第66話 祝福の朝
快晴に恵まれた春の土曜日。
透き通るような青空の下、雅紀と美優さんの結婚式が行われた。
式場は緑豊かな郊外のガーデンチャペル。
白いアーチに淡いピンクの花が絡まり、まるで春そのものを閉じ込めたような場所だった。
会場に着いた私は、胸の奥がふわりとあたたかくなった。
「雅紀、似合ってる」
控え室でタキシード姿の雅紀を見て、姉の希美がにっこりと微笑んだ。
隣には、すっかり頼もしくなった希美の夫・涼くんの姿もある。
優斗は、カメラを片手にずっと目を細めながら息子を見つめていた。
「こんな日が来るんだなあ…」
そうつぶやいた夫の言葉に、私も静かにうなずいた。
式が始まり、ゲストが見守る中、チャペルの扉がゆっくりと開いた。
白いドレスに身を包んだ美優さんが、お父様と腕を組み、ゆっくりとバージンロードを歩いてくる。
その瞬間、雅紀の目が少し潤んだのがわかった。
「お母さん、雅紀泣きそうだよ」
希美がそっと私にささやく。
「そうね。きっと、いろんな思いがこみ上げてるんだと思う」
私も胸がいっぱいだった。
式の最後、ふたりが両親へ感謝の手紙を読む時間があった。
雅紀は一度、大きく息を吸ってから、静かに語り始めた。
「お父さん、お母さん。今まで本当にありがとう。
反抗期のとき、何も言わずにそっとしてくれたこと、
サッカーでくじけそうだったとき、一緒に走ってくれたこと、
勉強がつらいとき、励ましてくれたこと、
全部、覚えています。
ここまで来れたのは、家族のおかげです。
これからは、自分も誰かを支える側になります。
今まで育ててくれて、本当にありがとう」
その言葉に、私は手にしていたハンカチをそっと目元に当てた。
隣で、優斗も黙って目を閉じていた。
披露宴では、雅紀と美優さんが手を取り合い、各テーブルをまわりながら笑顔をふりまいていた。
ふたりの目に映る未来が、どれほど明るいものであるかが、こちらにも伝わってくるようだった。
結婚式が終わる頃、夕暮れの空に淡いオレンジがにじんでいた。
「お母さん」
雅紀が近づいてきて、照れたように言った。
「これからも、よろしくお願いします」
私は小さくうなずいて、彼の手をそっと握った。
「こちらこそ。家族が増えるって、こんなにうれしいんだね」
息子の旅立ちは、少しだけ寂しくて、だけどそれ以上に誇らしい。
私たち家族の物語はまた、新しい章を迎えたのだった。




