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第38話 変わりゆく季節、変わらぬ願い

時の流れは、本当にあっという間だった。


希美はもう中学生になり、背もいつの間にか私の肩を追い越していた。小さなランドセルを背負っていたあの背中は、今やスマホを手に、友達とのグループチャットに夢中になっている。


「ママ、今日、塾遅くなるから晩ご飯いらない」


「え? あんなに好きだった肉じゃが作ったのに…」


「ごめん。でもテスト前だから、友達と図書館行くの」


そう言って、ヒョイとリュックを背負って出かけていった。


私はその背中を見送りながら、寂しさと誇らしさが入り混じる不思議な気持ちになっていた。




雅紀も小学高学年に進み、少しずつ思春期の気配をまとい始めている。


「ママ、教室でさ…女子がめっちゃうるさいんだよ。なんであんなにキャーキャー言うの?」


「ふふ、それが思春期ってやつじゃない?」


「やめて。そういうの、ウザいって言われるんだよ」


「え、わたしウザいの!?」


「う、うそ…でも、ちょっとだけ」


そう言って照れくさそうに笑う息子に、私は内心ほっとする。まだ、こうして言い合える距離にいてくれる。




一方で、夫・優斗との関係も、落ち着きながらも新しいフェーズへと入っていた。


「最近、老後資金のこととか考えるよね」


「うん。もうさ、定年までに何ができるかじゃなくて、“定年のあとどうしたいか”が大事な気がして」


「俺、もしできるなら、地方の小さな町で観光案内みたいな仕事、続けてみたいんだ」


「…素敵じゃん。私は、小さな図書室を開きたいな。子どもも大人も、本とおしゃべりができる場所」


「いいね、それ」


仕事帰り、駅前の喫茶店でコーヒーをすすりながら、二人で語り合う“これからの暮らし”は、どこか青春の延長のように感じられた。




そんなある日、希美が突然ぽつりと言った。


「ママって、なんで結婚したの?」


「え? どうしてって…好きだったから」


「ふーん。じゃあさ、好きだけじゃ結婚できないこともあるよね?」


私は少し驚いたが、真剣な表情の娘を前に、誤魔化さずに答えた。


「そうだね。好きって気持ちだけじゃ続かない。でもね、一緒に歳を重ねたいって思えたら、それがたぶん“家族になれる人”なんじゃないかな」


「……ふーん。じゃあ、パパは“歳を重ねたい人”だったんだね」


「うん、そうだよ」


その日の夜、食卓で何気なくその会話を話すと、優斗はちょっと照れたように笑って言った。


「いやぁ、そう言われると、もっとかっこよくしとけばよかったなぁ」


「遅いよ。もう十分しわだらけなんだから」


そんなやり取りに、子どもたちが大笑いした。




変わっていく日々、少しずつ距離が生まれ、それでもまた戻ってきて交わる時間。


思春期の子どもたちを前に、私たち夫婦も“親として”ではなく、“人として”どう生きていくかを問われるような気がしていた。


けれど、それは決して悪いことじゃない。


「変わることを、恐れない」


それが、あの頃の“私”が決意した生き方だったのだから。



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