第4話 ゴブリン
さらに森の奥に隠れようと、ゆっくり後退する。
パキッ!
俺の足の下で、踏み折られた小枝が音を立てた。やっぱり、この森の中で静かに動くなんて、素人にできるはずもない。
ゴブリンたちも騒ぎだした。さすがに気付かれたか。
とにかく、音が出るのも構わず、森のさらに奥へと潜り込み、小さな茂みの中にしゃがんで息を潜める。
しばらくして、落ち葉を踏み分け、石を蹴散らす音が近くで響き始めた。
まずいな、これ。
茂みの中にいるので周りは全く見えないが、敵が近づいている。
こちらが動いた時の痕跡も残っているし、見つかるのは時間の問題だ。果たしてどんな目に合うやら。
腰のフォルダからガイドフォンを取り出し、マップのアイコンをクリック。
マップの機能は、これまで目視した範囲だけが自動で地図化されるというもの。
今いる森の様子が、画面上に映し出される。
リアルだと航空写真を撮影した時の画像が出て、現在の状況と一致しないこともあるけど、ゲーム内であれば今現在の状況が表示されるはず。
もちろん、マップなので相手の位置まではわからない。今必要なのは、この後逃げるべき場所だ。
今いるあたりは、森林が広がっている。
少し離れると、地図に雲がかかっていて見えないようになっていた。これはたぶん、そこに近づくか何かで解放されるのだろう。
見える範囲は今いる広場と、そこから伸びる3本の道らしきもの、そして山の斜面。ここは平坦だが、北の方に山があるらしい。
近くの草を引き寄せ、何本かまとめて結ぶ。
それから、その近くのササをナイフで斜めに切る。
草刈りをする時には、切り口を地面と平行に切らないといけない。
そうしないと、残された切り株が槍のようになってしまう。
以前、うっかり踏んづけて、スニーカーを貫通して足に刺さったことがあった。
そんな思い出を振り返りながら、即席の罠を仕掛ける。
それを何度か繰り返しつつ、ゴブリンたちのいる方法と反対に逃げた。
「グギャアーーッ!」
直後、背後から敵意のこもった叫び声が聞こえてきた。
視界の端に、戦闘中であることを示す、交差する2本の剣のアイコンが現れる。
やっぱり、会話で何とかするというわけにはいかないようだ。
最近のラノベなんかだと、ゴブリンは雑魚キャラではなく、知能も高く、集団で人を襲うモンスターとされているが、ゲームとは言え自分が犠牲者になるとは。
しまった。見つかる前にログアウトするべきだったか。
戦闘に入ってしまった以上、ログアウトして逃げることはできない。
いや、ログアウト中もアバターは残ると聞いた。無防備なままやられるだけだ。
戦いに勝つか、負けて死に戻りするか。もしくはゲーム内で逃げ切るか。方法は3つ。
「ギャアッ!?」
追ってくる足音に、悲鳴のような声が混じった。
即席の罠に引っかかってくれたらしい。
しかし、そんなものはただの足止め。
殺傷力が足りない以上、そのうち追いつかれる。
敵は5体もいる。まともに戦って勝ち目がない以上、何とかして安全なところまで逃げるしかない。
いずれ倒さなければならない相手かもしれないが、初戦闘の相手としては分が悪すぎる。距離を取って体勢を立て直そう。
さて、どうやって逃げよう。
逃げ回っていれば、何とか向こうが諦めてくれないだろうか。しかし、普通に走って逃げても追い付かれるだけだろう。
敵は5体もいるが、言い換えれば5体しかいないのだ。
包囲網にも隙は生じるはず。
山の斜面が見えてきた。
それなりに急だが、うまく登る場所を選べば逃げ切れるかも。
比較的登りやすそうなところを、ジグザグに登る。相手もまっすぐには登れないはず。
――アクションスキル【クライミング】を取得可能となった!――
少し登ると、そんなメッセージが視界の端に表示される。
仕方ない。これはこの後もいろいろと使えそうだ。
スキルポイントを1ポイント消費し、スキルを有効化する。
――アクションスキル【クライミング】を1レベル取得した!――
これで少しは距離が稼げるか。
そのまま逃走に移ろうとした時、右足に激痛が走り、そのまま転倒する。
「ぐぅっ!」
見れば、右足の太ももに矢が突き刺さっていた。
そういえば、アーチャーがいたな。
抜こうとするが、鏃に返しでもついているのか、うまく抜けない。
抜くのをあきらめ、できるだけ足に近いところで矢を折る。
「つっ!?」
普通の攻撃なら痛みは一瞬のはずだが、踏み出した足に再度痛みが巻き起こる。
矢を完全に抜かなかったせいで、スリップダメージが発生したようだ。
ダメージ自体は3ポイントと表示されただけだが、右足を踏み込むたびに、軽い痛みが走る。
これでは、走って逃げることも難しい。
そのうち、そこにいなかったゴブリンたちが集まってきて、すっかり包囲されてしまった。
もはやこれまで。
5体全てに勝つのは当然無理と感じつつも、せめて1体位は。そう決心して足の痛みに耐えつつ立ち上がる。
1体のゴブリンが近づき、棍棒を振り上げる。
覚悟を決めた瞬間だった。
一陣の風が吹き、眼前のゴブリンが真横に吹き飛ぶ。
「……ごめん。遅くなった」
少女の声が聞こえた。
いつの間にか、俺とゴブリンたちの間に、人影が立ちはだかっていた。
まるで、アニメでみたヒーローのように。
セーラー服姿の女子が。
ここからヒロインが本格登場します




