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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第一章 夏休み、はじめました

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第4話 ゴブリン

 さらに森の奥に隠れようと、ゆっくり後退する。


 パキッ!


 俺の足の下で、踏み折られた小枝が音を立てた。やっぱり、この森の中で静かに動くなんて、素人にできるはずもない。


 ゴブリンたちも騒ぎだした。さすがに気付かれたか。

 とにかく、音が出るのも構わず、森のさらに奥へと潜り込み、小さな茂みの中にしゃがんで息を潜める。

 しばらくして、落ち葉を踏み分け、石を蹴散らす音が近くで響き始めた。

 まずいな、これ。

 茂みの中にいるので周りは全く見えないが、敵が近づいている。

 こちらが動いた時の痕跡も残っているし、見つかるのは時間の問題だ。果たしてどんな目に合うやら。


 腰のフォルダからガイドフォンを取り出し、マップのアイコンをクリック。

 マップの機能は、これまで目視した範囲だけが自動で地図化されるというもの。

 今いる森の様子が、画面上に映し出される。


 リアルだと航空写真を撮影した時の画像が出て、現在の状況と一致しないこともあるけど、ゲーム内であれば今現在の状況が表示されるはず。


 もちろん、マップなので相手の位置まではわからない。今必要なのは、この後逃げるべき場所だ。


 今いるあたりは、森林が広がっている。

 少し離れると、地図に雲がかかっていて見えないようになっていた。これはたぶん、そこに近づくか何かで解放されるのだろう。

 見える範囲は今いる広場と、そこから伸びる3本の道らしきもの、そして山の斜面。ここは平坦だが、北の方に山があるらしい。


 近くの草を引き寄せ、何本かまとめて結ぶ。

 それから、その近くのササをナイフで斜めに切る。

 草刈りをする時には、切り口を地面と平行に切らないといけない。

 そうしないと、残された切り株が槍のようになってしまう。

 以前、うっかり踏んづけて、スニーカーを貫通して足に刺さったことがあった。


 そんな思い出を振り返りながら、即席の罠を仕掛ける。

 それを何度か繰り返しつつ、ゴブリンたちのいる方法と反対に逃げた。


「グギャアーーッ!」

 直後、背後から敵意のこもった叫び声が聞こえてきた。

 視界の端に、戦闘中であることを示す、交差する2本の剣のアイコンが現れる。

 やっぱり、会話で何とかするというわけにはいかないようだ。

 最近のラノベなんかだと、ゴブリンは雑魚キャラではなく、知能も高く、集団で人を襲うモンスターとされているが、ゲームとは言え自分が犠牲者になるとは。


 しまった。見つかる前にログアウトするべきだったか。

 戦闘に入ってしまった以上、ログアウトして逃げることはできない。


 いや、ログアウト中もアバターは残ると聞いた。無防備なままやられるだけだ。


 戦いに勝つか、負けて死に戻りするか。もしくはゲーム内で逃げ切るか。方法は3つ。


「ギャアッ!?」

 追ってくる足音に、悲鳴のような声が混じった。

 即席の罠に引っかかってくれたらしい。

 しかし、そんなものはただの足止め。

 殺傷力が足りない以上、そのうち追いつかれる。


 敵は5体もいる。まともに戦って勝ち目がない以上、何とかして安全なところまで逃げるしかない。

 いずれ倒さなければならない相手かもしれないが、初戦闘の相手としては分が悪すぎる。距離を取って体勢を立て直そう。


 さて、どうやって逃げよう。

 逃げ回っていれば、何とか向こうが諦めてくれないだろうか。しかし、普通に走って逃げても追い付かれるだけだろう。

 敵は5体もいるが、言い換えれば5体しかいないのだ。

 包囲網にも隙は生じるはず。


 山の斜面が見えてきた。

 それなりに急だが、うまく登る場所を選べば逃げ切れるかも。


 比較的登りやすそうなところを、ジグザグに登る。相手もまっすぐには登れないはず。


――アクションスキル【クライミング】を取得可能となった!――

 少し登ると、そんなメッセージが視界の端に表示される。

 仕方ない。これはこの後もいろいろと使えそうだ。

 スキルポイントを1ポイント消費し、スキルを有効化する。


――アクションスキル【クライミング】を1レベル取得した!――


 これで少しは距離が稼げるか。


 そのまま逃走に移ろうとした時、右足に激痛が走り、そのまま転倒する。

「ぐぅっ!」

 見れば、右足の太ももに矢が突き刺さっていた。

 そういえば、アーチャーがいたな。

 抜こうとするが、(やじり)に返しでもついているのか、うまく抜けない。

 抜くのをあきらめ、できるだけ足に近いところで矢を折る。


「つっ!?」

 普通の攻撃なら痛みは一瞬のはずだが、踏み出した足に再度痛みが巻き起こる。

 矢を完全に抜かなかったせいで、スリップダメージが発生したようだ。

 ダメージ自体は3ポイントと表示されただけだが、右足を踏み込むたびに、軽い痛みが走る。

 これでは、走って逃げることも難しい。


 そのうち、そこにいなかったゴブリンたちが集まってきて、すっかり包囲されてしまった。

 もはやこれまで。


 5体全てに勝つのは当然無理と感じつつも、せめて1体位は。そう決心して足の痛みに耐えつつ立ち上がる。

 1体のゴブリンが近づき、棍棒を振り上げる。

 覚悟を決めた瞬間だった。


 一陣の風が吹き、眼前のゴブリンが真横に吹き飛ぶ。


「……ごめん。遅くなった」


 少女の声が聞こえた。


 いつの間にか、俺とゴブリンたちの間に、人影が立ちはだかっていた。

 まるで、アニメでみたヒーローのように。

 セーラー服姿の女子が。

ここからヒロインが本格登場します

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