。礼を言われるようなこともしていないのに。
「……ごめん。でもこれからは、雷も虫も、克服したい」
「え?」
いや、誰にも苦手なものはあるし、そんな無理して克服するもんでも……。
「まあ、轟音とか閃光とかは耐性スキルもあるみたいだし」
「……そうじゃなくて、現実世界の方で、平気になりたい」
え……?
「いやそれこそ、雷が近くに落ちるなんて1年に1度あるかないかだし、都会に住んでいれば虫も見る機会は少ないし」
俺の発言を制するかのように、カズハが手を挙げる。
「……わたしは雷と虫が怖いのを、ゲンは女の子が怖いのを……どっちが先に克服するか、勝負」
「なんでそうなる」
この人は、見かけによらず……おとなしめの文学少女風の見た目に反して、変なところで負けず嫌いなのだ。
元はといえば、このゲームのβテストに俺が参加することになったのも、テストの順位で負けたからだった。
「それで、具体的にはどうするんだ」
「……それはゆっくり考えるとして、戦利品とかチェックしよ」
俺の反論を封じるように、カズハは話題を変える。確かに、急ぐもんでもないだろうが。
そして、ガイドフォンを操作して、ふたりして動けなくなっていた間のメッセージログを表示する。
――[隕石]を5個手に入れた!――
――[隕鉄]を3個手に入れた!――
「これ、加工用の素材だろ?」
隕鉄は特に、刀の材料とかになったりするな。
「……そのうち私たちも加工できるようになる、はず」
――ゲンのキャラクターレベルが6になった!――
――ゲンの魔道士レベルが2になった!――
――ゲンの魔道士レベルが3になった!――
――カズハのキャラクターレベルが4になった!――
――カズハの戦士レベルが4になった!――
――カズハのキャラクターレベルが5になった!――
「トッププレーヤーに比べたら遅いかもしれないけど、俺たちはゆっくりやればいいか」
「……ん、順調順調」
――ユニークミッション【48の夏イベント:水着でバトル】をクリアした!――
「これ、夏イベントでいいのか?」
「……ゲンは冬にも水着で遊んだりする?」
「バトルはしないぞ」
――ユニークミッション【48の夏イベント】を8個クリアした!――
――[ダブルポーション]を手に入れた!――
8というのは中途半端な気もするが、6分の1達成か。
「ダブルポーション?」
回復用の強化版だろうか。
ガイドフォンを操作し、アイテムボックスに自動で送られたそれを取り出す。
「え、これはまさか……」
思わず声が出た。
これ、ラブコメとかでたまに見るやつじゃないか?




