第2話 チュートリアル
『……もしもし、無事ログインできた?』
このあたりは、普通のスマホで通話する感覚と変わらない。
「沖浦さん……」
沖浦数葉。
俺と同じ榎ヶ丘高校の2年生で、クラスは違うが同じ『理数部』の部員だ。
『……こっちではその名前じゃなくて、『カズハ』だから』
「ああ、わかっ……た……?」
あれ? カズハって、この人の下の名前そのまんまなんじゃ……。
『……で、そっちは『ゲン』でいいんだよね』
抑揚の少ない、少しのんびりした口調。
なんというか、ライトノベルなんかによく出て来る、台詞の始めに三点リーダが入っているような話し方も、普段と変わらない。
クール系というかダウナー系というか、感情表現が下手、慣れていない、という感じなのだ。
俺も人の事は言えないが。
「ああ、そうなんだが」
『……何か問題でも?』
「いや、名前の件は大丈夫」
問題と言うか、自分でやっといて何だが、こっちも下の名前ほぼそのまんまなんだよな。
島幻也。
それが俺の本名であり、『ゲン』というのは以前からゲームのプレイヤー名としてよく使っていたものだ。
いつものクセと言われればそれまでなんだが……。
『……それで、ゲン、体の方は問題ない?』
なんというか、他人に下の名前で呼ばれるのってこれまでほとんどなかった気がする。
少々気恥ずかしいが、自分で付けた名前だから仕方ない。
『VR酔いとか、痛いところとか』
「それは特にない。VR酔いって、話には聞くけど俺はなったことはないな」
「……そうなんだ……」
スマホ、いやガイドフォンの向こうからは、呆れたような困ったような声が返ってきた。
「……で、すぐにも合流したいんだけど、ちょっとこっちも仕事があって動けない」
「ああ、仕事なら仕方ない。レベル上げでもしておくよ」
この人が、カプセル・フェニックス社という、誰もが名を聞いたことのある大手ゲーム会社でアルバイトをしていることは、最近知った。
単なるアルバイトというだけでなく、プログラマー見習いとして多忙な日々を送っていることも。
小学校の時のトラウマで女性恐怖症を患っている身であるが、女子であっても夢を追う人の邪魔をするつもりはない。それでは俺をいじめ続けた奴ら以下である。
「……何かあったら、遠慮なくガイドフォンから呼んでね。すぐ行くから」
「ん。わかった」
「……で、このまま簡単にチュートリアルをやるけど……まずはステータス確認かな」
「え? 転生物のアニメみたいなやつ?」
「……『ステータス・オープン』とかやりたいなら、その方法もあるけど」
「いや、他の方法があるならそっちの方がいいかな」
「……それじゃあ、まず通話用のウィンドウを縮小して、トップ画面を表示する」
ステータス用のアイコンは、すぐに見つかった。いくつか並んでいるアイコンの一番左上だ。
それをタップすると、ゲームのようなステータス画面が表示された。
まあ、今やっているこれもゲームではあるが。
「ちょっと字が小さいな」
「……そのステータス表示をスワイプするの。画面からウィンドウを放り出す感じで」
ガイドフォンの画面に触れ、上に弾き上げる。指の動きに合わせて表示もずれ、目の前の空中へと拡大されたステータスが映し出された。
立体映像の技術自体は少し前からあるが、それと比べてもかなり鮮明な映像だ。夏の真昼の日ざしの中で、はっきりとその輪郭を保っている。
まるで、いわゆる転生もののアニメに出てくるような……。
いや、それを言うならば、目の前に広がる鬱蒼とした森だって、現実ではないVRの産物なのだ。俺の眼にはまったくそうは見えないけれど。
「……デバッグ中だから特別に私にも見えるようになっているけど……普通って言うか平均的って言うか……」
もしかして、けなされてる?
「この手のパラメーターを自分で設定できるゲームには詳しくないんだが、一応ある程度均等に振ってみた。とはいえ、どうせ戦闘になるだろうから筋力と、命中に影響するであろう器用は少し多めにしてる」
ステータスは開始前にボーナスを割り振ったとおりで、『この世界』における一般人よりも強い程度らしい。このゲームのプレイヤーは要するに、英雄候補みたいなものだ。だから、一般人の平均的なステータスである10に、さらにボーナスが追加される。
「……ん。他のゲームなんかと同じようなものだけど、『筋力』は戦闘時におけるダメージが増えるだけじゃなく、装備の種類とか、戦闘以外でも力仕事の結果にも反映される。『器用』は攻撃の命中率の他、一般職で作れるものの出来栄えに影響する。『速度』は移動力、攻撃順、回避力など色々と、主に戦闘で役に立つ。『体力』はいわゆるスタミナ……持続力とか防御力、それに最大HPとか、『魔力』は魔法の威力や精度、最大MPあたりに関係する」
そういえば、魔法もあるんだったな、この世界。そういうのは、もう少しこの世界に慣れてからでもいいか。
「ところで、他のゲームでいう知力とか賢さに該当するようなパラメーターがないようだが」
「……それは、中の人依存」
「ああ……いわれてみればそうか」
知力を低く設定したら、頭の回転が遅くなったり、知識が頭の中から消えたりしたら怖いしな。
「……だから……期待してる、よ?」
「え……?」
俺が彼女のその言葉の意味を図りかねているうちに、話題は次のものに移っていた。
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