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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第15話 ホーネット

「……なんか、甘いにおい、しない?」

 すぐ隣を歩いていたカズハが、いぶかしげな声をあげる。

「ああ、これなら現実世界でも一応は嗅いだことがある。別に怪しいもんじゃないと思う」

 実際に嗅ぐ機会は少ないが、かつて俺たちの住む街が森だった頃には、普通にあたりを漂っていたはずの匂い。

 

 少し歩くと、その源はすぐに見つかった。

 獣道の途中で、不意に視界が開ける。スタート地点もそうだったが、森の中に広場のような草原があり、その中央には一本の大木がそびえ立っていた。


「なんと言うか、不自然な地形だなあ」

「……ここもたぶん、ゲームシステム上のポイントだと思う」

 それはさておき、甘い匂いはその大木の幹から漂ってきている。


「さっきはエノキだったけど、こんどはクヌギなのか」

「……くぬぎ?」

「カブトムシやクワガタが集まる木として知られているんだけど、今住んでいるような都会ではほとんど見られないな」

 その幹を調べてみると、しみ出す樹液に集まっている虫たちがいた。


「カナブン、か」

 そうつぶやいた途端、ガイドフォンから短い着信音が響き、眼前にメッセージが表示される。


――図鑑に「虫」が5種登録された!――

― アプリ『虫かご』が開放された!―

― [こども用虫あみ]3本を入手した! ―


「これで昆虫採集ができるようになったみたいだな」

「……おのれ、わたしが虫嫌いと知っての狼藉ろうぜきか」

「なんでそんな武士もののふみたいな言い回しを。っていうかゲームシステムはカズハのところの会社が作ったんだろう」

「……部署が違うから全部はわからないもん」

 ねたような表情で、カズハは目をそらす。


「前に夏休みがテーマのゲームがあっただろ。子供の頃にもなかなかできなかったような昆虫採集が楽しめるやつ」

「……夏休みゲームはやったけど、虫取りは無視してた。ムシだけに」

「…………まあ、それは人によりけりだろうけど、虫取りとかそういうシステムのテストプレイをする人材も必要じやないか」

「……あれは夏休みを満喫するゲームであって虫取りゲームじゃないから。他にも夏休みにできることをしようよぉ」

「まずここを解放したらな。あ、カズハは下がっていたほうがいいぞ」

「……え?」

「たぶんここの小ボスも虫系だと思う」


 俺がそんなことを口にした直後。

 ブウゥゥゥン――。

 どこからともなく虫の羽音が聞こえた。


 似たようなものは現実世界でも聞いたことあるが、それよりもずっと大きい。

 森の広場に影が落ち、羽音の主が姿を現した。


 スズメバチ。


 いや、さっきのハエトリグモジャンピングスパイダーと同様に、現実には存在しないサイズのモンスターだ。高校生としては身長の低い俺だが、そんな俺の体格よりも少し小さい程度。


「……ッ!?」

 そんな巨大バチをの当たりにして、カズハは顔を引きつらせながら逃げていく。

 まあ仕方ない。誰にも苦手なものはある。


「……が、がんばって」

 【応援】スキルのバフを残して。


 【ホーネット】

 そんな名が、(はち)の頭上に表示された。

 敵モンスターは英語名だったりするのだろうか。


 ハチは地上2メートルほどのところでホバリングをしながら、カチカチと大あごを鳴らしてこちらを威嚇する。


 現実世界だったら5センチほどのスズメバチに威嚇されても逃げるところだが、こちらならなんとか戦える。

 とはいえ、飛んでいる相手に対抗できるような飛び道具は今はない。


 物を投げるスキルが習得可能となっていたようだが、スキルポイントも限られるし、場当たり的にスキルを得るのは悪手だろう。


 隙を見せないよう、ハチの姿を視線に捉えながら、両足で足元を探る。適当な大きさの石を素早く拾い上げ、ハチ目掛けて投げ付けた。

 投石だけなら、現実の能力でもできる。スキルも必要ないだろう。


 しかし、ホバリングをしていたハチは、体をひねって石をかわす。

 敵の武器は腹の先の毒針と、頭の大アゴのはず。現実世界のスズメバチと同じならば。

 向こうから攻撃するにはこちらに近寄らないといけないはずなので、近付かせないように投石でけん制を……。

 だが、俺の隙をうかがうように円を描いて飛んだハチは、その腹を振りかぶるように上げる。


 振り下ろされた腹の毒針の先から、液体が飛び散るのが見えた。同時に【ポイズンスプレー】の表示が頭上に浮かぶ。

「忘れてた。こいつらにも飛び道具はあった!」

「ゲン!?」


 毒液と思われる飛沫は空中で拡散し、3メートルほど離れたこちらにも飛んでくる。

 慌てて横に走って避けた。

 浴びればどんな効果があるのか、試してみる気にもならない。


 もう一度こちらから投石。やはり簡単にかわされる。

 開けた広場ならともかく、森の中では動きが制限されるはず。ハチに背を向けることなく、ゆっくり後退する。

 森に飛び込んだとたん、速度を上げて木の陰に隠れる。だがハチは俺を追い、木を回り込んで追ってきた。

 こちらもさらに別の木の後ろに隠れる。枝を一本引っ張りながら。

 さらに追跡してきたハチ目がけて、引っ張ってきた枝を解き放つ。鞭のようにしなる枝がハチに襲いかかり、命中こそしなかったもののハチは空中でバランスを崩した。

 そこに蜂の(はね)を目がけて石を投げ込む。薄く半透明な翅は破れ、ハチは地に落ちた。

 さらにクスノキの棒を叩きつける。虫特効なので少しは効果があるかと思ったが、ハチの体はクモよりもずっと硬かった。

 2。

 ほとんどダメージになっていない。木の棒ではだめだ。

 地を這いながら追いかけてくるハチに、逃げながら石を投げ付ける。

 かなり時間がかかるだろうと思ったが、投石4発でハチの動きは止まった。


【アラームフェロモン】

 ハチの頭上に、そんな文字が浮かび、力尽きたハチと一緒に消える。

 これは……それぞれの個体は比較的弱いが、仲間を呼んで数で押すタイプか。


「……ゲン。大丈夫?」

 離れたところで様子をみていたカズハが駆け寄ってくる。

「一匹倒したけど、まだ終わってないみたいだ」

 ハチは消えたのに、視界の端にある交戦状態を示すアイコンが消えない。


「仲間を呼ばれたようだな」

 木々の向こうから、ハチの羽音がかすかに聞こえてくる。それも、おそらく複数。


「……に、逃げよ?」

「もっと強くなったら、また来ればいいか」

 ふたりで並んで少し走るうちに、戦闘エリアを抜けたようで、いつの間にか交戦中のアイコンも消えていた。


 直後、ガイドフォンからファンファーレのような音が聞こえてきた。

 着信音ではないようだが……。


――【ホーネット】1体を倒した!――

――[蜂蜜]1個を入手した――

――ゲンのプレイヤーレベルが2に上がった!――


 そんな言葉が、視界の隅に浮かぶ。

 なんとか先ほどのクモの経験値や棒づくりの経験値と合わせ、成長できたようだ。


 いやそれはいいとして、何で蜂蜜?

 まさかここの運営、スズメバチとミツバチを混同してる?


最後までお読みいただきありがとうございます。

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