表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第三章 海で遊ぼう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/52

第47話 ファイティング・イン・ザ・レイン

 バショウカジキ型モンスター、メイジマーリンが呼び寄せた入道雲は、夏空をあっという間に灰色に塗り変えた。

 すぐに雨が降り始め、1分と経たずに土砂降りになる。

 夕立と呼べばまだ風情があるが、まだ昼間だし、今で言うとゲリラ豪雨というやつだ。


「……雨に踊れ。【相合傘(あいあいがさ)】」

 カズハはウォーハンマーを仕舞い、以前見た傘型の武器を取り出す。これも武器種としてはハンマー扱いらしいのだが、どう考えてもネタ武器だよな。


――天候が大雨になりました――

――木行のレベルが一時的に上昇します――

――期間限定で、使用可能な魔法が増えます――


「木行? 水行じゃなくて?」

「……水生木すいしょうもく。草花に水をあげると育つように、水行は木行の力を高める」

 別の五行の力を弱める五行相剋ごぎょうそうこくとは別に、力を高める五行相生ごぎょうそうしょうというものもある。


「まあそうだけど、水行は何の影響もないのはおかしくないか」

「……何の影響もないわけじゃないけど」

 そう言うとカズハは、左手に装備した傘を右手で指差す。

「……これ、カサだから、天候が雨の時は性能が上がる」

「それは武器の特性じゃないか。五行説のシステムとは違うだろ」

「……まあ、そう言うルールだから」

 上空を泳ぐメイジマーリンを見あげながら、カズハの声を聞く。

 現実世界の法則に加え、魔法の設定まですべてをゲームに落とし込むのは無理だろう。


「それはさておき、新しい魔法だが……」

 俺はガイドフォンから、木行の魔道書を取り出す。それはいつもと違って、ぼんやりとした緑色の光をまとっていた。


「……だ、大丈夫?」

「ああ、ちゃんと『予習』はしてきた」

「……じゃ、わたしが前衛やるから、またゲンのかっこいいところ、見せてね」

「え?」

 彼女が何のことを言っているのか、俺にはよくわからなかった。

 それでも、上空を泳ぐメイジマーリンがその身をくねらせたことに反応し、俺は叫ぶ。


「来るぞ!」

「……ん」

 メイジマーリンは上空から急降下、俺に向けて迫る。

 そこに、傘を広げたカズハが立ちふさがった。

 バシッ!

 傘の向こうで、衝突音が響く。

 メイジマーリンが槍を横薙ぎに振るったのだ。

 実際、カジキは餌の小魚を狩るとき、こうやって吻で打ちすえて動きを止める。


「カズハ!」

「……大丈夫。ダメージはない」

 この傘、初めて見たときは完全なネタ武器と思ったが、実は攻防一体の高性能武器なんじゃないか?


蔓草つるくさよ、からめ取れ。【クリンビングヴァイン】!」

 新しく使えるようになった呪文を唱える。

 地面からツタのような草が生え、魚体に絡みつく。


「今のうち!」

「ん!」

 カズハは短く答え、傘をたたんで剣のように振り下ろす。

 俺は一瞬考えて、MP節約のため魔道士装備の杖で殴りかかる。

 ふたりの攻撃で、敵のHPバーは5分の一ほど減る。やっと攻撃がまともに通った。

 カズハがさらに追撃を加えようとするが、蔓に抑え込まれていたメイジマーリンは激しく暴れまわる。

 ブチブチと蔓の千切れる音が聞こえてきた。それほど強力な魔法ではないのは確かだが、拘束時間は思った以上に短いようだ。


 距離を取った俺たちの目の前で、メイジマーリンはまた曇天の空へ舞い上がる。

 俺が魔法で作った蔓草を何本か、その身に巻き付けたまま。


 だがその隙に、使えるようになった魔法は、流し読みながらちゃんと確認できた。

 もうひとつ、一時的に使えるようになった魔法を使う。

「綿毛よ、舞い上がれ。【フライングフラフ】」

 メイジマーリンに絡みついたつるのひとつに、小さなつぼみが生まれる。

 それは一瞬で成長し、タンポポのような黄色い花を咲かせ、そしてはかなく散った。その後に残された白い塊は、雨の中でもふわりと膨らんで綿毛となる。


「風よ、わが敵を押し退けよ。【ウインドブロウ】」

 新たに使えるようになった魔法には、こんなものもある。

 五行説の木行は、その名の通り植物、そして生命の力を借りる魔法であるが、実はそれだけではない。風も木行に含まれるもののひとつだ。

 

 魔法で吹き飛ばした綿毛はそのまま、上昇気流に乗って高く舞い上がる。敵が呼んだ入道雲――積乱雲も上昇気流を生んでいる。

 蔓でつながれたメイジマーリンよりも、さらに高く。綿毛は、昇ってゆく。

 俺も魔力をさらに送り、蔓をさらに伸ばす。


 続けて、別の攻撃魔法を撃つ。

「宿り木よ、矢となれ。【ミストルティン】」

 上空のメイジマーリンの体を、木の矢がかすめる。

 与えるダメージは微々たるものだが、攻撃を嫌ったかメイジマーリンはさらに高度を上げる。


「……ゲン。それじゃ、魔法が届かなくなるよ」

 不安げなカズハの声が届く。

 一瞬、メイジマーリンの上に文字が見えた気がした。

 何かの魔法かスキルを使ったと思われるが、この距離ではよく見えない。


「痛っ!?」

 肩や頭にごく軽い痛みが走る。

「……【ニードルレイン】。雨に攻撃力を与える水行の魔法。こちらの魔法はもう届かないけど、向こうは……」

「そうか。雨だから縦方向なら距離は関係ないのか」

「……何とかして低いところに落とさないと」

「いや、もっと上空に上がってもらう方がいい」

「……ゲン? それは、一体……?」


「一旦、四阿あずまやまで逃げよう」

「……ん」

 上空を警戒しながら、カズハと並んで走る。


「綿毛の魔法は知ってるだろ」

 先ほど俺が使った【フライングフラフ】の魔法のことだ。


「……あれは……単なる観測気球みたいなもの。レベルが上がったら……初級の使い魔的な運用もできるようになるけど」

「カズハも言ってたじゃないか。このゲームには無限の可能性があるって」

「……で、でも、観測気球に何の可能性が……?」

 カズハがさらに俺に近づき、見上げてくる。


「避雷針」

「……ひっ!?」

 俺の言葉に、カズハが悲鳴にも似た声を上げる。

 何だろう。俺のいいところが見たいとか言ってたのに。

 いや、不安ですらなく、もしかしたら恐怖の方が大きいように思える。


「カズハ? 本当に大丈夫なのか? もし怖いなら」

「大丈夫」

 俺の言葉を遮るように、カズハが声をあげた。

 そのまま、四阿あずまやの屋根の下に駆け込む。


「なら、最後の魔法を手伝ってくれ」

「……え……? これ、使えるの?」

 木行には、植物だけでなく風、そしてもうひとつ、雷も含まれている。それはカズハも知っているはず。


「ああ、俺とカズハと、敵だけどメイジマーリンが呼んでくれた入道雲――つまり雷雲と大雨の力まで借りて、何とか使えるようになった」

「…………」


 魔道書を開き、カズハと並んで読み上げる。

「「雷雲よ、天と地を結べ。雷霆らいていむちで、わが敵を討て。【ライトニングフォール】」」

 詠唱とともに雷雲が白く輝き、光の柱が雲から伸びた。


 そして、天と地をつないだ輝きが、メイジマーリンを飲み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ