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第62話 それぞれの春

三月のやわらかな日差しが、我が家のリビングに差し込んでいた。

テーブルの上には、晴れやかな顔の息子が並べた卒業証書と、大学から届いた入学許可書があった。


「おめでとう、雅紀。ついにここまで来たね」


私は笑いながら言ったが、心の奥ではこみ上げるものを抑えきれなかった。


「ありがとう、母さん。まだまだこれからだけど、やっとスタート地点に立てた感じ」


中学時代から変わらないまっすぐな瞳で、雅紀は答えた。



小学生の頃から走るのが大好きで、ボールを追いかけては泥だらけになって帰ってきた。

高校では強豪チームの中で厳しい練習にも食らいつき、途中ケガで長期離脱したときも、腐らずリハビリに励んだ。


その姿に、親として何度も学ばされた。


「体育教師になるって決めたんだ。自分が支えてもらった分、今度は支える側になりたいって思った」


大学の願書に書いたその言葉に、私も優斗も、静かに涙をにじませた夜を思い出す。



一方、娘の希美からは、時折LINEに日常の写真と共にメッセージが届く。


「今日は旦那さんとカレー作ったよ!ちょっと辛すぎたけど(笑)」


「洗濯物、干したのに急に雨降ってきた〜!!もう!」


結婚して半年、新婚生活はまだまだ手探りのようだが、そんな毎日を少しずつ楽しんでいるのが伝わってくる。


この前は、ふたりで家具を見に行ったという報告とともに、インテリアのことで小さな言い争いをした話が添えられていた。


「でも、ケンカしても、ちゃんと話し合えるから大丈夫だよ」


そう書かれていたのが、何よりも嬉しかった。



ある週末、娘夫婦がふらりと顔を出した。


「ちょっとだけ、母さんの味が恋しくなって…」


そう言って、冷蔵庫を覗く姿に、ああ、本当に家族っていいな、と思う。



雅紀は四月から、体育大学で教育実習や専門課程の授業に取り組む。

希美は新しい家庭で、夫婦という関係を育んでいる。


子どもたちは、確実にそれぞれの道を歩き始めていた。



その背中を、私たち夫婦は少し離れた場所からそっと見守る。

手は離れたけれど、想いはいつもそばにある。


春の風に乗って、家族の未来はまたひとつ、あたたかな色で染まっていくのだった。



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