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第52話 春、夢の扉開くとき

年が明け、寒さが一段と厳しくなった頃──我が家には、ふたつの受験シーズンが訪れていた。


希美は美容専門学校の推薦入試に臨んでいた。

実技と面接の練習は、自室でもリビングでも繰り返された。特に面接練習は、私が相手役を務めることが多かった。


「あなたが美容師を目指す理由は何ですか?」

と、わざと少し厳しめに聞くと、希美は背筋を伸ばし、真っ直ぐに私を見て答えた。


「人を笑顔にしたいからです。髪型ひとつで、気持ちが明るくなることを、私自身が体験したから」


その言葉に、私は思わず胸が熱くなった。小さい頃の彼女は、鏡の前で髪を結んだだけで、はにかみながら笑っていた。

その笑顔の記憶は、彼女の中でずっと生きていたのだ。



雅紀は、毎日サッカーの朝練と塾通いを両立していた。

土日は強豪高校の練習体験にも参加し、帰宅するたびにヘトヘトになりながらも、「楽しかった」と笑っていた。


試験当日の朝、私は彼の背中に「頑張ってね」と声をかけようとしたが、言葉が喉に詰まってしまった。

彼はそんな私の様子に気づいたのか、ランドセル代わりのリュックを背負いながら、振り返って言った。


「大丈夫。やるだけやるよ」


その一言に、私たち夫婦はただ静かにうなずくしかなかった。



春。桜が咲き始める頃、我が家にふたつの嬉しい知らせが届いた。


希美は第一志望の美容専門学校に合格。

雅紀もまた、サッカー推薦で強豪高校への合格を果たしたのだった。


「受かったよ!」

リビングに飛び込んできたふたりの笑顔は、何よりもまぶしく、誇らしかった。


その夜、優斗と私は子どもたちが寝静まったあと、ワインを一杯ずつグラスに注ぎ、小さく乾杯した。


「これでまた、新しい一歩だね」


「うん。もう“子ども”じゃないんだなぁって思った」


私たちの子どもたちは、夢の扉を自分の手で開いた。

そして、私たち夫婦もまた、彼らの成長を静かに、でも確かに支え続ける存在として、新たな親の姿を模索していく。


家族は、日々かたちを変えながら、前へ進んでいく──。


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