第17話 はじめての料理
ぐううううぅぅぅぅ。
結構大きめの音が響く。
カズハはぎこちない動きでこちらを見ると、頬を薄く赤らめながら、ぽつりとつぶやいた。
「……おなかすいた」
「その腹の虫なんだが、ゲームのエフェクトかなんかなのか?」
「……腹の虫ゆーな」
「何と呼べばいい?」
「……満腹度アラームとでも名付けよう」
また勝手に妙な名前を……。
「っていうか、満腹度でいいのか? 空腹度じゃなくて」
「……減るもんだから」
減る?
「ああそうか。空腹度にすると、少なくなるほど腹が減るから、逆に空腹度が高いほど満腹に近いってことになるんだな」
だから、満腹度、か。
「……ゲームのエフェクトかどうかは管轄外だからよく知らないけど、現実でもたまにある」
「たまに?」
「……ゲームとか作業とかに集中してると、あっという間に数時間経ってることがある。そんな時、食事の時間を知らせてくれる」
「いや、知らせてくれるって……」
この人、現実世界の方が放置するとまずいことになりそうなんだが。そのうちなんとか……いや俺がどうにかするべきことか?
「悪いけど現実世界の話はひとまず置いとくぞ。ゲーム始まってから結構立った気がするが、あまり減らないもんなのか」
「……満腹度やHP、MPはログアウト中に少しずつ回復するようになってる」
「もしかしてこの体、ログアウト中は勝手に何か取って食べてたりする?」
「……こわい」
「まあ確かに、ログインしたとたんに空腹で動けないなんてのも困るけど」
「……ずっとこの世界で生きてるなら、それだけで消耗してもおかしくないけど……みんながいつもログインしてるわけじゃなし。まあ、ゲームだからということで」
「わかった。1プレーヤーが考えることでもないしな」
俺のその言葉に、カズハは小さくうなずく。
「……それはともかく、逆にログイン中は減る一方で、何か食べない限り勝手に満腹度は回復しない」
「もしかして、ほっといたら餓死したりする?」
「……満腹度が0になると、今度はHPが減るようになる。HPが0になったら死に戻り」
「じゃあさっさと何か食べるとしよう」
で、問題は。
「何か食べ物持ってる? 例えば米とか」
「……非常食しかない」
そう声を掛けるが、カズハは何度も大きく首を横に振る。何でそんな激しく……?
「俺も、いま採った魚くらいしかないな。その辺の木の実とは合わなさそうだが」
「……魚料理、作ろう」
「そうだな。薪を用意しないと」
「……落ちてる枝とか集めたらいい?」
「多分それでいいはず。できるだけ太目で乾いたものを頼む。魚の方はこちらで準備するよ」
「……おーけー」
というわけで、先日捕まえたイワナとアマゴとアユを2匹ずつ取り出す。
食料庫アプリの中に入れておけば、とりあえず賞味期限が切れたり腐ったりはしない。現実世界ではともかく、ゲームだとしばらくログインできなかったりするからなあ。
ちなみに冷蔵庫の方は、飲食物を冷やすためのものらしい。そっちは資金不足のためまだ有効化していない。
素手で内蔵やエラを抜く。敵のドロップで包丁とか出ないもんかなあ。
細くてきれいな木の枝を串にして、口から魚を縫うように刺す。それを6匹分作って、ひとまずその串を地面に差しておいた。
ガイドフォンを取り出すと、アイテムボックスを開き、中にある入門セットをタップする。
これは、ゲーム開始時に運営から送られた……ゲーム内ではたぶん国とかギルドとかからという設定なのだろう……いくつかの支給品。
簡易テントとかマッチとか非常食とか飲料水とか低級傷薬とか、冒険の準備が整っていない低レベルキャラクター向けのアイテムが色々と入っている。
今回取り出したのは、塩。
現実世界のスーパーで売っているようなプラスチックの蓋がついたガラス瓶は気になったが、深く考えないことにする。
それと、これから使うであろうマッチと飲料水も出しておいた。
そして、串を打った魚に塩を振る。瓶の中身が、4分の1ぐらい減った。
「……わ。思ったより本格的」
ちょうどカズハが、木の枝を抱えて戻ってきた。
これが本格的って、一体どんなものを想像してたんだ。
「……ほんとに、料理できるんだね」
「まあ、ある程度はな」
個人的にこの話題はあまり引っ張りたくないので、話をそらすことにする。
「ところで、塩も少なくなりそうなんだが、そうなると岩塩を探して掘るのは大変そうだから、やっぱり海で製塩することになる」
「……海! 海行きたい!」
急にカズハが目を輝かせて、身を乗り出してくる。
「そんなに海に行きたいの」
「……夏休みの定番」
「まあ、俺も釣りに行ったりはするが」
「……そうじゃなくて海水浴とか」
「そういうのは縁がないなあ」
「……わ、わたしもそうだったけど、今年は、ね」
「海もいずれ行く予定だったけど、とりあえず拠点を作ってからだな」
「……えー」
それよりも今はまず、食事だな。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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