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⑤現在 〜光明〜

 俺は頭を回転させた。回転させるしかなかった。この場を逃れ、妻の怒りを鎮めるために。




 素直に謝るのもいいだろう。相手が普通の状態ならばそれがベストだ。しかし相手はあの妻であり、しかも寝起きで苛立っている。謝ったところで許してもらうのは不可能に近い。

 発想を転換させろ。謝るんじゃない。それではマイナスを取り繕うことしか出来ない。後ろを向いて反省するのではなく、前を向いて挑戦するんだ。

 しかし何も思いつかない。天啓はふってこない。さっきはふってきたのに。そう、妻の手を離す方法を考えて行き詰っていた時、脳内にコア君の声が聞こえてきて…

 …妻は眠りながら俺の手を握っていた。妻が手を握るのは、妻曰く()()()()()らしい。なぜ甘えたい?なにか理由があるのか。

 人が甘えたい時は、何かをして欲しい時だ。例えば今の俺のように窮地を救って欲しい時とか、あるいは成功を祝って欲しい時とか。

 祝う?そういえばコア君は言っていた「()()()()()()()()()ぼくを選んでくれてうれしかった」と。そしてコア君は、俺が妻にプレゼントしたのだ。動物園に行ったとき…()()()()()、動物園に行った時!

 コア君は妻への誕生日プレゼント。プレゼントしたのは去年の今頃。そして妻は今日の朝に限って手を繋いで甘えたがっていた。

 確証はない。いやそれが真実でも、妻の機嫌が晴れるかは分からない。

 しかし俺はもう、止まることは出来ない。


 ―穏やかな休日を取り戻すために。


 俺は声の震えを抑えながら何とか口を動かした。

「ごめん。今日は早く起きなくちゃと思って、事前に目覚ましをセットしておいたんだ。

 結局トイレで目が覚めたから、目覚ましの意味はなかったけどね」

「…なんで今日は早く起きなきゃいけないの?」

「当たり前じゃないか」

 俺はさも当然といわんばかりの声音を作って言い放った。

「今日はきみの誕生日だろう?寝ているなんて勿体無い!早く準備して、モーニングでも食べに行こうよ」

 言い終わると同時に、俺はトイレの扉を開けた。

 目の前には妻がいた。その表情は引きつっていたけれど。

「しょうがない人」

 と苦笑してくれた。




 …まずは勝利といって良いだろう。うまく取り繕えたようだ。所詮は妻である。俺と結婚するような女なのだから、他愛ない、他愛ない。

 しかし俺の戦いは終わらない。今日一日のデートプランを考える必要がある。無論、今日が妻の誕生日だなんて覚えていなかったから、準備など皆無である。皆無であるが、それを悟られず、以前から考えたとっておきのデートプランですという顔をしながら妻を楽しませる必要がある。

 前途は多難だ。一筋縄ではいかないだろう。頭脳戦はまだまだ続く。しかし。

 

 ―人生とはそういうものなのかもしれない。

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