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④数分前→現在 〜失敗〜

 勝った…勝った!

 トイレに入り、扉を閉める。疲労と緊張から開放された俺は、跪いて喜びを噛み締めた。ついにトイレへと辿り着いた。妻を起こさず、完璧に。時間はかかった。しかしまだ起きてから3分程度だろう。用を足して同じ手順で帰れば6時前にもう一度ベッドへ戻れる。そうしたらコア君を妻の手から解放して再び恋人繋ぎをして、完了だ。7時まで1時間ほど二度寝を楽しめる。今の高揚感を持ったまま二度寝など出来るかは不明だが、目覚めてから一連のやりとりで疲れているから、返ってよく寝られるかもしれない。

 もっとも、寝られるかどうかはもはやどうでもいい気がした。やりきったことが重要なのだ。

 俺は息を整えてパジャマのズボンに手をかけたところで。

 ピピピピピッ!

 遠くでアラームの音がした。

 ピピピピピッ!

 方向は、寝室。

 ピピピピピッ!

 俺は何も出来ず固まっている。

 ピピピピピッ!

 アラームはまだ鳴り止まない。

 ピピピピピッ!

 トイレに居ても聞こえるのだ、相当な音量で鳴っている。

 ピピピピピッ!

 寝室には当然妻が寝ていて…

 ピピピ…

 …音が鳴り止んだ。いや、正確には()()()()()()()。つまり、誰かが止めたのだろう。

 誰が止めたのか?寝室にはいま、妻しかいない。だから寝室のアラームは妻が止めたに違いない。

 もちろん、目を覚ましてから。

 …嘘だ。そんなはずはない。妻が目を覚ましたなんて、いままでの俺の努力はなんだったのだ。

 いやそれより、なぜアラーム音が鳴った?音源はおそらくサイドテーブルにあったデジタル時計だろうが、目覚まし時計の機能は使っていないはず…

 …デジタル時計にはアラーム機能がある。妻が料理の際よく使っている。3分後にセット出来る機能があると言っていた。

 目覚しの機能ではなくアラーム機能が作動したのか?しかし誰が、どうやって。

 寝室には俺と妻しかいない。妻は寝ていたのだから、妻でないとしたら犯人は俺しかいない。

 俺がアラームをセットした?そんなはずはない。そもそも俺はアラーム機能など使ったこともない。

 …そこで気付いた。数分前、俺は、様々な検討の結果トイレへ行くのが最善と判断した。目を開け、デジタル時計を見たら5時45分だった。本来ならもっと寝られたらと思い、俺は怒りのままデジタル時計を握り締めた。()()()()()()()いた。そのときミシッとか()()()とか音がした。そして妻曰く、このデジタル時計は()()()()()()()3()()()にアラームがセットされる。

 俺はデジタル時計を握り締めた時、ボタンを押してしまったのか?そのまま押し続け、3分後にアラームを設定してしまった?

 確かに時間の計算は合う。起きてからここまで3分程度…

 そんな馬鹿な偶然が。

 ―いや、馬鹿は俺なのか。


 トイレの中で呆然としていると。

 コンコン。

 とノックの音がした。

 背筋が伸びる。

 妻だ。アラームで起こされた妻が、今、ここまで来たのだ。

 起きて、ベッドに俺がいないことを確認して、とりあえず廊下に出て、そして、トイレのドアをノックした。

 今、扉一枚を隔てて、妻がいる。無理矢理起こされて、苛立った妻が、すぐ目の前にいるのだ。

 俺は何もアクションを起こせず、そのまま黙っていた。

 すると扉越しに、妻が声を発した。

 剣のように鋭い声であった。




「ねえ。私の眠りを妨げてどういうつもり?嫌がらせ?」

 俺は今、妻に問い詰められている。確かに、俺の責任に違いないだろう。それは謝るしかない。しかし、俺は出来得る限りの努力をしたのだ。それがこんな形で瓦解するなんて。

「返答によっては、分かるよね」

 妻の言葉に、俺は息を飲んだ。

 後悔してもしきれない。あの時もっと慎重に行動していれば。そもそも俺がトイレに行かなければ。

 後悔はある。しかし、今は現実と向き合うしかない。

 手はあるはずだ。ここまでいくつもの苦難を乗り越えてきたんだ。はったりでもいい。この場を逃れる手段が、きっとどこかに。

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