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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第三章 海で遊ぼう

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第48話 雨がやんだら

 至近距離での落雷。

 光と同時に、轟音までもが俺たちを包む。

 目を閉じ、耳を塞いで、魔法の効果が収まるのを待つ。

 雷の魔法使うたびにこれはちょっとなあ。対策もあるとは思うが。


 ピコン!

 通知音が聞こえた。

 目を開けば、さすがに雷の光は消えている。

 そして音の方も、雨音に交じって、波の音も聞こえてきた。

 

 視界の端に文字が見えた。


――中ボス【メイジマーリン】の討伐に成功した!――


 何かちょっと反則技に近いものもあった気がしたが、とにかく勝った。


「カズハ?」

 見れば、彼女は砂浜の上にうずくまり、未だに目と耳をふさいだままだ。

 そういえば、隕石落下の時にも様子がおかしかった。

 もしかして、雷か、あるいは大きな音か何かが苦手なのかも。


 俺も砂浜の上に膝をつき、視線を合わせるようにして話しかける。

「もう大丈夫だ。敵は倒したから、もう雷は――」

 許可もなく触れるのははばかられたが、なぐさめるようにその右肩に軽く触れる。


「ゲン!」

 がばっ、と普段よりも5割増の速さで顔を上げたカズハが、突然俺にしがみついてきた。


「ちょ……!」

 驚きと抗議の声を上げそうになった俺は、彼女の体が小刻みに震えていることに気付く。倒れそうになり、両腕で上体を支える。


 そのまま、カズハも俺も動きをとめる。


 カズハの両腕は、俺の首と背中に回されている。

 背中に乗られたり、オンブはあったけど、こんなふうに向かい合ってのハグみたいなものはなかった。カズハの方はそれを望んでいたふしもあるが、俺の方は女性恐怖症があるので、応えるのは難しい。そう思っていた。

 だが、こんな状態のカズハを無下に突き放すのも心苦しい。

 女性の扱いに慣れた男なら、こちらからも手を伸ばして抱きしめたりするのかもしれないが、俺にはどうしたらいいのかわからない。

 女性恐怖症のためか、はたまた女子と急接近したせいか、俺の心臓が急激に活発化したのがわかった。いや、小学校の頃のような不快感は小さいが、このままではまずい気もする。

 ただ、体を支えている両腕を動かせば後ろに倒れ込んでしまいそうで、こちらも動けない。


 やがて、メイジマーリンが呼び寄せた雲は風に流され、海の向こうへと帰ってゆく。

 雲の切れ間から顔をのぞかせた太陽は、ふたたび真夏の空から俺たちを照らしている。


 いつのまにか、カズハの震えも収まっていた。


「……っ!? ごめん。」

 カズハが慌てて飛び退く。

「こっちこそごめん。カズハの苦手なものを考えていなかった」

「……ううん、大丈夫」

「確認するが、雷だけじゃなく、大きな音がするものが苦手なのか?」

 隕石が落ちた時の様子を思い出しながら、質問を投げかける。あの後は、隕石の回収に行きたがっていたから、怖がっていたのも一瞬かと思ったのだが。


 砂浜の上、俺たちはひとり分ほどの間を空け、海の方を向いて並んで座る。

「……小学校3年の時、家族でキャンプに行ったことがあったんだけど、急に天気が悪化してね……」

 真夏の輝きを取り戻した海を見ながら、カズハは語り始めた。


「……夕立というかゲリラ豪雨で、風も強くなって、テントの外は嵐みたいになって、そして、すぐ近くに雷が落ちたの。テント越しでも、外が真っ白になって、音もものすごく近くから聞こえて、まるで、世界の終わりみたいな。そのとき、わたしははじめて、このまま死んじゃうのかもって、思った」

「…………」

 何と声をかければいいのか、まったく思いつかないまま、俺はカズハの声に耳を傾け続ける。

「……その時は両親が一緒だったから、まだ安心していられたけど……それから雷が苦手になった。今回も、ゲンがいてくれて、良かった」

 そしてカズハは、視線を海から俺の方に移す。


「……ありがとう」

「あ、いや……どういたしまして」

 俺はどうこたえていいかわからず、何とかそう声を絞り出す。

 俺はただ、この場に居合わせただけだ。礼を言われるようなこともしていないのに。


「……ごめん。でもこれからは、雷も虫も、克服したい」

「え?」

 いや、誰にも苦手なものはあるし、そんな無理して克服するもんでも……。

「まあ、轟音とか閃光とかは耐性スキルもあるみたいだし」

「……そうじゃなくて、現実世界の方で、平気になりたい」

 え……?


「いやそれこそ、雷が近くに落ちるなんて1年に1度あるかないかだし、都会に住んでいれば虫も見る機会は少ないし」

 俺の発言を制するかのように、カズハが手を挙げる。


「……わたしは雷と虫が怖いのを、ゲンは女の子が怖いのを……どっちが先に克服するか、勝負」

「なんでそうなる」

 この人は、見かけによらず……おとなしめの文学少女風の見た目に反して、変なところで負けず嫌いなのだ。

 元はといえば、このゲームのβテストに俺が参加することになったのも、テストの順位で負けたからだった。


「それで、具体的にはどうするんだ」

「……それはゆっくり考えるとして、戦利品とかチェックしよ」

 俺の反論を封じるように、カズハは話題を変える。確かに、急ぐもんでもないだろうが。

 そして、ガイドフォンを操作して、ふたりして動けなくなっていた間のメッセージログを表示する。


――[隕石]を5個手に入れた!――

――[隕鉄]を3個手に入れた!――

「これ、加工用の素材だろ?」

 隕鉄は特に、刀の材料とかになったりするな。

「……そのうち私たちも加工できるようになる、はず」


――ゲンのキャラクターレベルが6になった!――

――ゲンの魔道士レベルが2になった!――

――ゲンの魔道士レベルが3になった!――

――カズハのキャラクターレベルが4になった!――

――カズハの戦士レベルが4になった!――

――カズハのキャラクターレベルが5になった!――


「トッププレーヤーに比べたら遅いかもしれないけど、俺たちはゆっくりやればいいか」

「……ん、順調順調」


――ユニークミッション【48の夏イベント:水着でバトル】をクリアした!――


「これ、夏イベントでいいのか?」

「……ゲンは冬にも水着で遊んだりする?」

「バトルはしないぞ」


――ユニークミッション【48の夏イベント】を8個クリアした!――

――[ダブルポーション]を手に入れた!――

 8というのは中途半端な気もするが、6分の1達成か。


「ダブルポーション?」

 回復用の強化版だろうか。

 ガイドフォンを操作し、アイテムボックスに自動で送られたそれを取り出す。

「え、これはまさか……」

 思わず声が出た。

 これ、ラブコメとかでたまに見るやつじゃないか?

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