第1話 冒険の始まり
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筆者の別作品、「沖浦数葉の創作メモ ー浦島太郎のウラ話ー」の前日譚になります。
目を開ければ、鬱蒼とした森の中にいた。
近くの山でよく見る、杉や桧からなる人工林とは明らかに違う。広葉樹の生い茂る豊かな森だ。
俺が今いる場所は広場のように上空が開けていて、足元には背の低い草が生い茂っている。
周りには、自分以外に人の姿は見当たらない。人の声も聞こえない。
聞こえて来るのは鳥の声。そして……。
『ミィーンミンミンミンミンミィーーー』
『ジリジリジリジリジリジリ……』
「これ……ミンミンゼミにアブラゼミじゃないか」
鳥の声の方はさすがに詳しくないが、セミの声くらいならわかる。
これはまるで、我が国日本から一昔前に消えてしまった自然の風景のようだ。
「おかしい。こんなところがスタート地点なのか?」
思わず口に出してしまい、あわてて周囲に人がいないことを確かめ直す。
深い森の中には、やっぱり人の姿はない。
この手のゲーム……フルダイブ型のVRMMOは初めてなんだが、普通は街なかから始まるもんじゃないのか?
βテストといっても、これはおかしい。なんかいきなりバグ発生してない?
◆
フルダイブ型VRMMO-RPG、『グレイト・ライフ・オンライン』。
今世紀の初めごろから、仮想現実に関する技術は急速に発達し、一般人にも比較的容易に関連機器が手に入るようになった。
そしてついに、俺たちが中学生の頃には、以前はアニメやラノベのネタでしかなかったダイブ型、つまり現実と区別が付かないようなリアルな世界に入り込んでゲームをプレイするということが現実となったのだ。
とはいえ、この手のゲームはいまだに玉石混淆だ。前世紀のゲームのようなポリゴンを多用したキャラしか出てこないものや、逆にキャラクターはリアルなのに動きが単純過ぎて人間らしさが感じられないものなんかも多いらしい。
これまでは勉強だのバイトだののせいで、時間を取られるこの手のゲームとはあまり縁がなかったのだが……。
知人の紹介で発売前のテストに参加できるようになったこのゲームは、これまでのゲームとは一線を画する出来だと、ネット上で噂されていた。
確かに、偉大なる生命の名の通り、このゲームでは自然の描写についてはかなり高度な技術が使われているように見える。
目の前の木々は少し前のゲームで見られたような、コピーで生み出されたものとは違う。
木々の一本一本、いや、足下に生えている草でさえ、同じものは一つとして見当たらない。
現実の森と同じ、個性を持った無数の生命の集まりとして描き出されているのだ。
木漏れ日に照らされた草木。
響き渡るセミの声。
萌えいずる若草の香り。
そして、肌をなでる夏の風。
全身で感じるこれらは、俺たちが生まれる前に多くが失われてしまったという、この国の原風景なのだろうか。
◆
「で……何をすればいいんだ、ここから」
ゲームの運営会社でバイトをしているという知人に、ゲーム内でチュートリアルを頼むつもりだったが、裏目に出たというべきなんだろうか。
分厚いマニュアルに目を通すのは面倒だし、半ば廃人化しつつある知人と違って、こちらはリアルもある。夏休み中だけで、あまり深入りする気はない。
あっちの方は、引きずり込む気満々らしいが。
とはいえ、その知人がいないので、現状すらよく分からない有り様である。
「まさか、ここに一から町を興せとなんて言わないだろうが……」
たしか、知人に借りたライトノベルのネタに、そんなのがいくつかあったな。
ああいうのは、主人公が俗に言うチートスキル持ちでなんとかなっているけど。
始めたばかりのゲームに、そんなものがあるわけない。
「スキル……か」
そういえば、スキルってどうやって使うんだ?
いや、そもそも、レベル1の時点で何か使えたりするんだろうか。
VRとはいえゲームなんだから、どこかでステータスを確認できるんだろうが……。
プルルルル……!
不意に、電話の着信音に似た音が間近で鳴り響いた。
驚いてあたりを見回す。
その音は、自分の腰の辺り、ズボンのベルトに取り付けられた携帯電話ケースのようなものから聞こえている。
そこから取り出されたものは、広げた手のひらにかろうじて収まるくらいの四角く平たい機械。その表面には、パソコンのデスクトップ……というより、携帯の待ち受け画面のように、いくつかのアイコンが表示されている。
というか、ほとんどスマートフォンそのものだ。
「これが、ガイドフォンってやつか」
それは現実世界において、スマホに電話が掛かってきたのと同じ状況。
電話のアイコンをタップすると、そこには通話相手として『カズハ』と表示される。
俺をこの世界に引き込んだ、知人の名。
実際には、この人を含めて現実世界でスマホで会話自体があまりないんだが、それはさておき。
『通話』をタップする。
ガイドフォンからは、この一年で聞き慣れた女子の声が聞こえてきた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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