第14話 並んで歩く
はじめての敵、ジャンピングスパイダーを倒した報酬として手に入れた初心者の服を装備してみた。
その見かけは、ファンタジー風のゲームに出てくる村人のようなシャツ。
「……防御力3、ゴミ」
「いや、ゴミも積もればなんとやらだろう」
っていうか、カズハのアルバイト先で作ってるものじゃないか。まあ、半分はネタなんだろうけど。
「……でも、似合ってる、よ」
「あ、ありがとう」
いやまあ、これはお世辞だろう。初心者の服は上半身だけで、下半身はデフォルト装備である現代風のスラックスだ。早く他の防具を手に入れなければ。
新たに拠点となったエノキの広場から周りを見回せば、獣道のような細い道が3本ほど、森の奥へと延びているのが見つかった。
「……それじゃあデー……えっと、散歩でもしよっか」
デー? デート……いやそれはないだろう。恋人どころか友達かどうかも怪しいのに。データ収集か何かだな。
「散歩って言うか、探索かな。素材とかも手に入れたいし」
「……それにテストプレイも」
◆
というわけで、森の中の獣道をふたりで歩いている。
拠点であるエノキの広場から続く3本の道から1本を適当に選んで探索を始めていた。
「いくつか聞きたいことがあったんだが」
「……うん」
疑問を投げかけようとすると、カズハからやる気のなさげな返事が返ってきた。
クール系というかダウナー系というか、これが高校における素で、決して機嫌が悪いとかそういうものではないはず。
実際ゲーム内では、高校では見たことのない表情をいくつか見てはいる。
「このゲームの貨幣通貨って『エン』なんだな」
「……このあたりの通貨はエン。日本人にわかりやすいように、だいたいゲームの1エンは現実の1円とほぼ同じ」
「それ、リアルで課金が必要?」
「……ううん。ちゃんとゲーム内でお金は稼げるようになってる」
しかし、ゲーム内通貨が存在するということは、ゲーム内で社会が発達していて、町や村があってそこで通貨が流通しているってことなんじゃないか。
ということは、スタート地点のガチャ的なもので俺がはずれを引いたってことになる。
まあいいか。これはこれで面白そうだ。
「……ゲン?」
気が付けば、カズハが俺の顔をのぞき込んでいた。
「あ、ああごめん。ちょっと考え事をしてた」
体を引きながら答える。なんか、距離が近いな。ちょっとやりにくい。
「で、次の質問なんだが――」
そうやって、ゲームのことをいくつか聞きながら歩いていたのだが、たまに手と手とか、肩と肩が触れそうになる。
……いや、近くない? 並んで歩いているだけのはずなのに、カズハが妙に近い気がする。
そう思って少し離れようとするが、気がつけばまた至近距離にいる。
何だか、カップルみたいな距離感だ。
いや、カップルは手をつないだり腕組んだりするもんだろうから、並んで歩くぐらいで意識し過ぎなのかもしれん。フレンドになったばかりだし、この人の方も距離感をつかみかねているの可能性もある。
いじめにあっていた小学校の後に時に比べれば多少は慣れたが、とはいえやっぱり落ち着かない。
「こ、こういう時って、縦に一列に並ぶもんじゃないか?」
思わず、妙なことを口走ってしまう。
「……昔のゲームじゃないんだから……」
「まあ、VRなんだし、好きなように歩けばいいんじゃないか」
「……じゃ、そうする」
そう言うとカズハは、素材を探す俺についてくる。
俺が曲がれば、軌道をなぞるかのようにその直後を。
ああこれ、まだキャラクターがドット絵の時代のやつだ。スマホアプリで復刻版をやったことがある。
「……楽しい?」
「ごめん俺が悪かった」
「……ん。じゃあ普通に歩こっか」
まだ、少々やり取りはぎこちないが、もう一度横に並んで、さっきよりもほんの少しだけ距離を取って、また歩き始める。
女子と二人、こんなに長く行動を共にしているのははじめての経験だ。
不用意に近づかれると落ち着かなくなるが、それでも結構楽しい。
これまで女子の友達なんていなかったから、何か……変な感じだな。本当はまだ友達ではないのだろうが。
不安がないと言わないが、小学校のころのような不快感を感じないのは幸いだ。
現実の世界で、友達とゲーム。残念ながら、そんな経験は今までなかったけど。
ただ一緒にプレイするだけでなく、ゲームの中に入り込んで、単なる登場人物ではない誰かと冒険する。
もし、小学校の時のいじめがなければ、誰かとこんなふうに小さな冒険を繰り広げていたのかもしれない。子供っぽい言い方だけど、なんだかワクワクする。
「……で、次は何するの?」
「スローライフメインとはいえ、少しくらいレベルは上げた方がよさそうだからな。モンスター倒して経験値稼ぎでもするか」
「……ん。今度はふたりで一緒に戦おう」
「でも大丈夫か? なんかこのゲーム、虫系モンスター多そうだけど」
「……まあ、そうだけど」
「経験値稼ぎなら一人でもなんとかなりそうだし、虫がイヤならカズハは拠点で待っていてくれればいいよ」
そう言うと、カズハはちょっと拗ねたような顔になる。
こんな顔も、現実世界では見た覚えがない。これも距離が縮まったということなんだろうか。
「……ゲンだってクモに苦戦してたのに」
「あれは小ボスだろ? 一般モンスターだっているんじゃないか」
そんなことを話しながら歩くうちに、道の先から甘いにおいが漂ってきた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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