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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第一章 夏休み、はじめました

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第3話 冒険の支度

「……装備とか職業とかスキルのことだけど……それはまた、実際に必要になったら説明するよ。これからちょっとプログラム関係の仕事をしないといけないんだけど、何かあったら遠慮なく呼んでね」

「わかった」

「……じゃあ、改めて……『グレイト・ライフ・オンライン』の世界へようこそ」

「お、おう、ありがとう」

 なんというか、沖浦(おきうら)さんの立ち位置が社員寄りの気もするが、目指すところはそれなんだろうな。プログラマー志望って言ってたし。


 俺なんか、将来の夢なんて漠然としたものしかない。

 だから、彼女のそれは尊敬に値するものだと、そう思う。


「……他のゲームみたいな、魔王を倒すとか、世界を平和にするとか、そんな目的はこのゲームにはないよ。少なくとも今のところは」

 あんまりこの手のゲームには詳しくないんだが、ラスボスが存在したらガチ勢にあっという間に攻略されて、ゲーム自体が崩壊してしまったりするんだろうか。


「……モンスターと闘うのも、魔法を究めるのも、商人や職人を目指すのも、農業や漁業を営むのも、それぞれのプレイヤーの自由」

「とはいえ、あまり自由度が高すぎるのも困りものだな。何から手を付けていいものやら迷う」

「……現実世界だって、そんなものだよ」

「………………」

 ……そうかなあ。


 その後少しだけ話して、はじめてのゲーム内通話は終わった。

 現実世界と同じように、ガイドフォンの通話ボタンをタップして会話を終了する。


 そういえば、現実世界を含めてもこんな長電話も初めての経験だ。

 小学校の時にいろいろあって、俺は長い間女性恐怖症を患ってきた。

 それでも、ずっと女子を避けて続けるわけにもいかず、最近では必要最小限の会話ができるくらいには回復した。同じ部活の彼女……恋人ではなく単なる代名詞……とは、友達というほど親しいわけでもなく、それでも少しずつ会話が交わせるようになっている。


「はあ……」

 ため息を一つ。そして我に返った俺は、またガイドフォンの操作を再開する。


 高校二年の夏休みは始まったばかりだ。去年は退屈を持て余していた夏休みだが、今年はこのゲームのテストプレイを含めてやることが多い。

 まだまだ先は長いなんて考えていたら、一度しかない十六歳の夏休みはあっという間に終わってしまいそうだ。


 まずは、何から始めようか。

 この手のVR――仮想現実――は初めてでも、家庭用ゲーム機や携帯端末でRPGはいくつかやったことがある。

 だから、まるっきり勝手がわからないってわけでもない。


 最初は、買い物と情報収集……は無理だな。

 ここは森の中。周りに店どころか人っ子一人見当たらない。

 とりあえず、経験値稼ぎの相手でも探すべきなんだろう。

 まずは、そのための武器防具から用意するか。


「んー……『装備』」

 ガイドフォンの画面から、剣と盾のイラストが描かれたアイコンをタップする。

 経験値稼ぎをするにも、装備が重要だろう。


右手:[初心者のナイフ]

左手:装備なし

頭:装備なし

腕:装備なし

胴:装備なし

腰:装備なし

足:装備なし


 装備なしといっても、当然ながら決して裸ではない。

 あらためて自分の体を見おろすと、白い半そでのYシャツに紺のスラックス、そして皮のブーツを身に着けていた。

 これが、何の防具も装備していない状態の姿。このデフォルトの姿にも結構な種類があるが、無難に高校の制服に近いものを選んだ。

 まあ、俺には服装のセンスなどないに等しいので……。


 ちなみにこの服はシステム上、これ以上脱ぐことはできない。水着なんかを装備すると、多少露出度は上げられるらしいが。

 防御力も、この状態だと素の肉体分だけが適用される。


 それから、ベルトの左側には鞘に納められた一本のナイフ。右側にはガイドフォンのホルダー。装備品はそれだけだ。


 続けて、空中に浮かんだ装備画面の「初心者のナイフ」の文字に触れてみる。


[初心者のナイフ]  ★

種別:武器/小刀

攻撃力:5  重量値:2  耐久値:50/50

解説:入手も取り扱いも簡単な、入門用の武器。戦闘用だけでなく、工具・調理器具としても役立つ。


「耐久値……50?」

 これが0になったら、壊れて消滅するんだろうか、やっぱり。

 そうなったら、後は素手で戦わなければいけないんじゃないか?

 だから早いうちに予備の……いやむしろ、これからメインとして使っていく武器を用意しなければ。


 とはいえ今の段階では鍛冶(かじ)とか、その他金属加工は無理。材料もないしな。

 モンスタードロップも、始めたばかりでは期待できそうにない。

 今のところ、戦うべきモンスターも見当たらないし。

 くどいようだが、こんな森の中に武器屋その他の店もない。


 この初心者のナイフ、工具や調理器具としても使えるそうだから……使うならやっぱり木工用か。

「ひとまず、木刀(ぼくとう)でも作ってみるか」

 そんなことを考えていると、広場のような場所から伸びる道の向こうから、人の声と足音が聞こえてきた。


 誰か他のプレイヤーが、と一瞬考えたが、ここがゲーム内世界であることを考えるとそうとも限らない。人型、もしくは人語を操るモンスターの可能性もある。


 複数、それもおそらく3人以上。声の主はこちらに近づいているようで、このままじっとしていれば鉢合わせしそうだ。

 声は少しずつ大きくなる。だが、話の内容はよくわからない。もしかしたら、別の言語なのかもしれない。


 1分足らずで、森の獣道から濃い緑色の肌の人型生物が5体、姿を現した。


 体格は、動物園で見たチンパンジーくらい。

 二本足で立った状態で、165センチの俺より頭ひとつぐらい小さい。

 ボロ布のようになった服を身にまとい、()びた剣を(たずさ)えている。

 耳はとがっていて、その顔つきは……モンスターとはいえあまり他者の容姿をとやかく言える立場じゃないが……人と似た作りになっているものの、醜怪さというか不気味さを感じさせるデザインとなっていた。


「もしかして、あれがゴブリン……なのか?」

 小声で口に出すと、鑑定スキルの効果だろうか、離れたところにいる小鬼たちの頭上に【ゴブリン】と書かれた小さなウィンドウが浮かんだ。

 【ゴブリン】が4体、【ゴブリンアーチャー】と表示された、弓を装備した個体が1体。


 やっぱり、敵だろうな。ライトノベルなんかだと、ゴブリンを味方にしたり、自分がゴブリンに転生する作品だってあるが。


 ゴブリンが少なくとも5体。

 さすがに駆け出しのキャラが敵う相手ではない。

 ここでのこのこ出ていったら死に戻り確実だ。


 このまま、奴らがどこかに行くまでやり過ごすか。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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